七夕

 「じゃ七夕の短冊、放課後までに書いて提出ね」

女の先生特有の高くも低くもない声が教室中に響いた。今日は七月七日という事で朝のHRに短冊の紙が配られた。高校生にもなって願い事を書くのは少し恥ずかしいし将来の夢何てまだ決まってもないから書くことがない。(まぁ放課後までには何か書けるだろう)僕はそんな安易な考えをしながら、一時間目の授業のためにバッグから筆箱を出した。

 

「ほら、短冊集めるぞ!終わってない人は放課後残って書いて廊下の笹につけとけよ」

先生の号令と共に皆が短冊を提出するために机から動き出した。だが僕は一歩たりとも机から動かなかった。いや動けなかった。(どうしよう、別に願いがない訳ではないが恥ずかしくて書けない。そうだ皆が帰ったの確認してからささっと書いて帰ろう)僕がそんな考えをしているうちに帰りのHRも終わり、生徒もまばらになっいたが、まだいない訳ではないのでスマホでもいじって時間を潰すことにした。

 

「よし!もう誰もいないな!」僕は教室をぐるりと見渡し誰もいないことを確認した。ずっと一緒に入られますようにって書くんだ。でも重いって思われるかな、いや匿名で書けば大丈夫。うん大丈夫。僕は意思を固めシャーペンで短冊に文字を書来始めた瞬間、

「龍ちゃん、短冊なんて書いた?」

朱音さんが後ろから声をかけてきた。

「フェッ!?だから後ろから声かけるのやめてくんないかな?」

僕は何度やられても慣れない出来事に多少声を荒げながら言った。

「つい反応が可愛くて、ごめんね。で短冊はなんて書いたの?」

「家族が健康でありますようにって書いたよ……」

僕は突然方向転換させた事で多少字が汚い短冊を見せながら嘘をつく事による罪悪感で最後の方をどもりながら言った。

「そうなんだ、私はねずっと一緒に入られますようにって書いたよ」

朱音さんはニタと笑いながら、綺麗な字で書かれた短冊を見せてきた。

「あー、家族とはずっと一緒にいたいもんね」

僕は顔を赤面させながらも誤魔化すように言った。

「このずっと一緒にいたいってのは家族とじゃなくて龍ちゃんとって意味よ」

僕は朱音さんの言葉に顔を沸騰させながら適当に相槌を打った。

「じゃ短冊付けに行こうか」

朱音さんのこの言葉を合図に、すっかり暗くなってしまった廊下に足を踏み入れた。

「あ!今流れ星ながれた!」

僕が二人分の短冊を笹に付けていると、朱音さんが子供みたいな声をあげながら空を指差している。

「早くお願いしなきゃ!龍ちゃんも手合わせて!」

僕は短冊を付け終えると、朱音さんと横並びになり手を合わせてお願いした。ずっと一緒に入られますようにと。

「朱音さんは何てお願いしたの?」

僕はなるべく恥ずかしいお願いをした事がバレないよう自然なトーンを作りながら質問した。

「私はねー、短冊にしたお願いと同じだよ!龍ちゃんは?」

朱音さんは全て見透かしてるよと言わんばかりのニタっとした笑みで僕に聞き返してきた。

「僕もそんなような事だよ」

僕は顔を最高潮に赤面させながら目線を逸らした。

「ふーん。そうなんだ、でも本当は流れ星何て流れてないからそのお願いは自分達で叶えなきゃダメだね」

朱音さんは突然、飄々と自然に自分の嘘を告白してきた。

「えー!何でそんな嘘つくの?」

「龍ちゃんの本当のお願いが聞きたかったから」

朱音さんは得意のニタっとした笑みをこちらに向けながら言った。大人になっても朱音さんには勝てなそうだ。

 

 

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