神秘の侵攻~五回目のラグナロク

光合成する森ロボ

第1話 絶望の流星

その日、絶望が降ってきた。

それは不気味さを感じる程に綺麗で、きらめくみどり...翡翠ひすい色に煌めきながら虚空から堕ちてくる。

無論、人々は知る由もなかった、が、、この様な事態を招いてしまったのか。

災悪やつを"招いた"代償は計り知れない。


「ママ!お星様だよ!綺麗!」

「え?まだお昼じゃない、星なんて見えないわよ」


ギュルルルルルルルルル...という

不可解な轟音、不協和音が小さく、そして平和な世界に這い寄る様に"響く"。


重く、暗い、翡翠ひすい色の光が昼の虚空に煌めいた、この時、この瞬間が


その小さな、けれど異彩を放つソレは急激にその


「え、なにかしら」

「わー綺麗!」


その刹那-


眩い輝きと共に大きな爆風が広がり、その後爆炎が追いかける様にして轟々と世界を覆う。

この時、日本から都市はおろか、文明の殆どが跡形もなく破壊された。


「うわああああああああ!!!」


一人の青年が悲鳴を上げる。

彼が目覚めた時には瓦礫の山と数え切れないほどの死体。

死体と言っても腕や頭だけの部分的なモノで溢れていた。

人が焼けた匂い、人だったモノが自分にこべり付き"離れない"。

は、青年に"死"を教えた。


「なん...だよ...これ...」


何処もかしこも見渡せば死体と炎と瓦礫。

自分以外の全てが消え、死に絶え、孤独感すらも感じる困惑と恐怖。


そして、死の匂い-


だが、これらの"日常"は


奴に、""されたのだ。


「グギャアアアアアアアアアアアア」


凡そ人間とは思えない咆哮とも言える爆音。

何かの"音"。何か、"異質なモノ"。

満身創痍になりながらも、音の方角に青年は歩く、炎に包まれ、死の匂いに包まれ、死体や瓦礫の上を一歩一歩、進んでいく。


まるで、


「ひっ!化け物!」


青年が見たのは百メートルはある大きさでタコのような触手が七本。

それとは別に太い足が四本、それらはザラザラの鱗の様なモノに覆われ、吸盤のような何かも付いていた。

そして、頭と思われる個所には大型のリングが浮いている。

翡翠色の体に無数にある深紅の瞳。青年が見てきたどんな生物とも似つかないソレは凡そ生物とは形容し難い存在なにかだった。


何処か無機物のような異質な存在。

意識的にも、無意識的にも"敵わない"と認識させる存在。

だが、それと同時に何故か、神々しさすら感じていた。


「お前が...お前が俺から奪ったのか?!」


「クギャァ」


キチキチと青年を嘲笑う様に思えるソレは、事を示している様に思えて仕方がなかった。


「返せよ、家族を!仲間を!皆を!」


「グギャアアアアアアアアアアアア!」


翡翠色の化け物は青年に関心が無くなったのか、再び辺りを破壊する。

触れることなく建物は押しつぶされる様に、ただただ、破壊されていく。


「アイツ浮いているのか?重力を操れるのか?空を...飛べるのか??」


必死になりながらも、青年が冷静にソレを分析しているとヘリコプターやジェット機が飛ぶ音が普段より聞こえてきた。

自衛隊を始め、世界中のあらゆる組織と思われる者達が怪物に攻撃を仕掛けていた。


だが、奴は

ヤツは"異質"。"誰も敵わない"。


「誰か!...誰か助けてくれ!自衛隊でもなんでもいいから!アイツを...倒してくれ!!」


青年の願いは空しく、ヘリコプターは近寄るだけで墜落し。

ジェット機はソレが触手を一振りするだけで砕け散った。

銃撃や爆撃は勿論、ナパーム弾も一切の効果が見られない。その姿はまるで、"人間を見限った神の怒り"にも思える程におそろしかった。

そして、次の瞬間。


「グギャ、キチャアアア!」


奴の周り、否、奴自身からあお...碧色へきしょくの液体が放出された。


その液体は空中で静止し、平たく鋭い、刃のような形に凝縮されると無差別に辺りに放たれ、破滅をもたらした。


そして再び静寂が訪れる、それは何時いつものアノ...平和故の静けさではなく。


奴以外の全ての生物が消えた様な、地球の...人類の敗北とも言える様な、そんな静寂だった...。


一つの生命体によってもたらされた災悪。

生きるも死ぬも、ソレ次第だとも感じ取れる其奴そいつは、まるで。と言わんばかりに平和の上に浮遊している。


「お前を...絶対に許さない。人類をなめるなよ...化け物!!」


青年は吠える、心を保つためか、本心からか。

人類ならばコレをなんとかしれくれると信じて。

だが本当は分かっている、このままでは無理だ。ヤツには敵わない...他力本願ではコイツは殺せない。ならば...


「お前は俺が殺す、他の誰が死んでもお前を仕留めるその時まで!」

「そして!俺は絶対に死なない。必ず...必ず、復讐してやる」


これは青年の復讐と苦悶の日々の始まり。

だが、同時にこの侵攻もまた、始まりにすぎないのだと。


それを知るには、まだ人類は脆弱すぎたのだ。

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