第一章 榊守という男
1 『坊主』と『少女』
古代から人は自然や自然現象、
物に対して神々しい何かを感じ畏れて暮らしていた。
いつしか人はその何かを畏れなくなっていた。
とはいえ、彼らはその存在を失うことはない。
ただ……、ごく一部の人にはその存在を常に気にしてやまない。
「嫌な道だ……」
本来なら記者とカメラマンで動くべきところが、記者のみのカメラ取材を行うことになり、独り言でもいわないと気を紛らわす事ができない。
すでに県境は越えたがラジオも不感地帯に入ったのかロクに受信出来なくなった。
『……
ラジオのローカルニュースでは建設中の東里横断道路の建設が始まったというニュースが中心だった。
雑音しか鳴らないラジオのスイッチを切り、無音の夜道を走っていると、その道の傍で誰かが立っている。
「……泣いてる?」
『誰か』は道路を背に泣いている感じがした。—あくまでも感じであって本当に泣いていたかどうかは判らない。一瞬の出来事だったのでそのまま無視しても良かったのだが、少し思う事があった。
榊は車を引き返すとその『誰か』の所に戻った。『誰か』は確かに泣いていた。
「どうしたんだい?こんな所で?」
「おうちが解らないの。」
この時代に似合わない
「どうして解らないの?」
「迷子になったの」と言って振り向いた。場違いな格好に、更に振り向いた顔は何もなかった。俗にのっぺらぼうと言う者だと思う。
ただ、榊は驚く様子もなく、どちらかと言えば『またか……』という感じで嘆いていた。
――とはいえ参った。こんな坊主の家なんぞ知らなければ、見当も付かない……。
この榊という男、この状況に対して至って冷静なのは、実に奇妙ではある。大概のっぺらぼうに驚き一つ見せず。困っていることと言えば「坊主の家なんて知らないぞ……」と言う点だけなのである。
「あんたの家…、知ってるよ。」
悩んでいる榊の後ろから声がした。
そこには高校生ぐらいの少女が立っていた。
「……私があなたを還してあげる」
これが榊守と『少女』の出会いだった。
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