えっちなのはよくないです

 卑猥なものを許せません。だから私は戦います。

 奴等はそれをなんとも思っていません。それが私たちへの侮辱であり、攻撃であり、害毒であることを知らないからです。だから私は、教えてやるのです。


 ある日私は、少年向けのマンガが卑猥な内容なのを知りました。なんとひどいことでしょう。そんなものが許されるはずがありません。私は、みんなと一緒に戦いました。

 考えてみてください。男が転んだら、なぜか女性が性器を男の顔に乗せたりするのです。どうして女性がそんなことをしなければならないのですか。これは女性の人格を否定する暴挙です。許されません。

 そんなくだらないものを好む奴らは、おめこ干しをなどと懇願してきます。いい気味です。でも許せません。日頃のコーマンな態度が、いけないのです。ほとほと呆れながら、私は追撃しました。


 これからも、卑猥なものを許さない戦いを続けていきます。特に、いち早くそういうものを見つけて教えてくれる先生たちには、感謝するばかりです。


「なんだよこの誤変換…」

「そんなことばっかり考えてるんでしょうね。」

「ほとほと呆れるのはこっちだよ…しかしすごいな。」

「普段、何と戦ってるんでしょうね。」



 奴等は探している。卑猥なものを。より正確には、卑猥だと認定できるものを。

 奴等がどうでもいい絵に噛み付いたことがある。いまどきのアニメ風の、いわゆる萌え絵に近いものだ。観光地のイメージキャラクターだったか。奴等は公認を撤回させた。

 奴等は、卑猥さを見出すことに快感を覚えている。そうでもなければ、このような行状はありえない。考えてもみてほしい。ちょっとそれっぽい絵を見て、こいつぁエロいぜハァハァハァハァって興奮している図を。なんと気持ち悪いことか!

 確かにそうだな、えっちなのはよくない。気持ち悪いもんな。だから規制に賛成します。


「何言ってんだこいつ…」

「気持ち悪いってことしか伝わりませんね。」

「言い分はわからんでもないけどな。」

「でもなんかすごいですよね。」



 卑猥なマンガやアニメをやめさせましょう。子供によくないにきまっています。私は子供はいませんが、わかります。賛成派はそんなこと証明されていないとか言いますが、気持ち悪いオタクの気持ち悪さこそ証拠です。あんなものばかり見ているから気持ち悪くなるのです。ああ気持ち悪い!

 芸術的で美しいBLを規制するなど考えられませんが、気持ち悪いオタク用の気持ち悪いオタクアニメは禁止すべきです。


「何言ってんだこいつ…」

「気持ち悪いとしか伝わりませんね。」

「さっきのと立場は逆だけどな。」

「にしても勝手なヤツ…」

「BLはいいんですね。」

「俺からしたら、BLの方がいやだけどな。」



 卑猥だから問題なのでしょうか。違います。アニメだからいけないのです。マンガも同じです。愛好家が集まるところに行ってみてください。卑猥な絵がたくさん飾られています。しかも、ふとももを露出したハレンチな女性がたくさん客引きをしています。そんなところですから、とんでもないものが売られているに決まっています。女性をなんだと思っているのでしょうか。女性の敵であるアニメなど、許してはいけません。私が大好きなアニメを残して、禁止すればよいのです。


「何言ってんだこいつ…」

「…って言うのも何度目ですかね。」

「そうだな…」

「次、いきますか。」



 ぼくは、えっちなまんがに救われました。女の子に相手にされないぼくでも、まんがを読むことはできます。主人公になったつもりになって、気持ちよくなれるのです。だから、えっちなまんががないと、この世の終わりです。とくに、ょぅι゙ょが触手にせまられて、ついには全身の穴に触手を入れられたり(ここで音読が途切れる


「ええっと………まあ、こんなご意見が届いているのだが…」

「どれもこれもダメですね。」

「ああ…具体的な話がろくに出てこん、憶測妄想感想ばっかり。」

「たまに細かいのもあるにはあるけど…」

「出せねえよな。ちょっとな。」

「やっぱ、この募集、無理があったんじゃ…」

「それは言わない約束だ。しかしな…」

「要約のしようがないですよね、これ。」

「ああ…」


 国家健全性判定局で、職員たちは頭を抱えた。不健全な空想表現の規制に関する意見募集には、そういう意見が大量に届いていた。期限は先である。職員たちの苦悩はまだ終わらない。


「これ、どう処理したらいいんだろうな。」

「部下にきかないでくださいよ。」

「それもそうだ。すまん。」

「でもどうしたもんですかね。」

「俺もわからんのだ。」

「もっと上に持って行くしかないんですかね。」

「大臣…いや、首相まで行くぞ、そうなると。」

「あー。困りますもんね。」

「だから、俺らまででなんとかするしかないんだよ。」

「論点を整理して、賛成と反対で分けてみますか。」

「それ、いいな。後でやろう。他になんかないか?」

「但し書きっぽいものは、多様過ぎるので例示で済ませるとか。」

「それでいこう。」

「でもなあ、分類と説明に困るかも。」

「うん?」

「だって、規制賛成、ただしBLは除くとか。BLとはって説明しなきゃいけないんですよ。」

「本物から抜粋して例を見せよう。」

「リョナとかもですか?」

「もちろんそうだ。あ、近親相姦もな。」

「今度は例を探すのが大変そうですね。」

「東京都の指定一覧でも見ようぜ。」


 二人のため息がこだました。


「…とりあえずキャバクラでもいっちゃうか。」

「いいんですか、ゴチになります!」

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