天岸日影

忌節

秋は嫌いだ

消えていく活気

いよいよもって心を沈ませる

目をそむけた諸々が

そこにあると思い知る


冬は嫌いだ

暦の春も未だ冬。

(さむいよ)

文明から切り離され、

(おなかがすきました)

空腹すら空腹の果てではない。

(帰りたい)

行く先は雪に閉ざされ、

(だめ来ないで)

一縷の光明も、

(どうして)

それは何かと引き換えたものである。

(来ないでって言ったのに)

愛故に。


春は嫌いだ

二転三転する三寒四温

いよいよもって耐えがたい

始まりの季節と云うものの

何も始まるものはなく

ただ停滞だけが時を満たす


梅雨は嫌いだ。

振り続く雨は染みとおり

疲れた体を錆びつかせ

止まった心を腐らせる


夏は嫌いだ

突き抜けるような青空

車の窓に寄りかかる半袖の肘

アスファルトの熱

灼熱に弱る体

チリチリと灼ける肌

線香の香り

一定に刻み続ける読経

粛々と続くセレモニー

「だが夏は君の誕生日じゃないか」

それ故に。



◆あとがき◆

夏の空が暑く、あまりに青かったから

都市の中の田舎道

僕は自転車の上で

大切なものを持ち去った空に

ただ怨嗟を投げかけた

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天岸日影 @uton

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