第9話 ツンデレな僕の幼なじみとの甘いデザート
「おまたせしましたにゃ~ん! 『ラブリーキャット』おすすめのトロピカルアラモード、生クリーム多めだにゃん♡」
僕たちにとびっきりの笑顔を向けながら、金髪の猫耳メイドさんがテーブルの上に頼んだメニューを運んでくれる。
大皿いっぱいに広がる、幻想的な果物の芸術品。
その真ん中に乗せられたカラメルたっぷりのプリンには、生クリームがタワーのように高く
それを二人分、崩すことなく運んできた猫耳メイドさんの技術はかなりのものである。
そして、金髪猫耳メイドのお姉さんは営業スマイル満開で僕たちに告げた。
「それでは、ごゆっくりしていくにゃん♡」
ニャンニャンニャ~ン、と可愛らしい鳴き声(ということにしておこう)を発しながら去っていく猫耳メイドさんを、僕の目の前にいる幼なじみは全く見向きもせずに運ばれてきたトロピカルアラモードをキラキラした眼差しで見つめていた。
「ふふぅ~、これよ、これ! なんて美味しいそうなの……」
うっとりとした瞳で吐息を漏らす
まだ時刻は十二時を回ったところなので、
無論、付き合わされる僕も強制的に同じメニューになる。
他にも軽食のサンドウィッチとかナポリタンといったメニューもあるにはあるのだが、このトロピカルアラモードは量もそれなりにあるので(なにせ、大皿の上に載っているプリンだ。それなりに大きい)いくら
「じゃ、食べよっか」
「うんっ!」
いつもの態度が嘘のように、可愛らしい返事をする
そして、食べる前に写真撮影が始めるのも煩わしいと言わんばかりに、スプーンを手に取って、プリンを口に運んだ。
「んん~! やっぱりおいし~!」
まるで、この世の全ての幸せを噛みしめるように、
彼女は『超』が付くほどの甘党である。
美味しいスウィーツがあれば、どんなに不機嫌な様子でもあら不思議。
あっという間に、笑顔が咲き誇るのである。
そして、このお店で出されるトロピカルアラモードこそ、
「お嬢様はウチの常連だにゃ~♡ もちろん、ご主人様もご一緒だにゃ♡」
「あっ、はい……。今後ともよろしくお願いします……ってか、ニコさん、いつのまに戻って来て……」
「そんなことはどうでもいいにゃあ。それより、はい、これはニコちゃんからの入学祝いだにゃ!」
そう言って、この『ラブリーキャット』の看板娘兼店長兼唯一の従業員であるニコさんは、袋でラッピングされたクッキーの詰め合わせを僕たちのテーブルに置いて再び厨房へと姿を消した。
この『ラブリーキャット』はニコさんが祖父から譲り受けた、小さな喫茶店である。
外見や内装は古風な趣のある喫茶店なのだが、その中で異様な輝きを放つのが猫耳メイドこそニコさんの正体だ。
おそらく『ニコ』というのは源氏名だろうが、本名は未だに僕たちも知らない。
ちなみに、年齢は国家レベルの機密事項らしい。
尋ねてしまったら最後、このお店に足を踏み入れられなくなるという都市伝説があるとかないとか。
そんなニコさんがいるこの喫茶店は、商店街の裏通りにあって、僕たちのような学生が学校帰りに立ち寄る場所としては、些か趣がありすぎる場所である。
実際、今は学生どころか客は僕たちだけしかいないし、他に誰かいたとしても、殆どが常連客のおじいちゃん、おばあちゃんたちだ。
あと、ニコさんとお店の名誉にかけていっておくと、ニコさんは結構おじいちゃんおばあちゃんから人気だったりする。
まさしく猫を被った状態がまた好かれる要因になっているのかは、僕には判断できないけれど。
色々と話が脱線してしまったが、要するに、この喫茶店『ラブリーキャット』では、僕たちが他の人の生徒たちの目を気にして会話をする必要もないということだ。
ニコさんからの発言からも分かるように、僕たちは中学生の頃からの常連だ。
殆どが、今日みたいに
それに、可愛い猫耳メイドさんがいるなんて、これ以上の贅沢はない。
いや、僕は別に猫耳萌えでもメイド萌えでもないけどね。
「ほら、
しかし、ニコさんのことをパティシエとしての評価しか持っていない
やれやれ、と背もたれに体重を預けたところで、
「どうせ、家では苦手なブラックコーヒーなんか飲んで、意地はってんでしょ?」
ギクッ!
「な、なんのことかな? 僕はコーヒーがこの世のどんな飲み物より好きだといっても過言ではないというのに、ははっ……」
「あんた、嘘下手くそすぎでしょ」
取り繕ったつもりだったのに、
「だから、こうしてあたしがたまには甘いものを一緒に食べるように誘ってんのよ。感謝しなさいよね」
いや、さすがにそれは言い過ぎだろうと思ったけれど、全部が嘘ということもないだろう。
さすがにそれくらいは、長い付き合いなのでわかってしまう。
そして、僕がどうして今日、ここに誘われたのかも。
「ありがとう、
「別に、あたしもアラモード、食べたかったし」
「違うよ。僕が……僕が姉さんのことを聞かれて困っていたから、助けてくれたんだろ?」
お皿に盛られたメロンを差した
しかし、すぐに食事を再開させた華恋は、僕とは視線を合わさないまま、ポツリと呟く。
「気にし過ぎなのよ、
それは、ほんの少しだけ哀しみを帯びているような声色だった。
中学校に入学したときも、僕は姉さんのことを色々と聞かれた。
有名人だった姉さんの弟となったら、みんな興味がわいてしまうのも仕方がない。
だけど、僕は姉さんのことを、何も話さなかった。
僕にとっては、ただの僕を甘やかすだけの姉さんのはずなのに、みんなはまるで、姉さんのことを別人のように話すから……。
僕は、自分の姉さんの話を聞くのが嫌いになった。
みんなから敬われて、親しまれている姉さん。
そんな姉さんと違って、僕は――。
「それでも、僕は姉さんの話は、他の人にしたくないんだ」
僕がそう告げると、
だけど、結局、それ以上はなにも言わなかった。
僕と姉さんが比べられる立場。
なに、中学校のときと変わらない生活が始まるだけだ。
そのはずなのに、心に
ちゃんと向き合うって思ったはずなのに、全然、僕は心の整理ができていなかった。
それでも、一口食べたプリンアラモードの甘さが、僕の身体の中にも染み込んできて、カウンターの奥から聴こえるニコさんの鼻唄が、僕の心を落ち着かせる。
そして、僕が
「僕の分、少し食べる?」
すると、
「
そう言ってくれた
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