【第96話:襲撃の目的】
最初に異変に気付いたのはメイシーだった。
「ちょい待ち! 何か変や……念のためいつでも戦えるようにしとき」
メイシーはさっきかなりの量のお酒を飲んでいたので、一瞬冗談で言っているのかと思ったのだが、その目を見れば、それが真剣なものだとすぐに気づいた。
「わ、わかった」
オレは念のために仮面を魔法鞄から取り出し、腰の魔剣に手をかけ、いつでも全力で戦闘に臨めるように準備しておく。
そして、ユイナと視線を合わせると「頼む」と一言声をかけた。
「うん……任せて」
ユイナの全耐性向上の光魔法は、強化魔法の一種なので、それが何の属性かはまずわからない。
そこで、何かあるかもしれないときは、先にユイナに強化魔法をかけてもらっておき、必要に応じてオレが仮面を付けることで、能力の解放を瞬時にいつでも行えるようにしたのだ。
準備の整ったオレたちが、辺りを警戒しながら近づいて行くと、馬車が破壊されているのが見えた。車輪が壊され、傾いているようだ。
「いったい何があったんだ……」
そして近づくにつれ、設営したテントも破壊されているのが見えたのだが……。
「きゃぁぁ!?」
そこで、ユイナが血を流して倒れている護衛の騎士たちを発見した。
「なっ!? お前たち!?」
続いてその惨状に気付いたザリドが駆け出そうとするが、素早く回り込んだメイシーに止められる。
「たんまや! ザリドっちは回復できんやろ? うちと一緒に周りを警戒や! トリスっち! うちらが周りの警戒しておくから、二人で回復魔法や!」
「わ、わかった!」
こういう予期せぬ事が起きた時のメイシーはいつも感心させられる。
オレたちは、なんとか冷静さを取り戻し、すぐに行動に移った。
素早く仮面を付けていつもの全能感に包まれたオレは、警戒しつつ倒れている騎士に駆け寄り、状態を確認する。
「大丈夫だ! 生きている!」
「こっちの人たちも大丈夫だよ! これなら助かるはず!」
すると、ユイナの報告に続き、周りの警戒に回ったザリドの方からも声があがった。
「くっ!? こっちにも二人も倒れている! 頼む! こいつらも助けてくれ!」
オレが駆け寄った者とは別の倒れている者たちも、全員が生きていることに安堵の息を吐き出す。
「すぐに治療してまわる! 待っててくれ!」
オレの使える回復魔法は、水属性の第一位階の回復魔法だけだが、ブースト状態で使用すれば、その効果はスノア殿下にせまる効果がある。
ユイナは水属性の第二位階の回復魔法が使えるが、回復の効果だけならオレの使う第一位階の回復魔法の方が上なので、オレが順番に回復魔法をかけて回った。
「し、信じられん回復力だな……しかし、やはりただ者ではなかったわけですね! まさか仮面の冒険者の一行だったとは!」
さすがにこのような被害が出ている状況で、オレたちの正体を隠し続ける事は不味いと判断し、その身をあかしたのだ。
そして、部下の命も助かってホッとしたのか、またザリドのミーハーな部分が顔を覗かせていた……。
「そ、それより、何があったのか皆を起こして確認しましょう。メイシーが見張ってはくれていますが、まだ警戒をとくには早いですよ」
オレはさっきザリドに説明する際に、既に仮面をはずしている。
ザリドの判断で、部下にまでは教えない方が良いと言うことだったので、倒れていた者たちには、引き続き正体を隠すつもりだ。
「おい! 起きろ! いったい何があったんだ!」
ちょっと乱暴ではと思うほどザリドが強く揺すると、部下の一人が気怠そうに目を覚ました。
「あれ……いったい……ザリド小隊長?」
「寝ぼけていないで、しっかりしろ! いったいここで何がおこったんだ!?」
その問いかけに、ようやく意識をはっきりさせたのか、ザリドの袖をすがるように掴み、訴えかけた。
「と、突然……突然、現れた、黒ずくめの一人の男に、皆やられたんです!」
「なっ!? たった一人にやられたのか!?」
「は、はい……あっという間でした……面目ありません」
他の者たちも起こし、詳しく話を聞いてみたが、本当にあっという間の出来事だったらしく、皆黒ずくめの男たちに、一刀の元に斬り伏せられていったようだ。
しかも、護衛の者たちは、軽量の物とはいえ、外套の中にはチェインメイルを着込んでいたにも関わらず、だ。
それに、馬車などは破壊されていたが、馬も無事で、荷物も何かを取られた形跡もない。
「そうそう。その黒ずくめの男なんですが、見たことのない反りのある剣を使っていて、しかも、その剣を、こう、肩から背中にかけて背負うようにしまっていたんですよね」
そう言って、オレたちの前で動きを真似てみせてくれた。
すると、その動きを見て、ユイナがオレに小声で話しかけてきた。
「と、トリスくん……もしかするとその犯人、聖王国の暗部の人かもしれない……」
その言葉を聞いて、オレは一気に警戒レベルをあげると、ザリドさんに話しかけた。
出来ればメイシーも一緒に話に加わって欲しいと思ったからだ。
「ザリドさん、すみませんが、皆に周辺の警戒をおこなって貰っても良いですか? メイシーも含めてちょっと話したい事ができたので」
「わかった。なにか心当たりがありそうなのだな……お前たち! この野営地の周辺の警戒にあたれ! 次はもう失敗は許されんぞ!」
「「「はい!!」」」
ザリドの指示により、皆が野営地を囲むように周辺の警戒についたのを確認すると、オレはユイナに話しかけた。メイシーは既に側まで来てくれている。
「ユイナ、聞かせてくれ。どうしてそう思ったんだ?」
「えっと……ボクも軽く話を聞いただけなんだけど、聖王国で前回の召喚が行われた際に、召喚者の一人が忍者好きだったみたいで、黒装束とか忍者刀とかを伝えたらしいんだよ。それで、なんでもそれが今の聖王国の暗部組織の精鋭部隊に受け継がれているって……」
「そうなのか……ところで、ニンジャってのは何なんだ?」
「あぁ、そうか……忍者って言うのはね……」
軽く説明を受けてみたが、なんだかよくわからない話が多かった。
特に魔法を使うときに、同じ効果なのに、わざわざ『○○の術』とか言い換えて詠唱できるように訓練をするとか、目的が不明過ぎて意味がわからない……。
まぁただ、その出で立ちから、今回この野営地を襲ったのが、その者たちである可能性はかなり高そうだ。
「ん~もしかしてやけど、意趣返しやったんかもしれんなぁ」
「意趣返し?」
「そや。こっちに潜入した聖王国の人間を何人か拘束してるって話やったやろ? だから、裏の活動もしてるっちゅうザリドっちらの事を狙ったんちゃうかと思って」
メイシーも一緒に、ザリドから騎士としての仕事以外に、裏の活動も行っているという話は聞いていた。
今回の護衛の任務も、その一環だと言う話だし、メイシーの話には納得できる部分が多かった。
そして、そのメイシーの推測は当たっていた。
「ザリド小隊長! こんなものが!」
辺りを警戒していた騎士の一人が、襲撃者の残したと思われる手紙を発見したのだ。
そしてその内容は、迷宮に潜るのなら次は容赦はしないといった、オレたちに対する脅しとも宣戦布告ともいえるような内容だった。
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あとがき
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既にご存知の方もおられるかと思いますが、この度、本作、
『呪いの魔剣で高負荷トレーニング!?
~知られちゃいけない仮面の冒険者~』
が、コミカライズされる事になりました!
そしてそのWeb連載が、書籍発売に先駆けて、なんと明日、
2020/5/19(火)から『異世界コミック』にて開始されます!
※異世界コミックはコミックウォーカーとニコニコ静画にてご覧になれます
※公開時間は11時ごろのようです?
小説とはまた違った魅力の作品となっておりますので、ぜひ、ご覧ください!
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