天真爛漫な女の子とのラブコメみたいな展開
暗い。深く沈んでいく。何もわからない。上も下も左も右も。
ここがどこかも分からない。ふと視界が開けた。遠くから子供の泣く声がする。「お母さん、お母さん。」その声は絶え間なく響く。
とりあえず状況を確認しようとして、足を一歩踏み出す。
瞬間、何か固いものがつま先にあたる。
「ヒッ」わずかに悲鳴が漏れる。僕のつま先にあたったのは女の人の血にまみれた頭部だった。「うあああああああ」今度こそ確かな悲鳴を漏らしてしまう。視線を向けると影が女性の腹にナイフを突き刺していた。不意に影がこちらを見る。目が合ってしまった。頭は「逃げろ」と警鐘を発しているのに体はびくともしない。影が消えたと思った瞬間、僕の腹に冷たいものが走った。感覚は闇に呑まれ、意識はそこで途切れた。
目が覚めた。夢を見ていた気がする。体を起こそうとすると、急に頭痛が走った。あの夢は何だったのか…思考がそれだけにとらわれてしまう。
ふと、時計を見ると7時半を回っていた。夢のことは後で考えるとして急いで学校に向かった。
「…地、大地、聞いてる?」その言葉でぼんやりしていた意識が戻された。
そうだ、僕は今、空と話していたんだった… 「ちょっと、大地!」声のする方を見ると空が大変ご立腹の様子でこちらを見ていた。
「ご、ごめん。考えごとしてた。」何も聞いていなかった僕はこう答えるのが精一杯だった。
「もう!女子と話しているときに考えごとなんて持っての他だよ。」
「だからごめんって」こうなってしまっては僕にできることはただ謝ることだけだ。
やっと機嫌がなおったのか、空はようやくいつもの笑顔を見せてくれた。
「でも珍しいね、考えごとなんて…何かあったの?」
「別に」心配させたくなくて思わず強がってしまった。
「そんな訳無いでしょ。顔色悪いよ。」と一発で見抜かれてしまって動揺が走る。
「そんな分かるもんなのか?」思わず聞いてしまった。
「そんなの誰だって分かるよ。」こう言われてしまったら五体投地である。うん、正直に話そう。人間正直が一番だ。
「昨日、夢を見てさ…女の人が刺される夢。だから、今日あんま調子良くないんだよね…」
「うんうん。正直でよろしい。そんな子にはご褒美をあげましょう。ちょっとそこでじっとしてて。」そう言うと空は僕の方に歩み寄ってきておでこにふれてきた。
「ちょ…そ、空!?」急すぎる展開に僕はうろたえることしか出来なかった。
「こわいのこわいのとんでけー!!」無邪気な声でそう言うと最後に笑いかけてくる。
「どう?少しは夢のこと忘れられた?」こうされたら夢のこともどこかに飛んでいってしまう。
空の笑顔がすごく可愛いて、「あ、ありがとう。」と言うのが精一杯だった。
家に帰っても空にふれられたおでこはかすかな熱を帯びていた。
その熱はかすかではあったが、確かなもので僕が空に恋心を抱いていると認識させるには十分すぎるものだった。
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