第21話 道中、そして田舎くらしとおじいさま 1
「王都があんなに小さくなっていくよ」
ココが馬車に乗りながら、窓から見える王都を指さした。キキもココと一緒に小さくなっていく町並みを物珍しげにみつめていた。
ココとキキにとっては、初めての長期の移動である。ココとキキの年齢くらいに、ソフィアはお祖父様のところへ行っていた。
本来ならココとキキもお祖父様の家に行く予定だったが、ちょうど機会が巡ってきた。ココとキキもあちらでたくさんのことを学ぶだろう。
「キキ、このお洋服……大切に着るの」
景色を眺めてキキは寂しそうに呟いた。
キキとココは色違いの服を着ていた。双子ファッションはよくするのだが、この服に思い入れがあるのはそれだけの理由ではなかった。
ココとキキが初めてできた親友。カレンさんたちの娘・マーサともおそろいで服を作ったのだ。それがソフィアの最後の仕事になった。
マーサとカレンさんの服を納品したあと、マーサからぜひと頼まれて製作した三人のお洋服。ココは桃色、キキは青、そしてマーサは黄色のドレス。どれも淡い色味でこれから花が咲き始める季節にはぴったりである。
アルーニ氏からもらった上等の生地を惜しむことなく使った。採算度外視であり、三人の思い出の品として作りたかった。
「ココも大切に着るもん。マーサが暑くなって、学校がお休みになったら遊びにくるって。パパとママと一緒にくるって約束したの」
離れるときはマーサ、キキとココの三人は大粒の涙を流していた。出会って短い時間だったが、彼女らは濃密な時間を過ごしたようだった。
マーサは親の都合で引っ越しが多く、同じ年の友人が少なかった。ココとキキはお互いばかりで、自分たち以外で心を許せる同じ年の友人がマーサだった。
お互い無二の親友として思い合っていた。別れは辛かっただろう。
ソフィアも見ていて胸が苦しくなったものだ。
「お手紙を書きましょう。大丈夫、あなた達ならきっといつまでも友達でいられるわよ」
重なる姿。それはオスカーの泣き顔。ソフィアが長期間お祖父様のところへ行くと決まって別れることになったときも、このように別れた。そして手紙を交換した。
マーサとココ、キキたちならばきっと大丈夫。そうソフィアは自分に言い聞かせた。ソフィアとオスカーのように、年齢を重ねていき、心がすれ違ってしまわないように祈った。
「姉さまは、オスカーと離れちゃうの?」
不意にココがソフィアに問いかけた。ココは真っ直ぐソフィアを見つめていた。クリクリのエメラルドグリーンの瞳。少し泣き疲れたのか、ほんのり赤みが差している。
「どうしたの?ココ?」
「んー、最近オスカー見ないから。なぜだろうって」
「そうね。姉さまとオスカーは結婚しないことになったから……かな」
「結婚しないと、もう会わないの?友達みたくなれないの?」
「どうなのかしら、一般的には離れることが多いかもしれないわね」
「ふーん。結婚しないと一緒にいられないんだ。だったら友達の方がいいね。ずっと会えるもん」
「確かに、わたしもそう思う。友達ならよかったのかなって」
「残念だね」
「ええ」
ココは妙に鋭いことを聞くことがある。おっとりとしているが、物事に聡いことがあるようにソフィアには思えた。こういう面は父に似ている部分もあるのかもしれない。
感受性があるので、たまに傷つきやすいこともある。
だがそんな繊細な部分も、ココのいいところだ。嘘のない答えがきっと一番ココが納得できると思った。
ソフィアはココと話して、改めてオスカーを思い出した。彼とはあの日別れたときから音沙汰がない。
彼の求婚をはっきり断った。今まで何度も断ったが、これで最後だと思って、強く拒絶したつもりだ。下手に迷ったらオスカーにも未練が残る。もっと傷つけてしまう。
これでよかったのだ、ソフィアは何度も心のなかで繰り返した。
そして馬車は順調に進んでいく。王都から離れ、丘越える。森を抜ける。
数日たつと見えてくる花畑。花々が美しく咲いていた。ここから始まる田舎生活。美しい光景がソフィアたちを歓迎してくれた。
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