第8話
「調子に乗ってんじゃねぇ! さっきから聞いてりゃ、底辺底辺って簡単に人を見下しやがって……なにが有名人の知り合いだ! ふざけんなよっ!」
ヒロシとユウダイが胸ぐらを掴み、
一触即発の緊張した空気に、その場にいる全員が身動きを取れないでいた。
「あの、お二人とも。今日は珠希の誕生日なわけだし、落ち着いて……ちょっと外で――」
いつの間に近づいたのか、順也が二人の仲裁に入っている。
外へと誘導しようとヒロシの腕を引いたとき、ユウダイのパンチが順也の頭を叩きつけた。
鈍く、大きな音が響いて、友人たちが静まり返る。
順也は、大きな木が切り倒されるときのように、斜め後方にゆらりと倒れて動かなくなった。
「――ちょっと、なんてことするのよ! 順也っ、大丈夫っ?」
珠希の叫び声を聞いて、ヒロシもユウダイも気まずそうに席へと戻っていく。
当たり所が悪かったのか、どれだけ呼びかけても順也はピクリとも応じない。
静まり返ったままの店内は徐々に騒がしくなり、救急車を呼ぼうか、という声まで聞こえる。
ユウダイを責める声も聞こえてくるが、それらのノイズは珠希の耳には入らなかった。
呼吸をしていることを確かめて、心臓が動いていることを確かめる。
気を失っただけだとしても、心配で仕方がなかった。
カウンターからマスターが出てきて、順也を背負ってくれた。
従業員専用のスタッフルームに運び込んで、様子を見ることになった。
背後からは、事態を収めようとする由美子の声が聞こえる。
五分ほどすると再び笑い声が聞こえてくるのだから、彼女のムードメーカーとしての手腕が一流だと分かる。
そんな周りを知ってか知らずか、順也は眠ったように目を閉じたままだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます