4 佐山という紳士
「やはり、あの会社は正規の手続きで業務を行っているんだよなぁ……」
海原テレビの報道制作部の一角にあるデスクで榊守は立川の産廃業者について、会社資料を調べていた。
業者に対して、直接交渉に当たる正攻法よりも、何か
しかし、県の認可も取得している他、一般向けの処理は行っておらず、企業向けという点では、一般人が直接入ることはできない。特に非は無いということだ。
プリントアウトした資料を目に通しながら、自分で淹れてきたインスタントコーヒーをすする。神楽たちは正攻法の方が良いという言い方をしていたが、神楽の言う『正攻法』だと、
『あの祠がゴミだらけのせいで土地神が悲しんでる、頼むからゴミを何とかしてほしい』
と真面目な顔で言おうとするので、それはそれでたちが悪い。多少どんな反応するのか見てはみたいが……。
「下手なことはできないな……、」
榊がコーヒーをすすっていると後ろから声を掛けられた。
「先輩、何かあったんですか?それ」
榊が振り向くと後輩の井川トオルが、プリントアウトした資料を見ていた
「別に、個人的な話」
榊は見ていたパソコンのネット情報のウィンドウを閉じた。
「そうですか?怖いなぁ、『ミステリーハンター』に見られると、何か変なことがありそうで怖いんだよな……」
「何それ、どういうことだよ」
後輩記者の井川トオルは入社してまだ1年程度の記者だ。過去にはよくカメラマンの高山とともに取材もしていた。本人の希望としては警察事件物をいつかは追いかけたいと願っているらしいが、榊の『海原テレビのミステリーハンター』の呼び名もいつの間にか定着している。
「この業者って、立川でしょ。今度あの業者取材するんですよ。」
「いつ?」
「明後日の午後」
榊はスケジュール帳を出して予定を確認した。
「ちょうど休みか……。なぁ、今度のその取材私もついて行っていいかい?」
「何でですか?」
井川が嫌な顔をした。
「何というわけでもないんだけどね。どんな企業か気になるんだ。何かあれば手伝うよ」
「休みでしょうが……。」
「休みのことは内緒で」
「もっと面倒くさい」井川は少し腐った。
榊は手を合わせて頼み込む。
「……わかりました。ただし記録録ってください」
「ありがとう、助かる。今度飯おごるわ」
榊は予定の取材場所に向かう時間になったんでそのまま報道部署を出た。
「とりあえずきっかけはできたな……」
取材は西部地区での害獣発生のニュースの取材ということで、地域住民からインタビューを撮り、気になるところを撮影する。
約二時間ほどの取材をした後、少し用事があると言って、先にカメラマンを本社に帰した。
榊はその足で中心街から離れた
東里西町にある鉄道記念館は、東里市にかつて存在した隣県の
榊は建物の扉を開けると電気のスイッチを入れた。休日の入り用は不明だが、平日に至っては管理人もおらず入り口には『見学者は退館時に明かりを消してください』と書かれているだけで誰もいない空間となっている。
「――お待ちしていました」
ホームを再現した空間に置かれたベンチに銀髪の似合う一人の紳士がいた。
「佐山、もう少し良い登場の仕方はないのか?」
「すいません」
ベンチの周りには東里線の過去の写真がパネル化されている。白黒写真の他、誰もいない館内では不気味な状況になっている。
榊はベンチの反対側に座り佐山と背中合わせに座った。
「立川の社だが……」榊がしゃべり始める。
「この間の状況と話の内容から調べておきましたが、
「そこまでは俺も知ってる、本題はそこから先」榊は佐山の話を抑えた。
「軸を元に戻すことは……」
「無理だろうな」
「今の場所にするのであれば、軸戻しを行う必要があります」
「素直にはできんだろうな」
「正攻法は?」
「最速で却下だ」
佐山の案に榊は即答でかぶせる。
「で、だ。佐山、お前の力を借りたい」
「いつものことじゃないですか」
「ポルターガイストを
「と、いいますと?」
「明後日、
「……」佐山は黙った。
「色々と
「……」佐山は静かに榊の理由を聞いている。
「それを社の
「……」佐山はまだ黙っている。
「頼む」榊は振り向いて佐山に頼んだ。
『ありがとうございました。』
立川の社の
「これぐらいしかできないけどさ、これで何とか勘弁してよ。」
榊はウサギにかえす。神楽たちは榊の言葉から何となく理解していた。
『がらくたは仕方ないですよ。でもちゃんとわかってくれたら良いんです。』
「申し訳ないね。」
「よくここまで漕ぎ着けたわね?」
藤本は榊を問う。
「まぁ、ちょうどいいタイミングで取材予定が入って、その取材中にちょっとしたトラブルがあったんだよね。……その辺りの話は
「うん、それでお父さんに連絡が入って、祠はきれいに整備されて、堂々と軸移しができたけど……」
「出来たけど何?」
榊が神楽を問う。
「なんであんなに派手にっ……!」
神楽は顔を真っ赤にして「なんでもない!」と答える。
藤本はニヤッとした。こんな表情になるのは無理もない。
榊の要請で神楽ミキは着る必要もない巫女の格好をさせられ、更に踊る必要もないのに軸移しのまじないで踊らされるという恥ずかしい羽目になっていたのである。
そのあたりの事情を知っていた藤本たちはとりあえず、このわけのわからない巫女のフォローをすることになっていたが、当の榊については、対応を神楽に任せると一人ビデオカメラを回して業者の代表と世間話に講じていた。
「榊、あの映像ってどうするの?」
神楽が訊いてきた。
「どうもしないけど?放送にするには難しいし、話題になっても嫌じゃん」
「……」
神楽はますます顔を赤らめた。
数日後、平日の
「ありがとう。何とか還ったよ」
「それならよかったです」
榊が事前に頼んでいたポルターガイスト作戦は業者を驚かすには十分だった。榊と井川達、取材クルーはポルターガイスト『もどき』により多少危険な目に合っていた。それもすべて佐山の力によりガラクタの山が3度崩れると業者も
「しかしあの寺の娘ですが……」佐山は榊に尋ねた。
「神楽のことか?何か気になることでも?」榊は返す。
佐山が何を語ったのかは別の機会に話すとしよう。榊は佐山の不安を聞いていた。
そこに、鉄道記念館に来客が来た。榊は佐山との会話を遮ると携帯に出た。客が榊の居る空間に入ってきたが、佐山の存在には気づいていなかった。
そして当の佐山は霧のように消えた。
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