3 かたきを討つ? いや、それは無理

「勇者たちだって最初は弱かったのにね、その頃だったらウチラだって勝てたのにね」


 ゴブリンCが表情を明るくして話し出したが、その頃、とはもう過ぎ去った話。たとえその頃に戻ったとしても勝てるかどうかはわからなかっただろう。 


「畜生! 勇者どもめ!」


 ゴブリンAは突然怒りを露わにした。日頃からイライラしやすい性格を自覚していて、イライラが溜まって怒りが間欠泉のように吹き上がるのを抑える努力をしていたが、今この瞬間はその努力も意味をなさなかったようだ。

 

「まあ、とりあえず青筋を立てるなって」

 

 ゴブリンBはうつむいてしゃべっている。ゴブリンBはゴブリンAの怒りの理由を知っているのだ。


「そう、そうだったよな。お前のダチは勇者どもに殺されたんだっけな、ま、オレのダチもだけどな」


 ゴブリンAとゴブリンBの友達は魔王討伐に向かい始めたばかりの勇者たちに殺されているのだ。


「じゃ、じゃあ! 皆でかたきを討とうよ!」 

 

 今の話を聞いたゴブリンCはさっと立ち上がって威勢のいい言葉を発した。


「ばか、今の俺らじゃカスリ傷ひとつ付けられねーよ。さっきそんなようなこと言っただろ。」

「そりゃそうだわな、かたき討ちなんて考えるだけナンセンスってーもんよ」 


 ゴブリンAの言葉にゴブリンBが続く。無駄なことはしないという点では両者はにていた。

 その時一番近くの丘で、


 グゥオオ! オオオオオオオオォォォ!!!!!!!


 という獣の断末魔のようなうなり声が地響きのように響いた。どうやら番獣、ケルベロスが勇者たちに倒されたようだ。


「おいおい、ケルベロスまでやられちまったってのか? ここまで来るのに本当に時間の問題だぞ」

  

 ゴブリンAは立ち上がり、断末魔が響いた丘の方を見た。しかし木々の間から見える丘は、木の枝や葉が邪魔してその全容を見ることが出来ない。確かな状況をつかめないのだ。 最後の砦の一つ、ケルベロスの断末魔。それを聞いたゴブリンAはイラ立ちを隠せない様子だ。

 役立たずめ! きっとそんなことを思っているに違いない。右手のこぶしで近くの木をドンと殴った。そしてしばらくの間沈黙が流れた。あきらめと絶望を混ぜ合わせたような沈黙だった。

 

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