ブラインドな恋

@chihayaoi

距離の闇

 タイトルに書いてあるとおり、ある恋の話を書こうと思っているのだけれど、その前に、自分のトラウマが発動してしまったことを書かないといけない。

 私はある男の子に恋をしている。

 恋愛状態は、人の心を分子で例えると、活性状態だ。活性化と言うと聞こえがいいが、活性化=不安定ということなのだ。逆に不活性=安定ということ。

 それまで、私はすべてのものに興味が無かった。恋は遠くの出来事だった。それが、ある日突然、ある男の子に凄く興味を持ち出した。心臓はどきどきするし、その子の一言一言に一喜一憂し、胃がキリキリする。恋の病というが、動悸、胃痛、精神不安定、この歳になるとリアルな病気として迫ってくる。

 なぜ、そんなに好きになったのか、それは後々書くことにして、まず、その病にかかり始めて、自分の中に蘇ったトラウマのことを書きたい。

 トラウマ、現在ではPTSDというのかもしれないけど、私の抱えているものはトラウマのほうがしっくり行くので、こちらを使うことにした。

 幼い頃、父は船員だった。海外航路の貨物船に乗っていたので一度航海に出ると、1年から2年帰ってこない。その代わり休暇は3ヶ月ほどあったので、父のことが大好きな私は、その間毎日学校から帰るのが楽しみで仕方なかった。それが、休暇が終わり仕事に出るという日、私は泣きじゃくった。出て行く父の後姿を必死に追いかけた。泣きながら、父の船に乗りたいと母に訴えた。もう悲しくて、悲しくて仕方なかった。本当は母だって寂しいのを耐えているのに、私があまりにも泣きじゃくるので、自分の感情は発散できなかったのだろう。今になって申し訳ないと心が痛む。しかし、幼い私は父とまた会えなくなる悲しみに耐えられなかった。父の世界は、あまりにも遠かった。また、1年、2年会えない。果てしない時間と果てしない距離が私と父を引き離す。それは、恐ろしいことだった。

 そんな父も歳をとり船を下りた。地上の勤務になったが会社が地方だったので、単身赴任だった。私たち家族は夏休みなど父の単身赴任先に泊まりに行った。その帰りである。新幹線は発車して、間もなく長いトンネルに入った。海の底を渡るトンネルは本当に長い。もう抜けただろうと、何度窓を見ても暗かった。海の底。それも助長したのかもしれない。新幹線は、本州に向けてトンネルを進む。父と海で隔てられる。引き離される。その距離を想像すると、果てしなく思えた。すると急に苦しくなった。胸がペコンとへこむような感覚。目は見えているが、真っ暗になった。海の底で水圧に潰されるアルミ缶のように。

 恐らく物理的距離を果てしないと感じると、非常に怖くなるのだろう。まるで、宇宙に放り出されたような感覚。胸がへこみ、目の前が真っ暗になるそれは、私の中で距離の闇と呼ぶ事にする。その感覚がこの恋が始まってから、また襲っていたのだ。

 アラフォーでまさかまたこの感覚が襲ってくるとは、思わなかった。それも3、4日続くのだ。家に居ても、職場に居ても。何かに集中したり、誰かとしゃべったりしていたら、気が紛れているのだが、自分の意識がその距離の闇にシフトすると、もう終わりだ。目は見えている、でも真っ暗で胸がへこむような苦しい感覚。怖くて、なんとかわかってほしくて、人に訴えるのだけれど、自分でも例えようが無くて、全然伝わらない。

 これが、私のトラウマだ。恋の内容については、つぎ。

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