チョコレートの誘惑

みなづきあまね

チョコレートの誘惑

分からない、理解不能。普通お土産や差し入れを貰ったら、感想はともかく、お礼は言うものでは・・・バラマキ土産なら言わないかもしれない。でも私のチョコレートは老舗で買った、れっきとした小洒落たラッピングの小箱入り。


ことは今週初め。出張から戻り、最初の日。なにかと仕事でお世話になっているからと、何気なく小さなチョコレートをお土産に買った。その日はどの部署も会議だったし、直接渡すのは気恥ずかしく、大きな付箋に普段の感謝を書き、机に貼った。その上に小箱を置いた。


誰がどうやっても机の真ん中にあるから分からないはずがない。付箋にも、小さな字ではあるが、「甘いものが苦手ならごめんなさい」と追記し、名前も書いた。なのに3日目、反応なし。


当日、会議から戻ってきた彼の様子をドキドキしながら見た。席に座る前に机の上に置かれた付箋を絶対に読んだようだった。いつ声をかけられるか。


直後には何もなかった。彼が私の近くを通ってもなし、すれ違ってもなし、挙げ句の果てには仕事の話をしにきたのに、なし。


しかも付箋はどこへやら、小箱はひっくり返ってる状態で、机とパソコン台の隙間に見事滑り込んでいるではないか。食べた様子は、リボンが解けてないため、ない。


夜には完全に小箱が隙間に収納されており、引っ張り出したくて仕方なかった。


なんだかんだで3日経過し、今日に至る。未だにお礼も感想もなし。やはり甘いものが嫌いだったのかも。でも机の上には誰かのお土産のアポロを食べ終わった袋が。私のチョコレートは今どこへ?


数時間後、彼の後ろを通りかかる。あれ?白い箱をいじってる?自意識過剰だと嫌だから、意を決して二度見する。あ、金色のリボンと白い箱。私のチョコレートの箱を解体していた様子。でも、食べたかは不明。何かと様子を伺っていたけど、大粒のチョコレートを頬張った瞬間には出会えてないから。


午後、また机近くを通過。あ、私の付箋。まだ隙間から少し見える位置に貼ってある。すぐ捨てられなかっただけ嬉しい。


彼が退勤した後、机の上は整理され、箱も付箋もない。念のため彼の横にあるゴミ箱を見たけど、ピンクの付箋は見当たらない。まあ、捨てたかもしれないけど。金色のリボンだけ机の真ん中に置き去りにされていた。


食べたのか、誰かにあげたのか。何故一言も言ってくれないの?!


それでもさらに経過した日、彼が休みの日。机の上のマウス付近にまだある金色のリボン。多分何の意図もなく、ただ放置されているだけかもしれないけれど、ちょっぴり期待した。


コピー機前に立つ彼を、こっそり鏡ごしに眺める。正面を見つめている彼の顔が、若干私のいる方向を向いた。


あ、見られてる?ドキドキして動きが止まる。いや、後ろにいる可愛い同僚をみているだけかな。


視線が本物だといい。そう日々思いながら過ごす。チョコレートも視線も掴めない。思い上がりでもいい、少しだけ夢を見させて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チョコレートの誘惑 みなづきあまね @soranomame

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ