ryo作:バグに迷惑し、バグに助けられる

 完全に失敗した。

 このゲーム、『パーフェクトファンタジーオンライン』通称『PFO』を、三ヶ月プレイした感想だ。

 プレイするゲームの選択を、間違えた訳ではない。

 スキルポイントの振り分けを失敗したのだ。

 レベルが上がると、パッシブ用、アクティブ用のスキルポイントが、二割り振られるのだが……

 パッシブツリーではHPを、アクティブツリーでは近距離スキルツリーに全振りしてしまったのだ。

 勿論、何度も振り直せる事が出来るが……このゲームはクソみたいなバグだらけで、振り直せない。

 そう永遠に…… しかも最悪なバグにも遭遇してしまった。

 僕のステータスを見てもらった、何が言いたいのか分かる。


(Lv2)

HP :20

MP:220

攻撃力 :10

防御力 :30

クリティカル率:−10%

知識 :10

精神:5


 見ての通り、HPが異様に少ない。

 そう、レベルが上がった時にHPに振り分けたのだが……スキルポイント一つにつき、100も減ってしまった。

 どんな雑魚モンスターでも、ワンパンで沈んでしまう。

 お陰で、モンスターを倒せない、レベルが一切上がらないの悪循環の完成だ。

 クリティカル率もバグで、−10%固定になってしまった。

 もう笑いしか出てこない。

 なぜこの糞ゲーを辞めないかって?

 それは……


「おーいアラタ! こっちだ!」


 遠くの方から、俺の名前を呼ぶやつがいる。

 俺がこの糞ゲーを辞めない元凶は、こいつと出会ったからだ。


「お〜ゴブ! 今行くよ」


 こいつの名前は『ゴブ』、ゴブリンだ。

 何故敵であるモンスターが俺と仲良くし、喋っているのか?

 全てバグだ。

 お互い弱者であり、ずっと一人で行動していた。

 そんな俺達が出会い、仲良くなるのも時間がかからなかった。

 まぁ最初は戦おうと思ったが、互いに弱過ぎて泥試合になってしまった。


「今日は何するんだ? モンスター倒しに行くのか?」


「知ってるだろ俺達の弱さを。 適当に金集めしようぜ」


 最弱のゴブリンさえ倒せないのに、他のモンスターを狩れるはずもない。

 武器も最弱である。

 レア度はCommon、Tier1だ。

 Tier1でも特殊効果があるのだが、バグでどんな効果かわからない。

 武器を変えたいが、バグで装備変更不可能と来たもんだ。

 防具も似たようなもんだ。

 どれだけ強い武器や防具を手に入れても、装備出来ない。

 完全に宝の持ち腐れだ。

 まぁそんな武器手に入らないけど。


「なぁゴブ、俺強くなりたいけど、どうすれば良いんだ?」


「そんなの知らないよ。アラタはHPも無いし、武器も防具も変えれない。詰みだね」


「やっぱりそう思うか? 俺もそう思う」


 二人で大笑いをしながら、町を歩いている。

 側から見たら、俺だけが大笑いしている様に見られている。

 こいつの存在は、俺だけにしか見えないからだ。

 こいつの存在自体がバグと言う事だ。


「取り敢えず、町を出るか!」


「そうだな! 町を出よう! ……で何するんだ?」


「そうだな…… バグでも探しに行くか」


「僕もバグだよ!」


「知ってるさ。お前を報告しても、誰にも見えないんだから、意味がないんだよ」


 そんな会話をしながら、俺達は町を後にした。

 このゲームのマップは超大型(半分未公開)だ。

 お陰で、他のプレイヤーとそんなに出会わない。

 出会った瞬間、PK(プレイヤーキル)されるだろう。

 そしてここは廃墟の町。

 初心者が多く訪れる町でもある。

 雑魚モンスターが多く生息し、経験値稼ぎに持ってこいの町だ。

 それなのに……


「なんか町の雰囲気おかしくないか? モンスターが一匹もいないぞ?」


「本当だね、どうしたんだろう?」


 何か……嫌な感じだ。

 肌で殺気を感じる。


「お、おい!ここを出よう、なにか……ヤバい」


「……アラタ、もう遅いよ。見つかった」


 ゴブが何かを見つけたようだ。

 この雰囲気を作っている元凶だろう。

 そして、ゴブが指差す方向を見るが……


「な、なんでこいつがここに……」


「あはは……詰んだね」


 ここに居てはならない存在。

 高レベルレイドダンジョン『龍の災園』のボス、『インフィニティドラゴン』

 レベルMAXは最低限、レジェンドランク最上位がギリギリ勝てるドラゴンだ。

 勿論、クソザコの俺なんか瞬殺だ。

 インフィニティドラゴンは、攻撃の体制を取っている。

 逃げる時間もない。

 俺達は、ただ死ぬのを待つだけだ。


「ゴブ……詰みだな」


「詰みだね! でも、二度と会えないって事じゃないからね!」


 巨大な火球が、俺達目掛けて飛んでくる。

 こんなのを食らったら、一発で終わりだ。

 ドゴォォォォォン

 大きな爆発と共に、辺り一面を焼け野原だ。

 俺達の体は、粉々に……粉々……


「あれ? 死んでないぞ?」


「本当だ! 死んでない……なんで?」


 何故死んでいないのかが分からない。

 インフィニティドラゴンも、動揺している。

 そして、何発もの火球を繰り出してくる。

 が……

 辺りが焼けているだけで、俺達にダメージが一切ない。

 不安になったおれはステータスを見る。


(Lv2)

HP :∞

MP :∞

攻撃力 :∞

防御力 :∞


「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」


「アラタ凄いね! 全部∞じゃん!」


「すごいバグだな。笑うしかないわ。いっちょドラゴン殴ってくるわ」


 と言い、ドラゴンに向かって歩きだす。

 流石のドラゴンも、この異常事態に気付き、何十発もの火球を打ち込んでくる。

 だが、そんなのを屁とも思わない態度で、歩き続ける。


「よーしドラゴン。さっきは良くもやってくれたな? 少しは痛い思いしろよ?」


 剣を振りかざし、ドラゴンに向かって、思いっきり振り下ろす。

 剣がドラゴンに当たる瞬間。


「申し訳ありませんでした! 物凄く調子に乗っていました! 配下になりますので、どうかお許しを!」


 とドラゴンは土下座をしながら、言ってきた。

 呆気に取られた俺は、ギリギリの所で剣を……止める事は出来るはずもなく、直撃した。

 幸い、力が抜けた事もあり、ドラゴンは瀕死で済んだ。

 こうして俺は、最弱ながらも最強のドラゴンを従える事となった。

 インフィニティドラゴンを従えた俺は、有名になり他の冒険者に狙われるが、ドラゴンが全て追い返している。

 俺達三人? は魔王を倒す旅に出るのだが、それはまだ先のお話。

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