第7話 甘すぎる僕のお姉ちゃんの代表挨拶
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。私は、この学校の生徒会で会長の職に就かせて頂いております、
そう言うと、講堂に並べられたパイプ椅子に座っている僕たち新入生から笑いが漏れる。
舞台に立って、代表者の挨拶をしている生徒会長、僕の姉さんは、見るものをほんのりと温かい気持ちにされるような笑顔を浮かべて話し続けていた。
そして、久しぶりに見た『外出モード』の姉さんの姿を、ぼぉーと眺める僕。
これくらい、僕の前でも普通の姉さんだったら、どれだけよかったことか。
そうすれば、朝から人のベッドで寝ている姉に気付いて叫ぶこともないんだけどな。
「――では、私からのお話は以上です」
僕の心の声が聞こえたわけじゃないだろうが、頭を下げて挨拶をした姉さんは、舞台からはけようとした際に、僕のほうを向いて、にこりと微笑んだ。
あの姉さんのことだから、僕を見つけて「
あの姉さんにもちゃんとTPOを持ち合わせているようだ。
そして、入れ替わるように、新入生代表と思われる生徒が舞台にあがっていく。
緊張した声色で代表挨拶をする男子生徒に「大変な役目だな」と、他人事の感想を抱きながら、先ほどの姉さんの挨拶を思い出す。
僕の姉さんは、やっぱり外では「優等生」のようだ。
だったら、やっぱり僕とのコンタクトは、控えておくべきだろう。
そんなことを考えている間に、男子生徒の挨拶も終わり入学式も無事終了した。
僕も他の新入生たちの列と一緒に、自分の教室へと戻っていく。
僕が配属されたのは一年C組だった。
席は出席番号順になっており、僕は窓際の前から三列目の席。
そして、目の前の席には、見慣れたツインテールの少女が座っていた。
さっきから、こちらに振り向こうとしているのか、ぴょこぴょこと結んだ髪の毛が動いている。
しかし、結局、僕に話しかけてくることはなかった。
まぁ、知り合いがいるというのは、心のどこかで安心する要素だ。
そんな心理的ゆとりを持った僕は、改めて教室の中を見渡す。
皆、どこか緊張した面持ちをしている。
新しい友達ができるのか。
どんなクラスメイト達がいるのか。
そんなことを考えている生徒が殆どだろう。
僕は、相も変わらず無難に過ごせれば、それでいいと思っている。
そりゃあ、友達が誰もいないという悲しい結末は避けたいけれど、それは
姉さんは、部活動や奉仕活動とかも学生の本分だと言っていたけれど、あまり興味がないというのが本音だ。
別に学校が終わって家に帰っても、生徒会で姉さんが不在なので、その間は一人の時間を満喫できるしね。
って、なんだかこれでは、僕の行動が姉さんを基準にして考えているみたいだ。
そんなことは断じてない。
仕方ない、暇だと思われないようにアルバイトでも探そう。
僕の高校生活最初の予定を決めたところで、ガラガラと、教室の扉が開く音が響く。
入ってきたのは、ビシッとしたスーツ姿の女性だった。
丸渕眼鏡に、まっすぐに切りそろえられた前髪。
僕よりも背の低く幼い顔立ちは、スーツじゃなければ生徒と勘違いされるんじゃないかと勝手ながら心配になる。
彼女は、律儀に生徒たちの前で一礼した後、何故か小走りで教卓の前まで向かう。
「はうぁ!」
……そして、盛大に転んでしまった。
「いたたっ……はうっ……またやっちゃったよ……わたしの馬鹿……」
ぐすん、と涙声になりながら立ち上がったところで、自分が注目を浴びてしまっていることに気付いたのか、彼女は「はうわっ!」と叫んだ後、教卓の前に立つ。
「えっと、今日からこのクラスを受け持つことになりました
凄い勢いでお辞儀をした先生は、真っ赤な顔で涙声になっている。
そして、数秒間の沈黙。
「はうっ……あっ、あの……」
おろおろとする
「……くくっ」
生徒の誰かが、我慢できずにいた声を漏らす。
すると、
「はははっ、先生かわいいー!」
「ドジっ子教師キター!」
クラス中が、笑い声に包まれた。
「えっ……ええっ!」
あわあわする先生だったが、その仕草もどうにも子供っぽくて、生徒たちからは万雷の「カワイイ」コールが生まれてしまった。
「か、かわいい……」
僕の目の前にいる幼なじみも、うっとりとした目で先生を見ていた。
「み、皆さん! 落ち着いて下さいね。それでは、えっと……皆さんと仲良くなるためにですね、自己紹介をしていこうと思います!」
しかし、そんなざわめく教室の中でも、なんとか自分の仕事を全うしようとする先生の意思が伝わったのか、一番前の席の生徒が立ち上がった。
「はーい、じゃあ、オレからっすね。先生」
「ふえっ! はっ、はい! おねがいします!」
「えっと、
そして、一番目である男子生徒、
「
とっさのことには弱い
さて、人の関心をしている場合じゃない。
次は僕の番だ。
「えっと、
うっ、最後は少し声が裏返ってしまった。
前を見ると、
はいはい、どうせ僕はろくに自己紹介も満足にできませんよ。
とりあえず、最初の自己紹介なんてこんなものだろう着席すると、遠くの席で独り言のように誰かが呟いた。
「あれ?
しかし、その男子生徒の声は、次の自己紹介の生徒の声にかき消されてしまう。
僕は彼の声には気が付かない振りをして、次の生徒の自己紹介に耳を傾けるのだった。
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