【第56話:第一級冒険者】

 ドワーフは男性と女性で随分とその容姿が変わる。

 男女とも共通して言えるのはその背の小ささだが、男のドワーフが髭面に筋肉隆々のずんぐりといった容姿に対し、女のドワーフは比較的細身で少し幼児体形だ。

 その上、寿命も人よりかなり長く200歳前後なのもあって、一見少女のように見えても、実は80歳などという事もあると言う。


 そして、今目の前にいる少女に見えるドワーフもその例にもれず、見た目からその年齢を判断するのは難しかった。


「ふぅ。うちは『メイシー』。これでも一応1級冒険者で……ドワーフの戦士や」


 笑顔で差し出された右手を、オレも笑顔で握り返し、


「オレは……オレは……」


 言葉に窮した……。


「オレは?」


 俯くオレを下から覗き込んで精神ダメージを追加するメイシー。


「す、すまない。オレは素性が明かせないんだ。すまないが『仮面の冒険者』と呼んでくれ……」


「なんやそれ? ははっ! おもろいな! よろしゅうな! 仮面のにいやん!」


「に、にいやんって言うのはちょっと……」


「はははっ、そんなちいちゃい事気にしなや。それより、さっき助けた冒険者のところにつれてくわ」


 オレの抗議の声は軽く流され、メイシーは歩き出したのだった。


 ~


 その後、偵察を受け持っていた冒険者たちに無事に合流すると、オレは皆に回復魔法をかけてまわる。


「へぇ~。第一位階の水属性の回復魔法やのに、えらい回復力やな。毒までは消せてないようやけど、進行は止まったようやし」


 残念ながらオレは解毒魔法は使えないのだが、回復魔法だけでもかなり症状が軽くなったようで、問題なく歩ける程度には回復したようだ。


「助かったよ。あんたの噂は色々聞いていたが、まさか一緒に依頼を受けれるなんて光栄だ」


「本当に助かりました。さっきまで毒で痺れていた足も動くようになったし、何とか歩けそうです」


 皆からの礼を受け取ったあと、オレはメイシーにもう一度礼を言っておく。


「だから、気にせんでええって。それより、うちも暇やし合流するとこまでは付き合うわ」


「それはありがたいが、良いのか?」


 1級冒険者がついてきてくれるなら、凄く助かる。

 オレ一人だけなら、遅れをとるような事はないだろうが、皆を守りながらだと少々不安だ。


「かまへん、かまへん。しかし、アンデッドの変異種かぁ。ほんま中々見つからんなぁ」


 その最後の言葉がひっかかり、オレはメイシーに尋ねてみる。


「見つからんって、何かを探しているのか?」


「あぁ、なんかうちそっくりの彷徨える鎧リビングアーマーが現れたらしいてな。うち、ムカつくから探してんねん。見つけたら、それはもうぎったんぎったんに……」


 途中から自分の世界に入って暗い笑みを浮かべている姿に、言っていいものか迷うが、心当たりがあり過ぎて、話さないわけにはいかないだろう。


「あぁ……メイシー? その、リビングアーマーなんだがな。オレが既に討伐したぞ?」


「へ? 今、なんて?」


 手をわきわきしながら固まるメイシー。


「だから、オレともう一人の相棒とで、数日前に今メイシーが言っていたようなリビングアーマーを討伐したって言ったんだ」


 オレの話がようやく理解できたのか、メイシーはしばらく沈黙してから、気の抜けたように座り込んだ。


「ははは、そうか。仮面のにいやんが倒したんかいな。凄い偶然やなぁ。ちょっと、うちの手で倒せんかったのは残念やけど、でもまぁ、ありがとな~」


「まぁ、たまたま出会ってしまったからな。放っておくわけにもいかなかったから、倒したまでだ」


「それにしても仮面のにいやん、見た目と違って凄い強いんやなぁ。ギルドに上がってた情報やと魔物ランクB以上とかやったのに」


「まぁ、一応オレも一級冒険者って事になっているからな」


 あまり冒険者のランクを口にするのは本意ではないが、実力をわかってもらう上では手っ取り早いので、そう伝える。


「おぉぉ! そうなんや! うち、自分以外で初めて1級冒険者とあったわ! これも何かの縁や、よろしゅうな!」


「あぁ、よろしく」


 差し出してきた右手に自分の右手を重ねて握手を交わすと、ふらつきつつも立ち上がった冒険者たちに向き直る。


「それじゃぁ、一度合流しよう」


 そう言って、歩き出したのだった。


 ~


 少し集合地点から離れていたのと、まだ本調子で無い冒険者たちを引きつれていたため、少し時間がかかったが、オレたちは無事に合流をはたしていた。


「それでこのちっちゃい奴は何なんだ?」


 そして案の定突っかかってきたラックスだったが、突然足元に叩きつけられた鉄球に腰を抜かして沈黙する。


「うちは1級冒険者のメイシーや。ちょっとそっちの仮面のにいやんの事が気になるから、手伝ったるわ」


 そして「よろしゅうな~」と、言って手をあげる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。協力は嬉しいが報酬が出せるかどうかはわからないぞ? それに、悪いが先にギルドカードを確認させてくれないか?」


 先に偵察役だった冒険者たちから事情を聞いていたサッカイ小隊長だったが、騒ぎに気付いてこちらにやってきたようだ。


「ん? あんたは~?」


「ソラルの街で衛兵の小隊長を務めているもので、今はこの討伐部隊を指揮しているサッカイだ」


「あぁ、それはサッカイはん、悪かったな。ほら、これがうちのギルドカードや」


 メイシーがそう言って手をあげると、鉄球が消えて、代わりに突然その手の中にギルドカードが現れた。

 やはり魔法鞄を持っているようだ。


「た、確かに、1級冒険者のようだな。協力して貰えるならこちらとしては非常に助かるが、さっきも言ったように報酬が出るかどうかはわからないんだが、それでも良いのか?」


 もちろん冒険者ギルドに口添えはするがと、申し訳なさそうに続けるサッカイ小隊長に、メイシーは笑みを返す。


「かまへん。そっちの仮面のにいやんが、うちが探してた魔物を倒してくれたさかい、うち、今気分ええねん! まぁ、貰えるなら貰っとくけどな?」


「そ、そうか。それなら是非とも協力をお願いしたい」


 結局、メイシーも討伐に加わる事になり、偵察役だった冒険者たちの回復を待って討伐に臨む事になった。

 少し予定より遅れてはいるが、かなりの戦力向上が出来たので、恐らく十分取り返す事が出来るだろう。


 そして半刻後、いよいよ討伐作戦が開始されたのだった。

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