【第54話:決行】

「そ、ソラル近くの街道脇で……その亡骸が発見されました!」


 ローメナのその言葉に、部屋にいる誰もが息を呑んだ。


「ほ、本当なのか? 第二級冒険者だぞ? しかも街の近くの街道脇って……」


 ドナックが信じられないと確認するが、ローメナは間違いありませんと言って話を続ける。


「し、しかも、ちょっと言いにくいのですが、その……殺されていたそうで……」


 それは街道脇で亡くなっていたのなら、そうだろうと思ったのだが、


「しかも、魔物ではなく、人に殺されていたのではないかと……」


 という、俄かには信じられない言葉だった。


「なっ!? 人にって!? 本当なの!?」

「おいおい、マジかよ……」


 黙って報告を聞いていた『赤い牙』のメンバーも思わず声をあげている。


「ど、どうしましょう? ドナックさん?」


 今回の討伐作戦の担当の職員であるワードが、不安そうにドナックに判断を仰ぐが、ドナックもすぐには答えられないでいた。

 態度や物腰からたぶんそうだろうとは思っていたが、やはりこのワードよりもドナックの方が立場が上なのだろう。

 ワードはドナックが答えをだすのをじっと待っていた。


 そして暫くの黙考の末、オレたち冒険者や衛兵のサッカイの視線を受け止めていたドナックは口を開いた。


「殺されたと言うのなら領主様や衛兵の方たちの管轄になります。もちろん調査には協力しますが、私たちは私たちのするべきことを致しましょう」


「そうですね。こちらに連絡が入ったという事なら、衛兵の詰め所にも連絡が言っている事だろうし、隊長が既に動いているはずです。事件の件は隊長たちに任せて、討伐は予定通り行いましょう」


 そして、衛兵の小隊長であるサッカイもその意見に賛同した事で、予定通り討伐に向かう事で方針は決定した。


「じゃぁ、予定通りこの後、出発します! 私は門の所までですので、この後はサッカイ小隊長の指示に従うようにお願いします」


 話し合いの中でも説明を受けていたが、今回の討伐作戦での現場の指揮は、衛兵のサッカイ小隊長だ。

 その街を中心に活動している高ランクの冒険者がいた場合は、冒険者が指揮を受け持つ場合が多いらしいが、オレはよそ者だし、『赤い牙』の者たちもそこまでランクも高くない上に一度失敗しているので、妥当な所だろう。


「それじゃぁ、以降は私が指揮を取らせてもらう。この場は一旦解散として、次の時の鐘までに準備を整え、門のところに集まってくれ」


 途中で予期せぬ事件の報告などがあったが、こうして作戦会議は終わり、当初の予定通り討伐作戦の決行が決まったのだった。


 ~


 オレは既に準備は整っていたのだが、会議を終えるとすぐに冒険者ギルドの外に出る。

 そして路地に駆け込むと、周りに人がいない事を確認してから仮面を外した。


「ふぅ……オレ、何でこんな事してるんだろう……」


 それはユイナのためとはわかっているのだが、思わず愚痴をこぼしてしまった。


「それより、殺されたと言うのがひっかかるな……」


 オレは迂回するように路地をぐるりと回ってから通りに戻ると、急いでまた冒険者ギルドに戻った。

 念のため、ユイナにもこの事を伝えておこうと思ったからだ。


 幸い、バックパックの中に紙は入れてあったので、簡単な伝言をしたため封をすると、受付で手紙の配達を依頼する。

 手紙を届ける先が同じ街の中なら、冒険者見習いや初級冒険者向けのお使い依頼クエストとして安く受け付けてくれるので、それを利用したのだ。


「お金は 通常より多めに出して良いので、出来るだけ早くここへ届けて欲しい」


 念のために、届けるのが遅くなった場合は宿の方に届けるようにも付け加えておく。


「確かに配達の依頼を承りました。おそらく昼過ぎぐらいまでにはお届けできると思います」


 依頼も終わり、冒険者ギルドを後にすると、もう一度、今度はまた別の路地に入り込み、仮面をつけてから、門の前に向かう。

 あまりにも身体が軽く、力が漲っているので、思わず走り出したくなるが、グッと堪えてなるべく目立たないようにゆっくりと歩く。


 ただ、仮面をつけている時点で、好奇の視線からは逃げられないのだが……。


「しかし、殺人か……嫌な予感がして仕方ないんだけど、変異種を放置するわけにもいかないしな……」


 さっき出した手紙で、街の近くで2級冒険者が殺されたようだと言うことと、最大限の警戒をし、出来れば今日と明日は街の外での魔法の訓練は行わないようにと伝えてある。

 朝の時点でもミミルとユイナには街の外には行かないように言ってあるが、嫌な予感がするので、念のためにもう一度手紙で念を押しておいた。


「お。仮面の冒険者さまが来られたようだぞ」


 待ち合わせ場所に着くと、もう討伐に参加する者は全員集まっていたようで、赤い牙のラックスが少し揶揄うように声をかけてきた。


「すまない。オレが最後だったみたいだな」


 別に時間に遅れたわけでもないのに、素直にオレが謝ったのが拍子抜けだったのか、ラックスは肩をすくめて、そこで会話を終わらせる。


 そのやりとりを見ていた小隊長のサッカイが、少し苦笑しながら集まった者たちの前に出ると、


「さぁ、これで全員揃ったようだし、出発するとしよう! 変異種が確認された場所までは徒歩で向かう事になるが、遅れないように頼むぞ」


 と声をかけて、少し表情を引き締めて歩き出した。


 (いろいろ気にはなるけど、まずは討伐に集中しよう)


 こうしてオレたちは、変異種を含むアンデッド討伐に向けて、ソラルの街を後にしたのだった。

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