レイニー・ステップ

アンダンテ

プロローグ

 窓に幾つもの雨粒がピタピタと張り付いては、ツラツラと滑り落ちていく。お陰様で、その窓は流動的且つ抽象的な一枚の印象派の絵画のように思われた。しかも、その雨というのも、トントントントン…、といった具合に非常にリズミカル且つメロディアスであり、宛らショパンの「雨だれ」を夢想させるものであったので、僕は今、至上の芸術を目と耳で楽しんでいるのであった。嗚呼、なんと幸せな時間なのだろうか。絵画も音楽も、生み出した人には精一杯の喝采と感謝を送りたい。まぁ、僕如きの喝采と感謝など、そのような尊大な人々にとっては微風程度のものなのだろうが。

「ん、んぅ…。」

ふと、微かな衣擦れ音と共に、そんな声が聞こえた。どうやらやっと目覚めたようだ。僕の可愛らしい天使が。

「お目覚めかな?“雨玉ちゃん”?」

僕はそう言って、彼女に笑いかけたのであった。

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