【第4話:模擬戦】
「合格は合格なんだが……ちょっと見習いを免除にしてやろうかと思ってな。今から模擬戦をするぜ」
そう言って、口元を吊り上げ、ちょっと悪そうな笑みを浮かべるネヴァンさん。
確か、冒険者資格認定試験において、受験者が明らかに冒険者見習いの実力を上回っている場合、特別に見習いを免除して初級冒険者であるEランクから始められる制度があったはずだ。
冒険者は、その実力によってランクでわけられている。
見習いはランク外なので除き、Eランクから始まり、D、C、B、A、Sとランクが上がっていく形だ。
しかし、Eランクの初級冒険者が約3割、Dランクの中級冒険者が約5割と冒険者の大半を占め、そう簡単に高ランクの冒険者になる事は出来ない。
その上、Cランクの上級冒険者とBランクの2級冒険者を足せば2割ほどにはなるのだが、そういう冒険者は冒険に適した街に移動する傾向があるので、このライアーノのような小さな街にはほとんどいない。
ましてその数が冒険者全体の1%にも満たないAランクの1級冒険者などになると、出会うこと自体が難しい。
ちなみに、世界に数人だけしかいないSランクの特級冒険者に至っては、ドラゴンより会うのが難しいと酒の席のネタにされるほどだ。
もちろん上のランクを目指しているオレとしても、見習い免除というのは魅力的だが、それよりも試験官をするような高ランク冒険者に模擬戦の相手をして貰える方が魅力的だった。
だから勿論受けるつもりだったんだが、リドリーさんがその提案に待ったをかけてしまう。
「えぇ!? 何を言ってるんですか!? こんな成人したばかりの子をつかまえて、いじめですか! いじめダメ絶対!」
「ちょ!? いじめじゃねぇよ! こいつマジですげぇんだよ!」
「凄いって……トリスさん、成人にしては小柄ですし、魔法使いってわけでもないんでしょ?」
そう言って僕の腰の剣に目を向ける。
魔法使いは才能によるところが大きいらしく、体格や年齢に関係なく、若い頃から活躍する子が多いらしい。
でも、オレは腰に剣を差している。
だから小柄で魔法使いでもないオレでは、模擬戦は危ないと判断したのだろう。
まぁでも、俺は一応魔法も使えるんだがな。
本当に
「そいつ魔法も第一位階の魔法を一通り使えやがるぞ? まぁ魔法の方は年相応の実力っぽいけどな」
そうなんだ。
確かにオレは魔法を使う事ができる。
だけど、セロー兄さんと一緒に毎日頑張ったのに、結局、最後まで第一位階の魔法しか使えなかった。
なぜか魔法を発動させようとすると、集中が乱される感じがして、簡単な魔法しか発動させる事が出来なかったんだ。
まぁそれでも魔法が使えれば冒険でも色々と役に立つので、必死に練習して何とか第一位階の魔法は全て覚える事は出来たし、オレには魔剣があるので不満はない。
ちなみに、魔法というものは『火』『水』『土』『風』の4つの属性に分類され、それぞれの魔法はその発動難易度によって、第一位階から第三位階までに分けられている。
中には聖女だけが使える『聖』属性や、勇者だけが使える『光』属性などもあるのだが、もちろんオレは基本4属性しか使えない。
それに、冒険者で魔法使いとして認められるのは、第二位階の魔法が扱える者からだ。
その理由は簡単で、戦闘で有効な魔法が第二位階からしか存在しないからだ。
「魔法も……それに、魔法は普通って事は、剣はかなり扱えるって事ですか?」
「剣は明らかに昨日今日で出来る打ち込みじゃねぇな。どこまでの腕かはまだわからねぇが、だからこそそれを模擬戦で見極めようと思ってな」
そこまで話を聞いてやっと納得したのか、リドリーさんはようやく模擬戦の許可を出してくれたのだった。
~
倉庫から訓練用の剣を二振り取り出し、抱えてきたリドリーさんは、オレとネヴァンさんにそれぞれ手渡すと、すぐに壁際まで離れた。
「ネヴァンさん、模擬戦は許可しますが、ちゃんと手加減してくださいよ! その剣で大怪我する事はあまりないと思いますが、それでも当たれば無傷と言う訳にはいかないんですから!」
今、ネヴァンさんとオレが持っている剣は、衝撃吸収効果のついた刃を潰した訓練用の剣だ。
こういう剣も広い意味では魔剣なのかもしれないが、人の手によって作られた剣は効果が弱かったり、その効果が限定的なものが多く、一般的には魔剣とは呼ばれていない。
「わぁってるよ」
「それからトリスさん。危ないと思ったら、ちゃんと参ったするんですよ? 本当に優秀な冒険者は怪我をしないものです」
「……え? なんですか?」
ちょっと模擬戦が楽しみすぎて、聞いてなかった。
「もう! 冒険者って言うのは、どうしてこう血の気が多い人ばっかり……ん? トリスさん、腰の剣つけたままじゃ邪魔じゃないです? 模擬戦の間、預かっておきましょうか?」
「邪魔じゃありません!!」
うっ……邪魔とかいう
「ほへ!? そ、それなら良いんだけど……」
「くくくっ……リドリー、そろそろ始めて良いか~?」
「わ・か・り・ま・し・た! じゃぁ、二人とも準備は良い? ……はじめ!!」
~
剣を構え、向かい合っただけでこの人は強いと言うのが伝わってくる。
オレはずっとファイン兄さんと一緒に王国流剣術を習ってきたけど、ネヴァンさんの構えは、剣術を習っている者の構えには見えない。
おそらく実戦で鍛えあげた剣なのだろう。
隙があるように見えるのに、そこに打ち込めばいなされ、打ち返される未来しか見えなかった。
でも、それでも……。
「はぁぁぁ!!」
裂帛の気合いと共に踏み込み、まずは実直に正面からただ振り下ろす。
「っ!? さっきより、全然はぇぇな!? おい!?」
少し驚いているようだが、それでもわずかに身体を半身にして、オレの剣は綺麗に受け流された。
そのままでは態勢を崩されるので、さらに一歩踏み込んで剣の間合いを殺すと、ネヴァンさんが嫌がって後ろに下がるのに合わせ、オレも後ろに下がる事で一旦距離を取って仕切り直す。
「うそ!? ホントに凄いじゃない!?」
リドリーさんがオレの剣の腕に驚いてくれているが、正直、あんな完璧に受け流されるとは思ってなかったので、少し悔しい。
「今のがオレの実力です。次は……実戦のつもりで挑ませて貰います!」
その宣言とともに一気に踏み込んで距離を詰めると、その勢いを利用して避けにくい胸を狙って突きを放ちます。
「マジですげぇな!? でも、まだ甘いぜっ!!」
しかしネヴァンさんは、踏み込みの勢いまで乗せたオレの突きを、ただ剣先を上に構え、手首を返すだけで逸らすと、そのまま横薙ぎに振り抜いてくる。
三段突きのつもりが、完全に受け流されたせいで態勢を崩され、一段で止まってしまった。
「くっ!?」
受け流された突きを強引に引き戻すと、横薙ぎの一閃を剣先を下げて何とか受け切り、縦に剣をくるりと回して袈裟斬りするが、これもいなされる。
そこからは一方的だった。
オレの繰り出す剣閃はことごとく受け流され、明らかに手加減された一撃は避ける事も出来ず、受けて防ぐのがやっとだったのだ。
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