王様のため息

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王様のため息



 むかしむかし、あるところに正直でやさしい人たちが住む国がありました。そこに住む貴族も騎士も農民も奴隷といった貧しい人々ですらも人に対する優しさを忘れるような人はいませんでした。

 ある時、城に住む王様がそれはそれは大きなため息をつきました。それを聞いた執事は、

「あの優しい王様があれほど大きなため息をついたのは初めてだ。しかし、直接聞くのは執事の名折れだ……一体どうしようか」

と思い、昔なじみの占い師を尋ねた。占い師はウンウン唸ったあと、

「王の悩みは我が国と隣国とを隔てる谷より深く、我が国を囲む深い森よりも謎めいている。そうしたら国に広く聞いてみたらどうじゃろうか」

それから執事は国中に王様の悩みを解決したものは金貨百枚を与えるというお触れを発表した。

 瞬く間に国中に広まり各地で王様を心配し何か解決策はないかと噂していました。

 最初に行動を起こしたのは、王の次にえらい貴族でした。

「王は深い悩みを持っておられる。そういえば王ははるか東にある国の陶磁器をご所望でおられたはずだ。こういったことは早いほうが良い、早速取り寄せよう」

と、旅の商人に大至急取り寄せるように大枚をはたいて頼んだ。

 次に行動したのは王国防衛軍騎士隊隊長でした。

「王様のお悩みは他国のことについてにちがいない。北に最近できた新興国は我が国の領土に何度も干渉している。その国を打倒して我が国の領土にすれば万事解決だ」

と、自分の騎士隊を引き連れて北へ向かいました。

 そのあとに動いたのが貧しい人たちでした。彼らには財産もなければ力もなかったので、大いに悩みました。そのうちに自分たちの食料を王様に献上するより他がないと考えました。

 数日が立ち、王様の城には貴族と騎士隊長と一番位の高い農民が集まって、それぞれが自身のものを王様に献上していました。

「王様、私は以前よりご所望であった東の国にある陶磁器を献上いたします。手にするのに大変な苦労をいたしました。どうぞ、お収めください」

「王様、以前より王様が悩んでおられたであろう北の国の土地や建物、農耕地を取ってまいりました。この作戦に多大な犠牲を払いましたが、王様のお悩みに応えられるようなものだと自負しております」

「王様、私たち貧民層にはこれといって財産がございませんでしたのでたくさんの食料を集めました。これをお納めください」

三人の話を聞いた王様は驚いていた。

「お前たちが何を思ったのかが全く分からない。なぜこのようなことをしたのか」

貴族たちはこれまでのいきさつを話した。

「そうであったか、私が悩んでいたのはこの城にある本が全部で三千八百八十冊か三千八百八十一冊かということだ。調べたら三千八百八十二冊だったが」

その話を聞いて三人は肩を落として帰っていった。

 その後、貴族は陶磁器を得るためにかかったお金を払えずに財産をなくして失脚し、騎士隊に土地を奪われた国は仕返しをしに王国へ進軍し、農民たちが集めた食料それらはみな腐ってしまった。

 この国はそれから間もなく滅びてしまいました。

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