第5話 あらやだ! どっかに飛んでっちゃったわね!

 軽い気持ちで買った宝くじが高額当選した。


 とはいえ、一生遊んで暮らせるレベルではないんだけど。とりあえず、引っ越しは無しだ。荷造り面倒だし。バイトも辞めるつもりはないし、コウちゃんがいない分を補填する感じで使えば、まぁギリギリ1年はこの暮らしを維持出来るだろう。


 その間に養ってくれそうな新しい人を探せばオッケーオッケー。


 なんて、やっぱりクズなことを考えて帰宅すると。


「あらっ、んまぁ――――っ! ひっどいわねぇ、もうっ!」


 ヨシエさんが定位置であるテーブルの上に、ごろりと寝そべってテレビを見ていた。さすがに何も敷かないと身体が痛いとギャーギャー騒いだので、タオルを折りたたんで長座布団代わりにしている。


「あら、みくちゃん、お帰り。ちょっと! 酷いのよ、この人!」

「もう何なんですか、うるさいんですけど」

「酷いのよ! 結婚前とね、ちょぉーっと体型が変わったってだけでね、旦那さんから離婚を突き付けられたんですって! 詐欺だ、って!」


 興奮気味に指差したのは、ダイエット番組だ。どうやらその人は離婚を回避するためにどうしても痩せたいらしい。


 そういえば、と視線を落とす。

 

 私も最近ちょっとお腹周りがヤバいような……。

 連日の酒盛りのせいかな。ま、今日も飲むけど。宝くじ当たったし。


「まぁでも、痩せるのは良いんじゃないですか? わぁ、結婚式の写真、めっちゃきれい」


 こんなきれいなお嫁さんが2年で30㎏も増えれば詐欺だと言いたくもなるだろう。


「そこまで見越して選ばなかった男の方が悪いのよ!」

「そうかなぁ……。ていうか、ヨシエさんも少し太ったんじゃないですか?」


 ここに来てまだ1週間も経ってないのに。


「そぉーんなことないわよぉ。――よいしょっ!」


 掛け声とともに、ぶふっ、とおなら。ほんとやめて。


 そしてその、ぶふっ、と共に。

 パンッ、という音がして、米粒より小さな黒いものが視界を横切った。


「ちょ、いまの何!? 虫!?」


 ウチ、殺虫剤とかないんだけど!


 とりあえずティッシュを1枚抜き取って臨戦態勢をとる。すると――、


「あらやだ! ボタン弾けちゃったわ! んもぉ~、あたしったらグラマラス~!! アーッハッハッハ!」


 アーッハッハッハ、じゃないでしょ。うわ、パンツ見えてんじゃん。どうすんのよ。


「見せパン履いてて良かったわぁ~! セーフ!!」


 アウトに決まってるだろ、ババア。

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