【第105話:迷宮踏破とは】

 迷宮挑戦二日目の朝。

 日課の朝の鍛錬を終えたオレは、食堂へと向かった。


「昨日のうちに練習できる場所を確認しておいて良かった。やっぱり朝に鍛錬しないと、何かこう身体がスッキリしないんだよな」


 王都ではユイナやメイシーと共に、日中に連携の訓練などは行っていたが、朝の鍛錬は適当な場所がなくて出来なかった。

 また、王都からこの迷宮都市ガイアスまでも、護衛をして貰っている立場上控えていたので、朝の鍛錬はかなり久しぶりだった。


 そんな久しぶりの朝の鍛錬を終え、宿の食堂に戻ってくると、いつも朝ギリギリに起きるメイシーがユイナと談笑していた。


「メイシーがこんな早くから起きてるなんて珍しいな」


「なんや。失礼やなぁ。心配せんでも今日はたまたまやから安心しぃ」


「何を心配して何を安心するかが変な気がするけど、メイシーさんらしいと言えばらしいね……」


 乾いた笑いを浮かべながらユイナがそう言うと、メイシーは「そやろ?」と何故か嬉しそうだ。


「それより、今日はいよいよ第二階層に挑む。実質今日からが迷宮探索の本番だから気を引き締めていこう」


 第二階層といっても、実際は警戒するほど強い魔物はいない。

 ただ、アクシデントが起こり始めるのは第二階層からで、昨日の蟻の魔物の大量発生などは、第一階層では起こらないそうだ。


 つまり、迷宮探索の危険度は第二階層から一気にあがる。


「まぁでも、一部の魔物は迷宮から出ようと移動し続けるらしいし、昨日の蟻みたいに得物を追いかけて階層跨いで移動してきよるし、結局どこの階層だろうが危ないっちゅうことやけどな」


「確かにそうだな。それに召喚者や聖王国の動きも気になる。最大限の警戒をしつつ迷宮のの踏破を目指そう」


 迷宮攻略。迷宮踏破。言い方は色々あるが、その意味する事は一つだ。

 それは迷宮最奥に出現する『迷宮の主』を倒すこと。


 この世界の迷宮の最奥には、必ず『祭壇の間』が存在する。

 その祭壇の間には大きな転移魔法陣が存在し、その転移魔法陣から飛んだ先に待ち受ける『迷宮の主』を倒す事で、迷宮攻略の報酬を得る事が出来る。


 だが、この転移魔法陣の飛び先は一つではない。


 今までにも迷宮の最奥にある祭壇の間に辿り着き、迷宮の主に挑んだパーティーはかなりの数に上るが、パーティーごとに飛び先も、そして待ち受ける敵も変化するのだ。

 しかも、真のパーティーメンバーで挑まなければ、迷宮の主と戦う事無く、そのまま迷宮の外に転移させられる。

 そのため、貴族などが強い冒険者などを雇い、挑戦しようとしても、迷宮の主と戦うことはできないそうだ。


 そして、同じパーティーで再度挑んでも変化する。

 それは迷宮の主も、その主に打ち勝った際に手にする報酬も。


 だから、一度攻略に成功したからと言って、必ずしも次回また勝てる保証はなく、最奥の祭壇の間までの道のりも厳しいため、攻略パーティーであっても命を落とす者も多いと聞く。


 しかし、その報酬は破格らしく、一度攻略に成功したパーティーでも、いや、一度攻略に成功したパーティーだからこそ、何度も迷宮に挑み続ける。

 故に迷宮都市で活動する高ランク冒険者たちが多いのだ。


「でも、まずは第三階層まで辿り着くのが目標だよね」


「あぁ、日帰りで探索できるのは第三階層までらしいからな」


 第四階層以降を目指すと、どうしてもその日のうちに戻ってこれなくなる。

 だから二日目の今日の目標は、第三階層に辿り着き、一通りの探索を終えて戻ってくることだ。


「じゃぁ、さくっと第三階層に辿り着いて、今日も宿の柔らかいベッドで眠れるように頑張ろか~」


 こうしてオレたち三人は、朝食を終えたあと、迷宮へと向かったのだった。


 ~


 昨日と同じように迷宮入口で木札を渡し、手続きを終えたオレたちは、さっそくとばかりに迷宮へと足を踏み入れた。


 今日は最初からすぐに第二階層を目指しているので、魔物を出来るだけ避けるように迂回し、昨日、大量の蟻の魔物と遭遇した階段のある場所へと向かった。


「今日はラットマンの群れと二回戦っただけで、ここまでこれたね」


「こんなに上手く魔物を避けれたのは、ユイナっちの探知の技能のおかげやで」


 ユイナは魔力を探る能力が高いだけでなく、転生時に得た『探知』という技能のお陰で、周囲の人物や魔物の位置を把握する事が出来る。

 隠密系の技能などを使われると完璧ではないらしいが、この迷宮を普通に踏破する上では大いに役立つ。


「でも、転生者とか聖王国の人たちは、ボクの探知の技能のことも知ってるから、きっと仕掛けてくるときは何らかの対策をしてくると思うんだ。だから、トリスくんとメイシーさんは気配察知をお願いね」


「わかってるよ。油断はしていないつもりだ」


「まぁその辺りはうちも自信あるから任せときぃ」


 正直オレは、あまり気配察知など自信はないのだが、さすがに殺気を向けられれば気付けるとは思うし、メイシーに関してはその辺りも抜け目は無いだろう。


 奴らが何か企んでいたとしても、そうそう遅れをとるような事にはならないとは思う。


「お。もう階段が見えてきたで!」


 そして、順調に第二階層へと続く階段まで辿り着いたオレたちは、そのまま第二階層へと降りていった。


 建物に換算して四階ほどだろうか?

 長い階段を降り、オレたちは第二階層へと降り立った。


「事前に調べた通り、あんまり代わり映えしないね……」


「まぁこの迷宮は、ほとんど同じような感じらしいからな」


 この世界にある迷宮は、階層ごとにその様相を大きく変化させることが多いそうだが、このガイアスにある迷宮に関しては、ほとんど似たような石造りの迷宮で統一されている。


「でも、ここからはだだっ広いだけやなくて、迷路みたいになってるから、迷わんように注意せなあかんで」


「そうだな。第一階層は視界が悪いだけで、迷うような要素は無かったからな」


 それに、通路を進んでいく形になるので、魔物がいるとわかったからと言って、第二階層ここからは避けて通るわけにはいかない。


「んじゃまぁ、さっそく出迎えてくれてるみたいやし、蹴散らして前に進むとしよか~」


 メイシーのその言葉を合図にオレたちは、昨日の生き残りと思われる蟻の魔物の群れとの戦いを始めたのだった。

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