【第80話:新たな決意】
『トリスくん! 無事なんだね!』
仮面越しに聞こえたその声に、オレも即座に言葉を返した。
「ユイナ! そっちも無事なんだな!? オレはスノア様に助けて貰ったから、もう大丈夫だ!」
『ボクも大丈夫! でも、よ、良かった……本当に、良かったよ。ボク、もうダメかと本当に思ったんだから……』
おそらく泣いているのだろう。
仮面越しにに聞こえてくる声は震えていた。
オレも今回ばかりは本当にもうダメだと思っていたし、ユイナの無事な声を聞き、喜びと安堵から、頬に一筋冷たいものがはしってしまった。
今だけは、仮面でその目元を隠せることに感謝しておこう。
「すまない。今回はオレも色々反省すべき点が多いよ。だけど、それもまずはあのデカい炎の魔族を倒してからだ」
今は、天空の騎士シャーミア以外に、さらにもう一匹別のグリフォンも加わって炎の魔族を押さえ込んでくれているのだが、やはり牽制は出来ても倒すのは難しそうだ。
シャーミアが巧みにグリフォンを操り、何とか近づいて直接グリフォンの強力な爪で攻撃しようとしているのだが、纏う炎が大きく膨れ上がり、思うように攻撃できていない。
それならばと、今度は魔法での攻撃に切り替え、先ほど一瞬見せた氷の大きな槍を上空から飛ばして攻撃し、首などの急所と思われるような場所に命中させてはいるのだが、異様なまでに魔法防御が高いのか、ほとんど傷を負わせる事ができていなかった。
『うん……そうだね。あれはボクたちが倒さないと。鑑定眼で見た感じだと、魔法は光魔法以外はほとんど効かないんじゃないかな? とりあえず今、ロイスさんに連れられてそっちに向かってるから、もう少し待って! ……え? あ、はい……はい。わかりました』
ユイナと仮面越しに話していると、何か向こうで、そのロイスに話しかけられたようだ。
何かあったのだろうか……。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
まだ残っている魔物に襲われでもしたのかと、少し心配になってそう尋ねる。
ほとんど残党狩りの様相を呈してきているが、それでもスノア殿下の『
魔法の効果で動きが鈍っているだろうが、油断できない相手には違いないので、少し不安になった。
『えぇと……ロイスさんから伝言なんだけど……そのまま伝えるね。「正体黙っていた罰だ。終わったら後で手合わせしろよ?」だそうです。さっき聞いたんだけど、今回救援に来てくれた青の騎士団の人たちは、みんなボクたちの正体を教えられたんだって』
くっ……何か別の意味で不安になってきたぞ……。
ロイスさんの事だ、きっと凄い本気の手合わせになるだろう。
でも……今は、そのロイスさんがこの戦いに駆け付けてくれている事が心強かった。
ロイスさんが来てくれれば、スノア殿下の事も安心して任せる事ができる。
「そうか。オレたちが仮面の冒険者だって知ったんだな。わかった。ロイスさんに『受けて立ちます』って、そう伝えておいてくれ」
『えぇと……それなら、直接伝えて貰った方が早いかな?』
ユイナの少し楽しそうな声が聞こえたと思うと、一匹のグリフォンが空を駆け、こちらに向かってきているのが目に入った。
「え? もしかして……ユイナ、グリフォンに乗っているのか?」
オレはてっきり馬でも確保してこちらに向かっているのだと思っていた。
グリフォンは二人ぐらいしか乗れないかと思っていたのだが、どうも短距離ならそれ以上の人数でも問題なく空を飛べるようだ。
ちょっと自分の持っている知識を修正しておこう。
『うん! グリフォン可愛い! 空飛ぶのは、乗る前は凄い怖かったけど、意外と平気だったよ! こんな時に不謹慎だけど、飛行機も乗った事がなかったから、ちょっと感動しちゃった♪』
ユイナのいう『ひこうき』というのが何かわからないが、こんな状況じゃなければ、本音を言うとちょっとオレも乗ってみたかったし、羨ましかった。
そもそも、この世界で空を飛んだ経験を持つ者なんてほんの一握りしかいないし、色々な経験をしたいというのも冒険者に憧れた理由の一つだから。
「そ、そうなのか。良かったな」
ただ、勿論そんな事を考えている場合ではないので、そんな思考は無理やり飲み込んでおく。
「ユイナも無事なようで、本当に良かったですわ……」
何とか肉眼で見える距離まで近づいてきたグリフォンを見て、スノア殿下が静かに息を吐きながら、つぶやくのが聞こえた。
ユイナが無事で本当に良かった。
でも、本当に安心する為にも、
近づいて来るグリフォンを待ちつつ、炎の魔族に注意を向け、もう一度よく観察しておく。
このエインハイト王国の最高戦力を以てしても、押さえ込むのがやっとの相手だ。
今のうちに何か少しでも攻略の糸口が欲しい。
巨大な一つ目の巨人。
最初は肩や胸だけに炎を纏っていたのだが、今は、まるで炎の鎧のようにほぼ全身に炎を纏いつつある。
近づくのも難しく、魔法もユイナの魔法以外はほとんど効かない。
その隙間から見える黒っぽい外皮は、きっと今まで戦った魔族同様かなりの強度を誇るだろうし、瘴気修復の上位互換のような能力も同じく持っているだろう。
その上、炎の魔族自身がかなり巨大なため、普通に斬ってもたいしたダメージを与えられないかもしれない。
一筋縄でいかないのは、明らかだ。
でも……オレには心強い仲間がいる。
命を懸けて共に戦ってくれる仲間が!
オレたちのすぐ側に舞い下りてきたグリフォンに向かって、叫ぶ。
「ユイナ!」
「わかってるよ! もうチャージは終わってる!」
グリフォンの背にいるユイナと視線を交わした瞬間、光の輝きがオレの身体を包み込んだ。
「ブースト!! トリスくん! 行っちゃぇぇぇーーー!!」
オレはユイナのその声を背中に受け、全能感に支配されていくのを感じながら、一気に駆け出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます