現代魔術の間違った使い方

いざよいあぐな

第1話 「不良少年、黒神秋夜」

「『魔術』が2050年に初めて確認されてから49年、『魔物』共との戦の歴史も49年、そして俺が学校辞めてからは1年……か」


 曇り空のもと、誰にともなくそう呟いた少年は、退屈そうに『ゴブリン』の首を刎ねる。

 彼は今年で17歳になるが、今は学校には通っていない。彼は、他人に自分の『魔術』を教えられる変えられることを嫌ったのだ。


「青春ってのも、してみたい気持ちはあるが、俺の『肉体魔術』を1から10まで否定されるような場所には居られねぇよなぁ……」


 彼、黒神秋夜くろかみあきやはつまらない事を嫌い、面白い事を好むというわかりやすい性格だ。そのため高校生活は非常に楽しみだったのだが、自身のアイデンティティである『肉体魔術』を否定されたことにより自ら退学の道を選ぶ。

 そして現在は『魔物』や『魔族』と戦い、人々の平穏な生活を守る仕事である『ハンター』が秋夜の職業だ。

 今もその仕事中だ。群れを成して行動する低級の『魔物』である『ゴブリン』の討伐に来ているのだ。


「後ろを取ったならもっと早く殴ってみろ!」


 そう言いながら秋夜は背後に迫っていた『ゴブリン』の頭に自身のを叩きつける。

 刹那、その『ゴブリン』から頭部がなくなった。


「ギェッ!」

「ギョグヨォ!!」


 その凄惨な光景を見て、『ゴブリン』達は慌てて逃げ出そうとする。


 だがその先には……


「悪いな、討伐依頼なんだ。大人しく死ね」


『魔物』よりもよっぽど恐ろしいモノが居た。




 黒神秋夜のオリジナルである『肉体魔術』の特徴は、単純な身体強化だけではない。その本質は、ことにある。

 尤も、それに気づいた時にはもう遅い場合がほとんどだ。


「あーあ、つまんねぇ」


『ゴブリン』の討伐を終えた秋夜は退屈そうに帰路につく。


 帰り道、秋夜の住む区画の外門が見えてきたところで、少し離れた場所から悲鳴が聞こえた。


「おっ、これは結構楽しめそうだな」


 そう呟いたや否や、彼の肉体は悲鳴の元へ向かっていた。

 約3秒後、音の半分位の速さで動いた秋夜を迎えたのは『ブラッドウルフ』を中心とする『マジックウルフ』の群れ、そしてそれに襲われている1人の美少女だった。

『ブラッドウルフ』は中級の『魔物』で、『マジックウルフ』の上位種にあたる。この『ウルフ』系統の生態として最も有名なのが大規模な群れによる狩りだ。その被害は甚大で、村1つを滅ぼすこともある。

 そんな群れの今回の被害者がこのツインテールの美少女である。


「やぁやぁクソ犬共、寄って集ってか弱い女の子いじめかぁ?そんな事しなくても俺が相手になってやるよ!!」

「グルァァァ!!!」


 秋夜の伝わるはずがない挑発は、舐められたという事だけは『マジックウルフ』の群れに伝えられたようだ。

 早速5匹で囲むように飛び掛ってくる。


「ハッ!そんなに頭数揃えといて最初っから動くのは5匹だけかよ!」


 そう言いながら秋夜は腰から『ゴブリン』の血がついたナイフを抜き、5匹全ての心臓を貫く。

 その圧倒的な早業は、死んだことに気づかせない程のものだ。


「おいおいもっとやれんだろ、っとぉ!」


 秋夜が息の根を止めた5匹はどうやら時間稼ぎ役らしい。火、水、風、雷の4種の『魔術』が、間髪入れずに放たれ続ける。

 しかし秋夜の体には効かない。

 そして……


「グルァッ!」

「なっ!やるなクソ犬!」


 なんとその『魔術』すらフェイク!本命は『ブラッドウルフ』による直接攻撃!!

 秋夜はギリギリでガードに成功し、カウンターで『ブラッドウルフ』の首を掴む。


「ははっ、お前、なかなか面白かったぜ」


 そう言って秋夜は『ブラッドウルフ』の首を胴体からちぎる。

 群れのリーダーが呆気なくやられてしまったことにより『マジックウルフ』の群れは混乱。襲ってくるものもいれば逃げるものもいた。


「討伐依頼受けてるわけでもねぇし、いいか」


 そんな事を呟きながら面倒臭そうに襲ってきた個体をあしらう。


 こうしてその場に残ったのは、『ブラッドウルフ』の死体と『マジックウルフ』の死体が幾つか、そして黒神秋夜とツインテールの美少女だけとなった。

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