ダビデ 愛と戦の果てに

だびで

第1話 月夜の出会い

庭園の方から美しいたて琴(ハープ)の旋律が聴こえてくる。


こんな夜中に‥‥‥。


その音色は、ただ心地いいだけでなく、聞いている人の心に染みてくるようだった。

私は蝶が花の香りに誘われるように庭園の音色の方に吸い寄せられた。


大理石で出来た椅子のところに誰かが座って、たて琴を弾いていた。

夜とだけあって暗くて、よく見えないな‥‥。

 きっと、王宮の音楽家の方だろう。私は茂みに隠れて曲に耳を傾けていた。


 雲が途切れ月光が庭園に降り注ぐ。私は目を疑った。


そこにいたのは…‥‥。


私と同じくらいの少年だ。私は彼から目が離せなかった。髪は金髪で月の光を柔らかに反射している。

思わず息を飲む。


あの美少年は‥‥‥。ダビデ様だ。

思わず見とれてしまった。早く寮に戻らないと‥‥‥。

急いだ拍子に石を蹴飛ばしてしまう。

私のバカッ。いつもつまらないミスをする。

ダビデ様がそれに気が付いて演奏をやめる。


「そこに誰かいるのですか?」


もう、隠れてもしょうがないな。私は茂みからでてダビデ様の前に立つ。


「君は‥‥‥。確かヨナタン様の従者をしている娘。マナ?」


私のことを知っていてくれたことは、嬉しい。

思わず踊ってしまいそう。


「はい、名前を憶えてくださったのですね。」


「マナ…‥。いい名前だ。モーゼ様の時代を思い出す。」


「ありがとうございます。両親が神の祝福があるようにとマナと名付けてくれたのです。」


「そうかしこまらないで、私も従者に過ぎないのだから。サウル王の元で演奏をしているダビデだ。」


彼は宝石のような済んだ瞳をしていて、美少年という言葉がぴったりだと思う。私は心臓が今にも飛び出してしまいそうだった。


「きっと、これも神の導きなのかもしれない。よかったら少し話さないか?」


「わっ私で宜しければ‥‥‥。よろこんで。」


突然の申し出で私はダビデ様の横に座った。

そこまでは良かったけれど。緊張で生きた心地がしないよ。

私は野兎のように大理石の椅子の上で縮こまってしまう。

 ダビデ様が美しすぎて目を見てはなせないよ。


「つい先日、ヨナタン様の従者に呼ばれて王宮に来たんだ。王の音楽家がいないから、羊飼いをしていた私が呼ばれたんだ。」


ダビデ様は美しい顔をしているのだけれど、声は低く男らしい。その声を聴くたびにどきりとしてしまう。


「わたしも、父が小料理屋をしていて、そこで接客をしておりました。」


ダビデ様はニコリと笑うと

「それでは、お互い庶民出身というわけだ。」

「はい…‥そうですね。」

「私は王の就寝前の音楽を務めないとならない。本当はもう少し話したいのだけれど‥‥‥。マナまた話そう。」


「はい、あの…‥ダビデ様にヤーヴェ(イスラエルの神)の祝福がありますように。」


「君にも祝福がありますように。」


そう言い残すとダビデ様は王宮の方に、小走りで向かっていった。

走っている姿も美しいなあ。


その時は、ダビデ様は美少年に過ぎなかったのだけれど、間もなくイスラエル王国を率いて戦うメシアになるとは、私も他の誰も信じてはいなかった。


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