第19話 人見知りな僕の先輩とパペット人形
『てめえ誰だよ!! オレ様に何の用だ!?』
突然起こったファンタジーな出来事に、すぐに反応を返せない僕。
あいにく、人形に話しかけるなんて経験は一度もない。
しかし、よくよく冷静になってみると、女子生徒の右手つけているのは、可愛らしい犬のパペット人形だった。
ほどよくデフォルメされた瞳とフォルム。犬種は柴犬かな?
ドスの効いた声色とは裏腹に、子供から好かれそうなパペット人形だ。
『……おい、何か言ったらどうなんだよ?』
僕があまりにも無反応だったからか、パペット人形の犬は少しだけ声のトーンを落としてくれた。
そして、その人形を動かしているであろう女子生徒の瞳が、眼鏡の奥からじっとこちらを見ていた。
なにより、彼女の身体が、少し震えているのが分かった。
「い、いえ……、その、ちょっと心配になったっていうか……」
『心配だぁ?』
「はい、その……あなたの声が、誰かと揉めているように聞こえてしまったものですから……」
人形相手に敬語でいいのかどうかは微妙だったけれど、とりあえず失礼のないような話し方をすることを心掛けた。
『ふ~ん、なるほどなぁ。じゃあ、全部こいつのせいってわけか』
しかし、僕の紳士的な(?)態度に警戒を解いてくれたのか、幾分語気が弱くなったような気がする。
っていうか、こいつって誰のことだろう?
「あの……、ここで何をしていたんですか?」
僕だって、いくら何でも人形が勝手にしゃべっているなんて思っちゃいない。
目の前の女子生徒が、全部、一人二役で話しているだけだ。
どうして、そんなことをしていたのか分からないけれど、とにかく、僕が心配したようなことは起こってなかったみたいで安心する。
そのことに一安心していた僕だったけれど、そんな僕とは対照的に、目の前の女子生徒の瞳には、今もなお混乱に満ちたように漆黒の色が滲んでいた。
「 」
……ん?
今、彼女の口が動いたような……。
「 !」
もごもごと、彼女の口が動いている。
しかし、やっぱり何も聞こえなかった。
『だぁー! 謝るんならちゃんと謝れよ! 兄ちゃん、困ってんだろ! ったく、仕方ねーな』
彼女の顔の前あたりで、人形の犬は激しく動きながら叱責する。
その光景は、小さい子供が人形とお喋りをしているような、そんな光景だった。
僕だけがどうしていいのか分からず、頭にクエスチョンマークが浮かび上がっていた。
『兄ちゃん、こいつが「五月蠅くしてごめんなさいっ」だってよ。反省してるみてえだから、まぁひとまず許してやってくれ。あと「目を見られるのは恥ずかしいです」だとよ』
「えっ? ああ! ご、ごめんなさい」
僕はじっと見つめていた視線を、パペットの方へと移した。
『こいつ。昔っから人と話すのが苦手なんだよ。だから、こうしてオレ様が代わりに代弁してやってるわけ。ったく、面倒くさいったら、ありゃしねーんだ』
はぁ~、とため息まで吐くパペット人形。
その仕草を見ていると、本当にこの人形の犬が生きているみたいに思えてしまう。
『こいつは
彼女、
階段の段差で、僕より頭一つ分高いといった感じだけど、並べば恐らく僕と同じ150cm代の身長くらいじゃないだろうか。
黒髪を結んでいる青色のリボンが彼女の特徴だ。
見た目からして、同級生だろうか?
『高校も二年目なのにずっとこの調子なんだぜ。笑ってやってくれよ』
どうやら一つ先輩だったようだ。
自分もよく見た目で中学生だと判断されることを思い出して、猛省する。
人間、見た目で判断したら駄目だよね、うん。
『んで、オレ様がブルースだ。よろしくな、兄弟』
「あっ、はい。宜しくお願いします……。
『オレ様にも「さん」付けとは律儀だな、兄弟。ただ、こいつのことは
「分かりました、えっと……
僕が軽くお辞儀をすると、
なんだか、色々徹底している。
ブルースさんが話すときも、
だが、これで大体、僕にも状況が分かってきた。
中学校のときも、吹奏楽部の子たちが、それぞれ自分の楽器の練習をするために個人で練習していた光景を思い出す。
とにかく、僕はこれでお役御免ということで退散していいだろう。
「あの、失礼しました。練習、頑張ってくださいね」
そう言って、僕が立ち去ろうとした、そのときだった。
「……えっ?」
とっさのことで、僕はその場から動けなくなってしまった。
なぜなら、
か弱くて、指先が震えているのが分かる。
そして、目の前にいる
何度も動く、赤い唇。
だけど、その唇から言葉が紡がれることは、なかった。
数秒間、僕たちは互いに固まったように、動かない。
ただ、このときの僕は――。
絶対に、逃げてはいけないと、そんな風に考えてしまっていた。
だが、その沈黙は、他者によって破られる。
「
階段から、すらりとした足が見える。
次に、僕の視界に入ったのは髪の毛が短く切りそろえられた、上級生の女子生徒だった。
そして、彼女はいつも僕に見せる、妖艶な笑みを浮かべる。
「お久しぶりね、弟くん」
目を細めながら、この学校の副会長、
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