第27話 ツンデレな僕の幼なじみからの告白(前編)

『だっ、誰だてめえ!!』


「!?!?」


 驚いたブルースさんが、突然の闖入者に声を発する。


 しお先輩も、危うく持っていたコップを落としそうになってしまっていた。


「……はぁ、はぁ」


 しかし、そんなことを気にする余裕もないのか、闖入者は自分の胸に手をあてながら呼吸を整えていた。


「……ど、どうしたの、華恋かれん


 赤髪を結わえたその姿は、間違いなく僕の幼なじみ、明坂あけさか華恋かれんだった。


「どうしたのって……言ったでしょ! 入部よ入部! あたしもこの部活に入るって言ってんのっ!」


 華恋かれんは地団駄を踏みながら、僕たちにそう宣言した。


『おいおいおいおい、この嬢ちゃん、兄弟の知り合いかよ?』


 どうやらある程度は冷静さを取り戻した汐さん、もといブルースさんが僕にそう尋ねてくる。


「知り合いっていうかですね……」


「あっ、あたしは、明坂あけさか華恋かれんです! りくとは小学校の頃からの幼なじみで、ずっとずうっとあたしが面倒みてきたんですっ!」


 いや、確かに色々と迷惑はかけたかもしれないけど、それはお互い様というか……。


りくは黙ってて!」


 はい、黙ります。


 っていうか、こういうやりとり、前にもやったような気がするんだけど、気のせいかな?


 僕がデジャブを感じている間に、華恋はずんずんと僕のほう……ではなく、部屋の奥にいたしお先輩のところまで近づいていった。


「あなたが、虎音とらねしおさん、ですね?」


『お、おう……』


 さすがのブルースさんも、華恋かれんの圧に押しきられてしまっているようだった。


 一方、華恋かれんしお先輩のことを上から下までじっくりと眺める。


 なんだか、取り調べの刑事みたいだった。


「  、   !」


 しお先輩も、眼鏡の奥の瞳がウルウルモードになってしまっている。


「うぐっ……見た目は同学年っぽいけど、どことなく庇護欲が出てくるというか……。ううっ、また違ったタイプの女性が現れるなんて……」


 そして、何故か悔しそうにうめ華恋かれん


 このままでは、先輩が泣き出してしまうかもしれない。


 そうなる前に、僕が間に入って助けてあげなくては。


華恋かれん、事情はよく分からないけれど、とにかく先輩をジロジロ見るのは止めてあげてくれ」


「べっ、別に見てないわよ!」


「見てたじゃん」


「見てない!」


 なんでそこで頑固になるんだ。


 こういうときの華恋かれんは結構手強い。


 さて、どうしたものか……。


 と、僕が考えているところで、テーブルに綺麗に並べられたお菓子が目に入る。


 よし、しお先輩から許可は貰っていないが、これを使わせてもらおう。


「まぁまぁ、華恋かれん。ひとまず落ち着いてお菓子でも食べようよ」


「…………(チラッ)」


 今まで僕やしお先輩しか見ていなかった華恋かれんの視線が、お菓子が載せられた皿に移る。


「ほらほら、華恋かれんの好きなクッキーもあるよ? ね?」


 僕は手を伸ばして、華恋かれんに包装されているお菓子を手渡す。


 おそらく、全国民が好きであろうカントリー的なクッキーもちゃんとバニラ味とココア味の二つが用意されていた。


 ちゃんと種類ごとに分けて皿に盛られているところは、しお先輩の性格をよく表していると思った。


「……わかったわよ」


 華恋かれんは素直にお菓子を受け取って、早速封を開けて口の中に運んだ。


 無言のまま、パクパクと食べる華恋かれんだったけど、さっきまで寄っていた眉間の皺がなくなっている。


 頬も少しだけ、朱色に染まっているので満足している様子だ。


 やっぱり、華恋かれんを宥めさせるには甘いお菓子が一番だ。


 この状態だったら、華恋かれんも落ち着いて話をしてくれそうだった。


 僕は子との顛末を華恋かれんから聞き出すことにした。


華恋かれん、部活に入りたいっていうのは、この人形演劇部ってことでいいんだよな?」


「当たり前じゃない。じゃなきゃ、何のためにあたしが来たことになるのよ」


 まぁ、そりゃそうか。


 でも、だとしたら気になることがひとつある。


「テニス部はどうするの? 仮入部にも行ってたのに……」


 僕がそう尋ねると、ピタッ、とクッキーを口に運ぶ華恋の手が止まった。


 そして、気まずそうに僕から視線を外しながら、告げる。


「……ちゃんと、断ってきた。仮入部だったし、問題なかったんだけど……。クラスの子とかもいたから、その子たちにも話しておきたくて……」


 僕も、華恋かれんがクラスで仲良く話している子たちを何人か遠目で見たことがある。


 きっと、同じ部活動に入る予定の子たちで、これから共通のコミュニティに属すということもあって仲良くなっていったのだろう。


 でも、華恋かれんはテニス部ではなく、この人形演劇部を選んだ。


「なんで、そこまでして、この部活に……」


 思わず、口に出してしまった言葉だった。


 しかし、華恋かれんはその言葉を聞いた瞬間、小さな声で呟いた。



「………たいから……」



「……えっ?」


 聞き返した僕に向かって、華恋かれんはキッと睨み返す。


 これも、いつもの反応だったはずだ。


 でも、華恋かれんの顔が少し違う。


 羞恥を必死で隠すようにしてもなお、紅潮する頬。


 そして、震える声で、宣言する。



「あんたと一緒にいたいからに、決まってんじゃない!」



 今度こそ、華恋かれんは僕にはっきりとそう告げた。


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