コイントス - 天秤に掛けた正義 -

天霧朱雀

コイン[裏] ※仕掛人side

2010

第裏話*/名井逸弥の場合 (2010.××.××)

閑話休題[case:裏]


 あーあー、電波は良好みたいだね。この僕に盗聴器を仕掛けるなんていい度胸じゃないか。まぁいい、情報の問屋としては破格の二万円で教えてあげよう。君たちみたいな一般人は犯罪なんてテレビの中だけだと思っている。人殺しなんて衝動的な怒りでたまたまやった犯行だと思っている。――性善説なんて、本当はこの世にありはしないのに。押し黙った人間がなにも言わないからと言って、何も考えていないわけではない。様々な思惑が交差する街。僕が目を付けた野良猫が住むこの街の話だ。


 僕の話を主格とすることは、我ながらどうかとは思っていたが、この場合、語らないのは整合性に問題があるため、きっと難しいだろう。内情が漏れただけで、金にはならない。ビタ銭にもならない情報はただの「お話」に過ぎない。問題となるのがそんなフィクションみたいな職業を営んでいる僕たちみたいなタイプの事だ。


 簡単に言うと「情報屋」と名乗った方が分かり易い。厳密に言えば副業だった。各それぞれ本業があり、本業から漏れる内部機密を売っている者もいる。僕が運営している極秘組織はメンバーに番号を割り振る。番号ナンバーで呼ばれた彼ら彼女らは、自身で集めた情報を僕が価格表を提示し売買する。販売権利は僕と集めた当事者にあるという素敵なシステムだ。いわば組合であり同盟である。僕から担当番号外の人間が買い付ける事もある。これは割増料金にて販売している。ここで問題となるのは、情報というデータは生ものであり、生き物だという事だ。悲しい事に口に戸は立てられない。今の時代、それを支配できただけでは生き残れない。生活していくことができない。故に、副業的な立ち位置である。

 当然、こんな事がまかり通る世の中で、セキュリティ意識や守秘義務、リテラシー問題という事が立ちはだかるが、現代社会における日本ではだいたいの事柄が金で解決する。逆に金で買えないものは、金が無くても買えるのだ。それは個々の努力によって比例するから、僕だってそれにならった努力は対価として支払う。

 そして、くだんの話はそういう部類に値した。


 ここまで言えば、もう特筆することも無い。僕、こと情報屋の問屋として営業している名井逸弥ない いつやについて。簡単に言うと、複雑な家庭に身を置いてはいたが現在、三親等以内はみな他界したため縛りが無い。悲しむべき事柄のように思えて、いまとなっては十数年以上も前にさかのぼる故にどうでもよかった。


[2010年の記録]

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884648690

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