第11話ハニートーストの匂いの彼女に恋をして(短編)
とある秋の風を感じる八月下旬の出来事だった。神社の長い階段を駆け降りる彼女が階段を登る僕を通り過ぎた。
彼女の顔をチラリと見えた僕はほどなく雷が頭に落ちた感覚を得た。一目惚れだった。
甘い香りが僕の鼻につく。ハニートーストのような匂いだった。神社の上にはそんな甘いモノがあるのだろうかとすら思えた。瞬時に僕は振り向くが、彼女の長い茶髪の髪がなびくのだけ見えた。すでに僕が追いかけようとするが疲れからか足があがらない。また出会えるのならば絶対にモノにしたい。僕は独占欲が強いんだ。バックの中にある黒魔術の本をチラリと見る。
「君を手に入れるためには媚薬を作ってでも……、それよりあの子の名前を調べなきゃ」
長い階段を上がる僕、神頼みで頼むわけでもないのだけどここまで来たのだ、あと少しの鳥居に向かい、駆け上がった。
神頼みを済ましたのち、これから毎日この神社に通う事にした。あの階段のところで待ち伏せしてたら会えるだろうと僕は考えた。ただ僕も暇ではない。彼女と出会う時にスマートな身体で出会いたい、男としてのプライドって奴だろう。以前の服装よりもスポーティーなカッコでマラソンをしている風で行くことを決めた。
彼女と出会った日は日曜日の朝だった。それならば朝ならば出会えるかもしれない。僕は朝早くからジャージ姿になり、スポーツ用の靴を履くと例の神社に走り出した。
あれから三週間が経った。一向に出会えない。どうしてだろう。確かに僕の身体は引き締まってきている。ただあの子の、ハニートーストの匂いが全くないのはどうしてだ。彼女はあの日以降、この神社に出向いてないのだろうか。毎日通ってると神社内に居る巫女さんに挨拶されることがある。非常にそそられる。ただ、今の僕には興味が無いのだ。今は彼女、ハニートーストの匂いの茶髪の長い彼女に興味があるのだ。もし出会えるのならば、僕のすべてを捧げたい。好きって言いたい、付き合ってくださいとも言ってやりたい。
あなたの名前を僕に教えてください。知り合いんです、あなたの全てを。あのハニートーストの匂いを思うがままに嗅ぎたい、そんな欲求を止められることなく、僕はいつものように鳥居をくぐり、想いを込めて神社に願った。
あの神社に通いつめ、一ヵ月のことだった。僕はいつものように階段を駆け上がる。
「あの彼女はどこにいるのだろう。この角を曲がった階段の先にいてくれたらどれだけいい事か……、あ、居た!」
僕は目を見開き、嬉しさのあまり大声を発した。目の前に居た彼女たちはチラリと僕を見たのが見えた。そんなのは気にしない。ただ、僕の欲求は新幹線のスピードよりも速いんだ。まずは名前を聞いてそれからこの媚薬で……、落ち着け僕、そんなにがっつくと相手が幻滅してしまう。今までの苦労が台無しにしたくない。僕は目の前の彼女を見つめタイミングを伺う事にした。
目の前の彼女は横に居る男に頭を撫でられ、顔や耳まで真っ赤にさせている。なんて可愛いんだ。それでこそ僕が惚れた女だと思う。ハニートーストの匂いがここまで匂ってくる気がする。
おい、ちょっと待て、お前は誰だ!なんでそこの隣に見知らぬ男が居る????
僕は目を見開き、その場に足が崩れた。いや待て、まだチャンスはある。たまたま来ている兄弟なのかもしれない。そうに違いない。僕は何でも手に入れる者、人間の中で僕は選ばれし逸材なのだ!!!!!。
チラリと見せる彼女の薬指、その間にはダイヤの指輪がはめられていて、隣にいる男の薬指にも指輪がはめられていた。
「うああああああああああああああああああああああああああああ」
僕はその場から崩れ落ちた。思いっきり泣いた。一目を気にせずに泣いた。いつも見る巫女さんからも心配されているのがチラリと見えたが、気にもせず……。
ポツポツと雨が降り出した、秋の肌寒さを感じるそんな雨が僕を慰める。一緒に泣いてくれている神様のような雨だった。
それが僕の初恋、青春だったのかもしれない。叶わなかった恋だったのだけど、ここまで僕の欲求を極限まで引き出したハニートーストの匂いが特徴の彼女とは住む世界が違うかったらしい。ただまたもう一度あの階段、あの角で名前の知らない彼女と出会う事が出来るのならば、全力で追いかけたい。
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