第3話 始まらない……
委員会決めをした翌々日の放課後。アルバイトの帰り道。
あのときはひどく動揺したが、今思うと別に大したことなさそうな気がする。
だってずっと綾瀬と一緒にいるわけじゃないし。委員会の間だけだし。
そもそもそこまで怖くはないのかもしれないしな。あくまで噂だ。
明日委員会の顔合わせがあるらしいので、そこで綾瀬との距離感を掴んでいけばいい。
まあ、綾瀬がどんな人でも、関わらないようにするのは決まってるけど。
ちなみにあの後、イケメン君中心に「明後日クラスの親交を深めるためにカラオケでも行かないか?」なんて話していたが、僕が今アルバイトの帰りなのを見て分かる通りお断りした。
断るといっても自由参加だったから心の中でだけど。
そんなわけで、ひとり帰り道を歩いていた。
ふと目に入るのは先日ヤンキーと少女に遭遇した場所だ。
あれから特に考えることなく同じ道を通っているけど、あの少女はさすがにここを通るのをやめただろうか。
ついでにあのヤンキーもヤンキーをやめたほうが良いと思う。
なんてあてもなく考えていると、なんとその少女が立っていた。
この前隠れていた電柱のもとに。
だけど前と違うのは、今日は隠れてないことと、隣にもう一人金髪の少女がいることだろうか。
二人はきょろきょろと誰かを探しているような仕草をし、僕を視界にとらえると、目を見開きぺこりとした。
そして僕のところに近寄ってくる。
「こ、こんばんは、ぐ、偶然ですね!」
「あ、うん、こんばんは……」
そんな偶然あるか?
黒髪の彼女に愛想笑いを返しながら、隣の彼女を見て――僕は硬直した。
「あ、突然すいませーん。なんか
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! それは言わない約束……」
金髪の彼女はウインクをする。
どうやら柚希(?)ちゃんは僕に会いたがっていたらしい。つまり偶然ではないということだ。
しかも二人は姉妹っぽい。
いやそんなよりも――
「てかお兄さん、その制服――」
姉と呼ばれた彼女は、小さく首を傾げた。
金髪のショートヘアーがさらりと揺れる。口元にかかったそれを掬いながら、上目づかいで続けた。
「
仕草があざといのは置いておいて、まずいことになった……。
まさか助けた少女のお姉ちゃんが同じ高校だなんて。
「あ、まだ名乗ってませんでしたね、ウチは
「い、いや二年生だ……」
陽木高校の制服は学年が分かりやすいように襟元についた校章バッチの色が違う。
南咲良と名乗った彼女の制服を見ると確かに、バッチの色は赤……一年生だった。
「あ~二年生でしたか~。すいません、ウチってバカなので☆」
彼女はてへっと舌先をちろりと出し、パッチリウインクする。
あ、ほんとにバカなんだ……。僕は確信した。
だってそんなことする人、バカ以外いないもんね!
「お、お姉ちゃん……」
「ごめんごめん。――そういうことなんで、よかったら妹と仲良くしてくれませんか?」
「あ、あの、よかったら連絡先を……」
いやいやどういうことなんだよ。
南姉はニッコリと笑い、南妹は頬を染めながら目を泳がせている。
僕は思わず頭を抱えそうになるが……一旦整理しよう。
三日前僕は少女、南妹を助けた。
連絡先交換を断られた彼女は姉(陽木高校一年生)を連れて、再度交換を求めてきた。終わり。
これはあれだな。きっと南妹はあの件で僕に惚れて、姉が協力しているのだろう。
……。
めんどくせえええええええ!!
僕、倉持傑琉は、ぼっちに生きる人間だ。
ぼっちは人間関係に囚われずに、自由に生きる自由人のことを言うが、人間関係のなかでも、恋愛に関わることは特にめんどくさい!
僕はそれを身をもって体験していた。
思わず中学のころを思い出して――……だめだ。またテキトーに濁して帰ろう。
僕は軽く頭を振り、苦笑いを浮かべる。
「あ、あはは…………すみません、用事があるので帰ります」
言って、彼女たちの横を通ろうとして、
「いやいやいや~」
がばっ。
南咲良は、僕にしがみついて。
下腹部に感じる柔らかな感触や、鼻腔をくすぐる甘い匂いに、僕は身の毛がよだちのけ反った。
彼女を見下げれば蠱惑的で挑発的な笑みを浮かべている。
「ふふん、そう簡単には逃がしませんよ――せ、ん、ぱ、い♡」
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まあ、僕を狙っているのは姉じゃなくてあくまで妹のほうなんだが……。
南咲良に捕まったあともうまく流そうと誤魔化し続けていたが、結果的に僕が折れる形で、LINEを教えることになった。
今まで二人だったLINEの友達欄に二人も増えてしまった。倍増だ。
なんで姉のほうとも交換したのかといえば、「え~? ウチとは交換してくれないんですかあ? うるうる」なんてアヒル口をする彼女に抵抗する気も失せたからだった。
あざとい女ってより、ウザい女だ……。
柚希ちゃんには申し訳ないけれど、姉の印象のほうが強く残っちゃうぜ。
「それじゃ、妹のことよろしくお願いしますね、く、ら、も、ち、せんぱい♡」
「よろしくおねがいします……っ!」
よろしくされねえよ。
なんて言えずに、「あは、あは、あは」と彼女たちが遠ざかっていくのを僕は見送ったのだった。
「はあ……」
一年のときは何事もなくぼっち生活を送れたのに……。
二年生になって一週間足らずで、綾瀬、南姉妹と、なんだか爆弾を抱えた気分だ。
これから先にいやな予感がプンプンする。
ため息をつき夜空を見上げれば、星たちが雲に隠れていた。
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