第十一章 ホムンクルスⅡ
第129話 平穏
「どうですか? 動かしにくいとかないですか?」
「うーん…………」
鮮やかな赤色の
硬質ながら布のように自在に可動する籠手に、不自由さは全く感じられない。
暁は満足げにカイルに向かって頷く。
「凄いな、『アルマ・リングVer.2』。可動範囲もそうだけど、重さもほとんど感じないや」
「『
「そりゃあ大したもんだ」
暁は籠手に覆われた拳を握る。
すると、籠手は細やかな粒子となって手首に集まり、赤く艶のある
「しかし、『天才』の名は伊達じゃないな。『アルマ・リング』の出力強化だけじゃなく、こんな形態変化機構まで追加するなんて」
「ボクの『
「それは、君が私の
「暁ちゃん、お待たせ」
「お、
暁とカイルは、部屋に入ってきたふらんと源内を迎える。
今日はふらんの定期検査の日である。
そのため、暁とふらんの二人は源内のラボを訪れていた。
ふらんが定期検査を受けている間、暁は改良された『アルマ・リング』の説明をカイルから受けていたというわけである。
『星痕騎士団』との一件の後、カイルは源内のラボで生活していた。
この生活が始まったのは、元々『
自分の研究に興味津々のカイルに、それならばと源内が助手として雇うこと(年齢的に勿論、正式というわけではないが)を提案し、カイルがそれを是非にと了承したことで今の生活に落ち着いた。
ラボでの暮らしが始まってから、カイルの表情は日増しに生き生きとしていっていた。
あれだけの一件の後で、どうなるかと心配していた暁もカイルの様子に安堵し、提案してくれた源内に大変感謝していた。
「こんな優秀な助手が出来て、先生も鼻が高いでしょ?」
「そうだねぇ。優秀過ぎて、むしろ私の出る幕がなくならないか心配なくらいだよ」
源内は嬉しそうな笑みを浮かべる。
源内としても、第七区のデモニアたちの体調管理を一手に引き受ける魔王直属医師として、助手が出来たことは大変助かることだった。
それが、自分を越える才能の持ち主なのだから尚更である。
それに…………。
「しかもガチ幼女なんて最高じゃない」
「先生、少しはオブラートに包もうか」
「ガチ…………って何ですか?」
「カイルちゃんは知らないでいいことだよ」
ロリコンの源内からしたら、好みど直球の女の子との同棲である。
それ以上の喜びはなかった。
「毎日毎日愛するツルペタ幼女を眺めることが出来るなんて…………もうまっさかホンマたまらんぜよ」
「興奮し過ぎてどこの方言か分からなくなってる…………」
「先生、流石に
「安心して。鋼の自制心でまだお風呂の残り湯を舐めるだけに留めているわ!」
「欲望全開ですね」
ドン引きするふらんと頬を掻く暁に、源内は自信満々にサムズアップをする。
ただ一人、意味の分かっていないカイルがキョトンとした顔をしていた。
「暁ちゃん、本当に大丈夫なの? このままだと先生いつか本当に間違いを犯すんじゃ…………」
「まあ、先生ほどの
「カイルちゃん、何かあったらすぐに私たちに相談してね?」
「え…………は、はぁ…………」
「うーん…………何とも身に余る信頼を寄せられてるようで嬉しいよ」
カラカラと渇いた笑いをする源内に、二人(というか、ふらん)は訝しげな顔をする。
微妙な表情を向けられる源内に、意味は分からずとも空気を読んだカイルは慌ててフォローをする。
「で、でも先生はボクに本当によくしてくれてますよ! それに見てくださいこの人工魔核を。ここまで純度の高い魔力を生み出す人工魔核は見たことがありません。これほどのモノを作り出せる人の助手が出来るなんて、ボクは幸せ者ですよ」
「本当にいい子だね、君は」
必死にフォローをするカイルの頭を暁は撫でる。
カイルは恥ずかしそうに頭を両手で押さえた。
「私もそこまで尊敬されると悪い気はしないね。でも、残念だけどこの人工魔核の設計は一人でしたわけじゃないんだ」
「え? そうなんですか?」
カイルは驚いた様子で源内を見る。
暁とふらんの二人も初耳の事で驚いたような顔をしていた。
「ずーーーっと昔にね。一緒に研究をしてた奴がいたんだけど、人工魔核…………ていうか今の私のデモニアの生体研究はほとんどソイツと一緒に作り上げたものなんだ」
「つまり…………その人が先生の最初の助手ってこと?」
「助手というか相棒だね。まぁ、とうの昔に喧嘩別れしちゃったけどね」
「喧嘩別れ? 何かあったんですか?」
暁の問いかけに、源内はこめかみを押さえながら唸る。
「何かあったってほどじゃないさ。よくある意見の相違? 研究思想の違いだよ」
「はぁ…………」
「ま、研究者なんて私も含め我の強い連中ばかりだからな。珍しいことじゃないさ」
そうは言いながらも、寂しげな表情をする源内を見て、三人は聞いちゃいけなかったかと少し反省した。
そんな源内の淋しい過去に気を取られていたからだろうか。
窓の外から飛来してくる物体に対し、その場にいる全員の反応が遅れた。
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