ほうき

濱本歩

ほうき

 おじいさんが掃除をしていると、いつものように針鼠が現れました。

「あんた、まだ箒なんて使って掃除してるの? 他の星ではみんな掃除機を使ってるわよ」

 針鼠がこう言うのはいつものことなのです。おじいさんは答えます。

「だって君、ここは三四番彗星じゃないか。彗の星なんだから、ほうきで掃かなくちゃ」

 針鼠は大袈裟にため息をついて見せます。そうすると小さな丸いからだが息に合わせて動くのです。針、などというととんがっているような気がするけれど、案外丸っこくて可愛い生き物だ、おじいさんはそう思っていますが口には出しません。

「なんだかね、番号の小さな星の奴ほど時代遅れなのよね。三千番台の星なんてみんな掃除機よ」

「若い奴はダメだなあ」とおじいさんは笑いました。

 それから、掃き集めたほこりを古ぼけたちりとりに集めて、あちこち凹んだりしている金属製のゴミバケツに溜めていきます。

 ゴミバケツが満杯になるとおじいさんはそれを持ち上げて彗星の後ろの方へと歩いて行きました。そして、宇宙に向けて星が尾を伸ばしている場所まで来ると、その水色の明かりの中にエイヤとバケツの中身をばらまきました。

 放たれた塵はひとたび星の尾と触れると、一瞬マグネシウムのような閃光を発して、それから七色の粒子になって宙に溶けていきます。針鼠はその様子を丸い目に映して、嬉しそうに小さな尻尾を振りました。

「やっぱり綺麗ね、この景色。これが掃除機なんて使ってる奴だと、紙パックをポイだから味気ないのよ」そう針鼠は言いました。

 おじいさんが掃除を終えたのを見届けると針鼠は「また来るわ」と言ってプイッと居なくなってしまいます。

 針鼠が居なくなったのを見届けたおじいさんが道具を仕舞うために物置を開けると、そこにはまだ一回も使われたことのない掃除機があるのです。

「掃除機で楽をしようと思った事もあるんだがなあ」とおじいさんは朗らかに言って、一つ大きな伸びをしました。


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ほうき 濱本歩 @rain-112358

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