小さな戦い
ぼくはずっと営業規制と戦ってきました。政府がそんなことを言い出してから、ウィッターで発言を繰り返してきました。そうすると、みんなが同意してくれるようになりました。フォローを必ずお返ししていたら、いつしか何千かにもなりました。そんなみんなと一緒に、新しい戦いを始めました。
営業規制に反対し生存権を守るデモをやる。これが、ぼくたちの結論です。幸い、仲間にデモに詳しい人がいました。在日外国人の特権と最前線で戦ってきた人です。おかげで、計画はすっきり仕上がりました。これで、ネットで吠えるだけだと馬鹿にされず、アンチを黙らせることができます。ぼくたちは、効果的だからそうしていただけで、そんなことしかできないわけではないのです。アンチのやつらはぼくたちを馬鹿にしますが、それは間違っています。
ぼくたちのバックには国会議員がいるので、いろいろと便宜を忖度してもらえました。与党で活躍してぼくたちを守ってくれる豚田議員には、足を向けられません。こんどやるデモでは、多分豚田先生のおかげで、正しいことを大勢の人に聞いてもらえます。
アンチがいろいろ言っています。でも、アンチにだって、デモのプロみたいなやつらがいます。デモをやって何がいけないのか、さっぱりわかりません。むしろ、ぼくたちの方が、本当にデモなんかやって意味があるのか、納得し切れないままでした。でも、仲間を集めて正しい訴えをするのが悪いことであるはずがありません。アンチのやつらは間違っているので、あいつらのデモがいけないだけです。
ぼくたちが動き出すと、営業規制に反対してくれている有名な団体のももいろリボンから連絡がありました。代表がデモに参加したいのだそうです。ぼくたちも立派な仕事をして認められたんだなと、うれしくなりました。仲間には、ももいろリボンに寄付している人もいます。ももいろリボンは、とにかくよく活動しているので、ぼくも応援しています。いつもリウィートしているので、感謝されているはずです。
とうとうその日がきました。ぼくたちにとってもはじめてのことです。でも、ネットの盛り上がりはものすごいことになりました。何百人もの人が注目してくれました。もっと大勢の人にぼくたちの正しい考えが届いているはずです。だから、きっと、ものすごい人数になると思っていました。
集合場所の小塚原第七公園には、予定よりちょっと少ない十人くらいがいました。このくらい多いと、挨拶をするのもたいへんでした。寒かったりして、急に参加を諦めた人もいます。仕方がありません。ぼくたちは、デモを始めることにしました。ネットでときどき実況していると、声援が返ってきます。正しいことをするのは気持ちのいいものです。
ぼくたちは、学者ではないので、むつかしいことは言えません。なので、主張するのは、営業規制反対、それだけです。通り道で出会う人たちは、けっこう長くこちらを見てくれるものです。しばらくすると、足が疲れて歩けないと離脱するメンバーもいました。ぼくたちは、予定があるので置いていきました。そういえば、名刺を配っていたももいろリボンの豚野さんも、どこかでいなくなっていました。
デモを続けていると、おまわりさんが何人かやってきました。どうやらぼくたちを守ってくれているようです。きっと豚田先生が取り計らってくれたのです。うれしいなあ、ありがたいなあ、と、思いました。おまわりさんは、忙しそうに無線で話しています。きっと野党のやつらとかアンチがぼくたちの邪魔をしようと企んでいて、おまわりさんが戦ってくれているに決まっています。
みんなけっこう疲れてきたので、公園で休むことになりました。ぼくたちが入った公園では、関係ないデモ隊が集合していました。派手なプラカードや幕を出していて、プロのぱよちんっぽい薄汚い連中です。こいつらは、生活保護がどうのと言っています。そして、公園を占拠して、ぼくたちの邪魔をしているのです。
「どけ!」
素晴らしいリーダーは、邪魔なやつらにどなりつけてくれました。正しいことをしているぼくたちのために、どうでもいいことを言っているやつらが譲るのは、当然です。それなのに、いらないやつらがいつまでもどかないので、リーダーは切れたのです。ところがうざいやつらは、少しこちらを見た後は無視しています。ぼくたちも、我慢ができなくなりました。
「国へ帰れ!」
「ナマポのくせに生意気だぞ!」
「死ねや貧乏人!」
「俺たちの邪魔すんなや!」
みんな、それぞれに、邪悪な奴等を批判しています。どれもこれも、もっともです。ぼくもがんばって言葉をふりしぼりました。邪魔なんだよとか臭いとか言ってやったはずです。
それでもぱよちんのやつらはぼくたちを無視しています。仕方がないので、何人かが殴りかかりました。ほかにどうしようもありませんでした。正義の無慈悲な鉄槌は、いいものです。ぼくも、石を投げて応援しました。でも、それからすぐ、おまわりさんたちが現れました。
ぼくも逮捕されましたが、正しいことをやっているので、納得できません。逮捕するなら、いらないやつらの方です。あいつらを死刑にして、ぼくたちは無罪で、営業規制もやめるべきです。こんな正しいことがわからないなんて、おかしいです。
◆
「これが供述?」
「ああ。」
「精神鑑定でもする?」
「どうしたもんかね…」
「発表は?」
「した。」
「ほう…なるほど、ネットにゃ記事があるな。」
一人は、何やら検索などしているようだ。
「あいつらが自分で実況してたからな、証拠も資料も十分あるから、早いだろ。」
「クズとかカスとか言われてやがる…けど擁護もあるのか。」
「ひきこもり仲間もいるんだろ。いつものことさ。」
「にしても営業規制ってなんだ、わかりにくい…って、そりゃ誰でもそう思うよな。」
「それを気にしないのがあいつらだ。内輪だけで盛り上がる。デモをやる連中の中でも最底辺だな。」
「ところで豚田さんはどう噛んでるの?」
「一部こいつらと似たようなことを言ってる。それだけ。豚野は子分みたいなもんだけど。」
「はぁ…ったく、余計な仕事ばっかり増やしやがって…」
「ああ、そうだな。」
二人の刑事は、虚ろな目をしていた。
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