第8話 ベニスの仮面と隠された絵画(2)

「マリー! 無事か!」


 ダミアンは勢いよく工房の扉を開け放った。

 丸太小屋と同じくらいの大きさを有する工房は作業部屋と保管部屋の二つにわかれていて、入り口に通じているのは作業部屋の方だ。部屋の大半を占める大きな作業台には筆や瓶が散らばっている。

  その作業台の下で、見慣れた小さい影がうずくまっているのをルカは見つけた。


「レオ!」


ルカは叫び、ぐったりとしている犬の元に駆け寄った。ハァハァと肩で息をしているレオは、力の入らない体を主人に預け、それでも僅かに短いしっぽを振ってみせた。


「レオ……ゆっくり休んでな」


 小さな頭を優しく撫でてやると、レオは安心したように目を瞑った。ほどなくしてルカは静かに立ち上がった。奥の部屋に続く扉を見やる。曇りガラスから光が漏れていることを確認した二人は、ごくりと生唾を飲み込んだ。そして、保管部屋への扉を勢いよく開けた。


「マリー!」


 天井から吊るされた裸電球が倉庫のような部屋を照らし出す。二人は思わず息を呑んだ。その灯りのたもとに、マリーが両腕を後ろ手に縛られ状態で立たされていたからだ。口元は布で縛られ、喉奥からくぐもった呻き声が漏れる。ルカの姿を認めた瞬間、目一杯開かれた小さな瞳からぼろぼろとボタンの様な涙がこぼれ落ちた。


「お前の探していた道野琉海だ。その子を解放してくれ」


 マリーの後ろに影のように佇んでいる不気味な仮面の男が、全身を包み込むほど長い漆黒しっこくのマントを揺らした。


「遅いな……。あんまり気長な方じゃないんだ、俺は」

「おい、仮面野郎、マリーに手出すんじゃねぇ!」


 ダミアンが憤怒ふんぬした。仮面の奥から発せられた男の声は意外にも若く、しかしどこか掠れた、抑揚よくようのない冷めた声色をしている。


「俺に用があるんじゃないのか」

「そう。ミチノルカ、お前に用がある」

「だったらマリーとダミアンは関係ないだろ」


 しばらく間をあけて、仮面の男はマリーをぞんざいに放り投げた。芋虫の様に床を転がったマリーに駆け寄りダミアンは震える体を力強く抱きしめる。そして、その怒りを内包した瞳でぎっと男を睨み付けた。


「てめぇの仮面を引っぺがして、ぶん殴ってやる」

「お前らに用はないんだよ。邪魔だからさっさと出ていけ。それからこれを言うのは二回目だが――俺はあんまり気長な方じゃない」


 目の部分がくり抜かれただけの真っ白な仮面が、左に数回、キリキリと奇怪にその顔を捻った。表情の見えない仮面は薄暗い部屋でぼうっと浮かんでいるように見える。まるで亡霊だ。ダミアンは前身がぞわぞわと粟立つのを感じた。


「ダミアン。マリーを頼むよ」


 ダミアンは震えながら頷いた。そして、マリーを抱きしめながら這いずるようにして工房を出ていった。


 外はいよいよ大降りで、窓を叩きつける雨音だけが響いている。保管部屋にある唯一の光源がひどく頼りなげに室内を照らし出していた。閉鎖的な空間が、目の前の仮面の男をいっそう不気味にみせる。


「単刀直入に言おう」

 口火を切ったのは仮面の男だった。

「地下室の扉を開けろ」

「地下室……?」


 心当たりのない要求に、ルカは訝しげにその男を見つめた。

 ルカの知っている道野家の敷地には広大な放牧場や麦畑、丸太小屋や工房があるだけで、地下室なんてものは存在しない。そもそもこの建物が建った当時のことをよく知るのは光太郎であって、ルカではない。

 タンタンと地面を踏み鳴らす音が忙しなく雨音に交じった。中々口を開かないルカに苛立たしさを募らせているのだ。


「地下室なんてものは知らない」

「知ってるか、知ってないか? ――そんな話をしてるんじゃない」


 男は黒いマントをひるがえし部屋の隅にしゃがみ込んだ。使い古された紺色の絨毯を手荒くどかすと、手を揺らめかせながら床をなぞり始めた。そして次の瞬間、男は床に扮した扉をがばりと開いてみせた。砂埃が宙に舞う。ルカは思わず袖で口元を覆った。


「俺は『開けろ』と言ったんだ」


 ルカは目を見張った。今までただの床だと思っていた所に突如出現した、正方形にくり抜かれた穴。薄暗闇の穴の中には地下へと続く石造りの階段が続いている。


――こんなものがどうしてここに?


 驚きを隠せないルカの腕を乱暴に掴むと、男はマントの中に忍ばせていたエネルギー式のランプを掲げ、地下室へと下って行った。


 階段の終わりには石板の様な扉が一つあるだけだった。周りは剥き出しの土の壁で、雨の影響か少し湿っている。灯りをともすランプも見当たらない。

「ただの石でできた扉に見えるだろう?」

 古びた一枚岩の扉は、細工も何も施されていない簡素な造りであると言える。――その右端に取り付けられた奇妙な機械以外は。

「五十年前に封印されたロストテクノロジーの類が、なぜこんな山奥の村にある?」

 仮面の男は誰ともなしに呟いた。


――ロストテクノロジー? 何のことを言っているんだ。


 ルカは顔をしかめた。箱型の機械の表面には雲母のようなプレートが張り付けられている。それも加工的な、四:三の綺麗に揃えられた長方形だ。確かにその小さな箱のようにも見える機械は石の扉や土壁からは浮いているように見える。どこかこの時代とはかけ離れた神秘性を帯びているのだ。


「コータローは役立たずだったが、あるいは役に立ったかもしれない。息子の名前を出せば簡単に情報を漏らすんだからな」

 父の名前を耳にし、ルカは男の横顔を睨み付けた。そんなルカの視線をものともせずに、仮面の男はルカの右手を捻りあげた。

「いた……ッ」

 ランプの光に照らされて、右手薬指にはめられた指輪がにぶく光る。

「これが『ベルナールの指輪』……」

「え?」


 聞き返すルカの言葉はもう男の耳には入っていない様子だった。捻りあげたままの腕を乱暴に機械に近付けると、雲母のようなプレートに指輪をかざしてみせた。

 その途端、機械からは青白くまばゆい光が発せられ、その光は一瞬にして石の扉を駆け巡った。ルカが瞬き一つもしないうちにその光は消えおおせ、やがて辺りは元の暗闇に包まれた。

 呆気にとられたまま動けないルカを尻目に男は石の扉に触れた。先程までびくともしなかったその扉は、少々力を込めて押すだけでいともたやすく開かれた。僅かな隙間から油のような臭いが漏れ出している。


 ふらりと開かれた大穴の奥へ足を踏み出す男を見て、ルカは今だ、と思った。

 この石の扉を閉めてしまえば――。


「言っておくが俺は、怪盗”団”だ。一人じゃない。地上には他の仲間もいる……分かるよな?」


 抑揚のない氷のような声が暗闇に木霊する。ルカは押し黙るしかなかった。


「そう。良い子だ。さぁこっちに」


 仮面の男は手招きをしながら、壁に設置されたスイッチを押した。天井から吊るされた、保管部屋と同じ大きさの裸電球がぼんやりと地下室を照らし出す。そこは地下にくり抜かれた洞窟の様な場所だった。ごつごつとした壁は何かで塗り固められているらしく、土がむき出しになっているようなことはない。湿度も温度もまるで感じない不思議な空間だった。小さな木製の机の下にはいくつかのブリキのバケツが転がっていて、上には何も置かれていない。

 ただその奥に、薄汚れた布に包まれた何か・・がある。

 ルカは視線を中央に戻した。部屋の真ん中にぽつんと置かれた木製の椅子。それに向かい合うようにして置かれたイーゼルと、布のかけられたキャンバス。

 なんて寂しい場所だろう、とルカは思った。そして同時に、地下室に充満する油の臭いの正体がイーゼルに乗せられた絵画から発せられていることに気が付く。


「あれが『白金の乙女』か?」


 男はキャンバスに掛けられた布を鷲掴むと、脇へと投げ捨てた。

 そこに現れたのは一人の女性が描かれたキャンバスだった。肩に届かないほどのくせっ毛は栗色で、太陽の光を浴びた部分が少しオレンジ色に輝いている。すもも色の衣服を身にまとい、レモンの様にみずみずしい、弾けそうな笑顔をこちらに向けている。


 道野マリア――ルカを産み落とした時、その命を代わりに失くした、光太郎の妻。


「これじゃない。どこだ? 絶対ここにあるはずだ。一体どこに――」


 さまよう男の視線がある一点を見つけてはた、と止まった。マリアが描かれたキャンバスよりも一回りほど大きい、布に包まれた『何か』。男は吸い寄せられるようにしてそこに近付き、そっと薄汚れた布を取り払う。


「これは……」


 古びたキャンバスは半分以上が欠落していた。正確に言えば切断されていた・・・・・・・

 天使のような白いシルクのローブに身を包んだ少女の、微笑んだ口元が描かれている。しかしそれ以上の情報は、この不完全なキャンバスからは読み取ることができない。

 男はそのいびつな絵画を再び布で包み直すと、防水用の袋に丁寧に仕舞い込み、仮面の奥から不敵な笑い声を漏らした。


「まぁ良い。これで白金の乙女は手に入った。あとは――」

 男はマントの中から同じ闇色のグローブをはめた指でルカを指差した。

「右手に光る『ベルナールの指輪』をいただこう」


 ルカはとっさに左手で指輪を覆い隠すように右手を握りこんだ。仮面の奥の表情が見えないせいで、徐々にルカの心に焦りが積もる。


「ああ、わかった。従う。でもそれは、地上でみんなが無事かどうか確かめてからだ」

「俺たちは抵抗しない相手には手をあげない」

「あんたの言葉は信用できない」


 父を刺しておいてよく言う、とルカは心の中で悪態をついた。

 すると男は不気味な仮面を震わせてけたけたと笑い始めた。


「これを言うのは三回目だ……分かるよな? あんまり気長じゃないんだ、俺は」


 一瞬仮面に空いた穴の向こうにぎらりと光る瞳が見えた。悪魔のような恐ろしい目だ。

 その瞬間、ルカは地下室を飛び出し階段を駆け上がっていた。後から亡霊のように仮面の男が追う。


 土砂降りの中、見えない視界に、それでも灯りを目指してルカは走った。光太郎を連れて、マリーを連れて、とにかく住宅地の方へ逃げなければ。

 激しい雨粒の中、聞きなれた少女の声がルカの名を叫んだ気がした。ルカはギョッとして目の前の暗闇に目を凝らす。ニノンがこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「ニノン、何やってるんだ、戻れ!」

「あの扉を開けちゃダメなの! お父さんが――きゃあっ!」


 気が付けば目前にまで迫っていた仮面の男が、ニノンの長い髪の毛を鷲掴みにしていた。


「ニノン!」

「この少女か、その指輪か、どちらかをくれてやる」


 そう言って男は掴んだ髪の毛を上に引っ張り上げた。激しい雨音に混じってニノンの叫び声が響く。


「わかった、従うから――その子に乱暴するな!」


 ルカは男に見えるように右手から指輪を抜き取ると、ぬかるんだ地面を一歩ずつ進んだ。


「お前は中々頭がいい。コータローみたいに馬鹿な真似はしようと思うな。同じナイフで同じようにされたくなければな」


 男はマントに忍ばせた小ぶりのナイフを取り出しちらつかせる。ニノンは息を呑んでぴたりと喚くのを止めた。


 独り立ちして丸一日。父から受け継いだものをこうも早く手放すことになろうとは、ルカ本人でさえも考えてもみなかっただろう。

 雨風ににじむ視界でも、ニノンの怯えた表情がはっきりと分かる。

 ルカは息を吐いて、薬指から金属製の輪を引き抜いた。こんな指輪が他人の命より大切なはずがない。春の嵐が吹き荒れる草原に対峙した二人の距離はじりじりと縮まっていった。あと数歩で男の手に指輪が渡る――その時だった。


「! 何をっ……」


 後ろ髪を鷲掴みにされていたニノンが突如飛び上がり、首元に向けられていたナイフを使って己の後ろ髪をばっさりと切り落としたのだ。拘束されていた身が自由になったニノンは、男が驚いて滑らせた絵画の袋を拾い上げ、一目散にルカの元へと駆け戻った。


「ルカ、走ろう!」


 二人は顔にぶつかる雨粒に、目も開けられないまま無我夢中で走った。とにかく光太郎たちを連れて住宅地へ避難しなければならない。

 けれど、ルカは不安でいっぱいだった。この村で道野家はのけ者の様に扱われていたからだ。変わり者、異民族――。このまま逃げて、誰かが助けてくれるのだろうか、と。


 そのとき、驚くことに、丸太小屋までもうすぐというところで丘の向こうからたくさんの怒号が響き渡った。


「ルカー! 親父たちを連れてきた! そいつをとっ捕まえるぞ!」

「ダミアン……」


 そこにいたのはレヴィの村人たちだった。各々がクワやスコップなどを手に、土砂降りの中津波の様に駆け下りてくる。

 観念したのか、男はマントを翻して元来た方向と逆へ走り出した。闇夜と同じマントの色は、少し距離が離れるだけで水に垂らしたインクのようにその姿を夜の森へと溶け込ませた。この大雨の中で闇に潜む男の姿を見つけるのは至難の技だ。村人たちは男が走り去った闇の向こうへ罵声ばせいを浴びせ続けた。


「逃げられちまったか」

ずぶ濡れのダミアンが、しかし少し誇らしげに胸を張って言った。

「ありがとう、ダミアン」

「別にお前の為じゃねーよ。マリーの敵討かたきうちだ」

「うん。でも、ありがとう」

 それはルカの本心だった。ダミアンはフン、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「礼を言うなら、トムおじさんにも言っとけよ」

「え?」


 聞くと、トムは午前中からあやしい男を見かけていたという。そんな話を村人に話して回ったが、普段ほらばかり吹くトムの言葉に耳を貸す者はいなかった。しかし、村中にその情報を話して回っていたおかげで、夜中にもかかわらずダミアンが助けを求めた時、村人は皆その話が本当だったことをすんなりと理解したのだ。


「最初にトムおじさんが話して回ってなかったら、こんなに早くに村中の人たちをここには集められなかった」


 辺りを見渡せば大勢の大人たちが口々に「良かった、良かった」と話している。レヴィにこれほどの人間が住んでいたことに、ルカは驚きを隠せなかった。そして考えた。もしかしたら壁を作っていたのは村人ではなく、自分たち自身だったのかもしれないと。


「ちょっと、すみません、医者です。通して通して!」

 いきなり、人混みをかき分けながらひ弱そうな声を上げて男がルカの前までやって来た。ぶかぶかの白衣を羽織り、ハンチング帽を目深に被ったその男はほっそりと背が高く、そばかすが鼻や頬に点々としている。瞳は分厚い牛乳瓶の底のようなめがねによって隠されてしまっている。


「医者……ああ、もしかして、父を診に?」

「ええ、そうです。まさしくその通り! 息子のルカさんに頼まれまして」

「え?」

 そこでルカは男を凝視した。


「ルカは俺ですが――医者なんか呼んでません」


 男はへらり、と笑った。そして瞬く間に白衣を脱ぎ捨てニノンとルカに被せると、高らかに笑い声を上げた。

「そう、僕は医者じゃない! でもこの仮面は昔お医者さんが身に着けていたもの。だから医者って言うのはあながち間違っちゃいない、ヒャヒャヒャ!」

 先ほど消えた男と同じ黒いマントを身にまとい、その顔は鼻の部分が下に伸びた、カラスのような形をしたマスクに覆われていた。


「あっ、絵画が無くなってる!」

 ニノンが声を上げた。

「あの男……」

「ペストだよ! 宝の持ち腐れなんてもったいないことは、これからしないようにね! ヒャヒャ」

「待て!」

 ペストと名乗った仮面の男は、白い仮面の男が消えた方向に、同じようにして溶け込んで見えなくなった。雨足の変わらない真っ黒な空を見つめて、ルカは拳を握りしめることしか出来なかった。





 一夜が明け、嵐のような雨は過ぎ去った。窓から朝を告げる柔らかな日差しが射し込み、栗の木にとまった小鳥たちは可愛らしい声でさえずりを繰り返していた。


「まぁ、その。無事で良かったよ」

 アダムは慎重に言葉を選び、ぎこちなくルカに話しかけた。

「ニノンは髪の毛が――なんつーか、勿体無かったけどさ。まぁ今の方が可愛いよ。割と本気で」

 ニノンはその膝に寝息を立ててぐったりしているレオを乗せ、ゆるゆると頭を撫でていた。前髪の横に垂れる長い髪を残して後ろ部分がばっさり無くなってしまった彼女の顔に笑顔が浮かぶはずもない。


「絵画……取り返せるかな?」

 どうやら最後に絵画を奪われたことが未だに心に引っかかっている様だ。

「ニノンのせいじゃないよ」

 ルカはまぶたを閉じて横たわる光太郎の手をぎゅっと握った。ベッドを囲む様にアダム、ニノン、ルカは丸椅子に腰掛け、光太郎が目覚めるのを待っていた。ダミアンはマリーをゾンザまで送り届けるため、つい先ほどレヴィを出たところだった。


「ルカ……これからどうするんだ?」

 アダムに問われたルカは昨夜の出来事を思い出していた。

 なぜ工房の地下にあんな部屋があったのか。扉に備え付けられていた謎の機械は何なのか。ベルナールの指輪とは一体何なのか。そして、破損した絵画が盗まれた謎――。ルカは覚えている限りを、なるべく鮮明に説明した。


「父さんが起きてみないと何とも言えないけど。でも絵画が盗まれたのは俺のせいだから、取り返したいんだ」

 そして、見るに堪えない傷み方をしていたあの絵画を助けてやりたい。そうルカは心から思ったのだ。


「ねぇルカ、その指輪の模様なんだけど」

 先ほどから話に耳を傾けていたニノンが、おずおずと口を開いた。どうしたんだろうとルカは彼女を見やる。

 ニノンは胸元をごそごそと漁り、首にかかった首飾りを取り出した。右手に握られていたのはうずら卵大の真っ青な宝石だった。それは空をずっとずっと上に行ったところの宇宙との境目の色。或いは、海を深く潜った先で見上げる、蒼い水の色。もしくは、道野琉海が持つ両眼の瑠璃色だ。

「こんなに大きなラピスラズリ、初めて見たぜ」

 アダムが感嘆の声を上げる横で、ニノンはそれをくるりと回転させた。ルカはあっと驚きの声を上げた。そこに掘られていた模様が、ルカの持つ指輪の模様と完全に一致していたからだ。

「同じ模様だよね」


『もしも指輪と同じ紋章を持つ人が現れたら、何があっても護ること。――たとえ命に代えても』


 光太郎の言葉が脳裏に過る。ルカは、何か大きな渦のようなものに流されていくのを感じた。そして、おそらくそれが運命というものなのではないか――と、柄にもなくそんなことを考えたのだった。

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