【第27話:魔剣の主】
魔剣を手にした瞬間、オレはいつもの自分の感覚に戻っていることに戸惑いを隠せなかった。
「どういう事だ……」
しかし、試しに地面にもう一度魔剣を置いてみるが、特に変わった様子は無い。
さっきみたいに力が漲ることもなければ、魔力があふれ出ることも無かった。
それはそうだ。
いくら俺が片時も魔剣を離さなかったと言っても、魔剣を貰ってからの7年の間には、仕方なく魔剣を置いて出席したパーティーなどもあったのだから。
そう思いつつも疑念は消えず、
「そう言えば……さっきはどこに魔剣があるのかすら見失っていたよな……」
オレは近くにいた衛兵に頼んで、魔剣をどこか適当な所に隠して欲しいと頼み込む。
なぜそのような事をするのかと不思議そうな顔をしていたが、オレも顔を知っている衛兵だったので、悪いがライアーノ家の看板を利用して無理を聞いてもらった。
その衛兵が不思議そうに立ち去ったちょうどその後、ユイナが治療を終えて、オレのところにやってきた。
ちなみに、今はもう例の仮面はつけていない。
治療には水魔法しか使わないので、治療に駆け回る前に外していたからだ。
「トリスくん! あれから何とも無い?」
ユイナは何度も振り返って、オレと奴との戦いを見ていたらしく、オレが全く怪我をしていないのが信じられないようだ。
「あぁ、なんとも無いどころか、むしろ戦いの前より元気なぐらいだ」
「え? え? どういう事?? ボクなんてもうへとへとだよ~。そもそもトリスくんは、
心配そうだった瞳をジト目に変えて、呆れながらも不思議そうに首を傾げるユイナに、オレは自分の身に起こったことを話してみる事にした。
「さっきはロイスさんを早く治療してもらわないといけないから、話せなかったんだがな……」
オレはそう切り出して、今しがた自分の身に起こった謎の力の事、それによってどういう状態になったのか、そしてさっき魔剣を手にした瞬間、元の状態に戻ったこと、そして今気になった事を検証しているのだということを掻い摘んで話した。
「ん~確かに今の話を聞くと、ボクもトリスくんの魔剣に何らかの原因がある気がするな~?」
小さな顎に人差し指をあて、考えるその仕草は可愛らしいが、やはりオレと同じく魔剣が何か関係しているだろうという事ぐらいしかわからなかった。
「やっぱりユイナも魔剣がって思うよな……。でも、魔剣が力を貸してくれるとかならわかるんだが、魔剣がオレの手から離れたのがキッカケで力が漲るってどういう理屈だ??」
何気なく呟いたオレの疑問に、ユイナがなにやらハッとした顔をする。
「ん? 何かわかったのか?」
オレのその問いかけに「少し待って」と言って、暫く考え込んでからユイナは口を開く。
「前にボクの仮面の効果が効かなかった時に色々話し合ったよね? それでボクの仮面の効果は呪いの効果を利用して作られているって話も」
その話は覚えていたのでオレは頷きを返し、ユイナに先を促す。
「それでその時、トリスくんはそれは体質のせいだって言ってたけど……それが魔剣のせいだと言ったらどう思う?」
この数年、ずっとオレの体質だと思っていたのだが、確かに魔剣の効果だと言われても不思議ではない気がする。
なにせほとんどの時間を
「あり得ない話では無いと思うが、どういう事だ? すると、対呪いの耐性効果が魔剣にあるという事か??」
この魔剣の効果はわかっていないので、そう思い尋ねてみたのだが、返ってきたのは否定的な言葉だった。
「その可能性もないわけじゃ無いんだよ。でも、だけど……こういう話は知ってる? 高位の呪いは下位の呪いを
ユイナがそう呟いた瞬間だった。
またしてもオレの中に魔力が溢れかえり、力が漲っていく。
「うがぁぁ!?」
今度は2回目だったので短く叫ぶに留める事が出来たが、これは間違いなくさっきと同じ状態だった。
「と、トリスくん……いったい君は何者なの……まるで、
オレは一度深呼吸をして気持ちを落ち着けると、
「さっきもこの状態になったお陰で奴に勝てたんだ」
そして怪我がみるみるうちに治っていった事も説明する。
するとユイナは、もしかしてと言ってオレに断りを入れてから鑑定眼を使用した。
「す、凄い……」
息を呑むユイナに、オレは早く話してくれと促そうとしたのだが、ちょうどタイミング悪く、さっき魔剣を隠すように頼んだ衛兵が戻ってきた。
「トリス様、魔剣を隠してきましたが……な、何か、えらく雰囲気が変わっていませんか?」
オレは普通に突っ立っているだけなのだが、まるでオレから威圧を受けているように、その顔を少し青くしている。
「いや、ちょっと
咄嗟に誤魔化して、その場を取り繕っただけの言葉だったのだが、この後、さっきのユイナの話を裏付ける形となった。
「魔剣ですが、さすがにそこら辺に置いてくるわけにもいかないので、ファイン様に預けてきました」
その言葉を、魔剣の在り処を聞いた瞬間、オレに漲っていた力が嘘のように消失したのだ。
思わず驚きの声を上げそうになるのをぐっと堪えていると、
「そうそう。ファイン様が顔ぐらい見せに来いと怒っておられましたよ。じゃぁ、私は伝えましたからね」
衛兵はそれだけ話すと、さっき集合が掛かったからと走り去ってしまった。
「トリスくん、間違いないんじゃないかな。ボク、勇者としての教育を受けていた時に聞いた事があるんだ。魔剣の中には魂を宿す魔剣があるって」
魂を宿す魔剣の話は御伽噺だと思っていたんだが、こいつがそうだと言うのか??
オレが考えが纏まらないうちにユイナの話は続いていく。
「そしてね。その意思持つ魔剣は
オレ自身は初めて聞いた話だが、聖王国で勇者として授かった知識なら、きっとそうなのだろう。
しかし、やはりそれだと理屈が合わない。
「でも、やっぱりおかしくないか? 効果を発揮して普通の状態に戻るって、いったいどういう理屈なんだ?」
そう疑問を口にするのだが、ユイナはその答えをあっさり口にした。
「さっきね。この間通らなかったはずのボクの鑑定眼が、トリスくんに使えたんだ」
そう言えば、その結果を聞こうとしていたところだったのを思い出す。
「それでね。結論から言うと、トリスくんのその身体に秘められた能力は……」
ユイナはそこで一度言葉を切り、
「ボクの知る、どの勇者をも上回っているみたいなんだ」
そう続けたのだった。
「は? ゆ、勇者を上回る……?」
「つまり、魔剣の呪いの効果で抑えられているだけで、さっきの状態が本来のトリスくんの能力なんだ」
オレはユイナのその説明を、どこか他人事のように聞いていた。
「ん? おーい? トリスく~ん? 戻ってこ~い」
ユイナのその声にようやく自分を取り戻す。
「いや、何かこう……にわかには信じられない話なんだが、本当に本当の話なのか??」
「うん。本当に本当の話だよ」
いきなり自分には勇者を上回るような力があるのだとか、長年愛用していた魔剣が実は呪いの魔剣だったとか、すぐには飲み込む事が出来ないでいた。
でも……心のどこかで、きっと本当の事なのだろうと、納得している自分がいた。
「まぁ今はこの話はこれぐらいにして、お兄さんのところに行かなくて良いの?」
そう言えば呼ばれていたんだったと思い出し、まだ戦い残り香が漂う陣の中を、2人で歩いて向かうのだった。
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