第4話
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(佐野のやつ、単に敬ちゃんに会いたいだけやろ・・。)
電話を切って、思わず声が出た。あいつも美人な嫁さんと結婚したのに、何をいつまで高校の時の恋愛とか引きずっているのだろう。いつまでもウジウジしている奴。もう夏が始まっているのに、なんだか梅雨みたいに気持ちが晴れない。誰にどうやって連絡するか少し考えた。ただ昔みたいにみんな集まるっていうのは難しい。もう、気にすることなんて無いのかもしれないだろうけど、こういうときにすぐに思い出すのはのんちゃんから卒業式の時にもらったラブレターだ。そう、ウジウジしていて晴れないのは俺も一緒だ。
確かに俺は敬ちゃんが好きだった。でも、それより、6人でいつも一緒にいる、あの仲間との空間がもっと好きだった。みんな友達としてはあまりにも仲がよくて、でもそこには恋愛感情はみんなあるんだけど、無いことにして。どうしても守りたかったあの仲間のバランス。当時、それを最優先にしたし、その時はそのバランスが永遠に続くと信じていた。俺の本心は、結局胸にしまって卒業した。意外なことに、一番口数が少なかった、のんちゃんが怖がらずに、最後、俺に思いを打ち明けた。卒業式の日、家に帰ったら届いていたラブレターはまだ机の引き出しの中にある。返事はしなかったけど、なんだか破ることもできなかった。高校生の自分が思い描いていた願いなんて、簡単に崩れてしまうと、今ならわかる。このラブレターは、俺が勝手に守ろうとしていた仲間のバランスを崩し、それ以降、6人全員で会うことは一度もできていない。
7月14日。俺は敬ちゃんにメールを送り、昔のラブレターはまた読み返している。
どうしようもない過去の”もしも”を一人また考えている。テレビのニュースでは、どこかの国のパレードの様子や夏の高校野球地方予選の結果が流れている。湿度が高い初夏。梅雨の終わりと一緒にこの思いも晴れて欲しいと思った。
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