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「寒いね」


「うん」


「あっためて」


「こっち来て」


「ぎゅってして」


「はい」


「えへへ」



君の顔が思い出せない。

君の声が思い出せない。

君の名前が思い出せない。

今となっては、君の事なんて、何一つ覚えていない。

何故だろうか。

こんなにも強く、心を締め付けられる。

辛くて、切ない。

いや、分かっていたはずだ。

君は、僕なんかには勿体ないくらい大きくて。

僕にとって、君はまるで世界そのもので。

そう、多分、僕は君の事を愛していたし、君も僕の事を愛してくれていた。

でも。

何も、思い出せないんだ。

君の香り、君の仕草、君の温もり。

思い出したくても、忘れ去ってしまった。

僕の手の中に残っているのは、君の残滓。

君がくれた、たった一度きりの幸福。

こんな気持ちになるなら、出会えなければよかったのに。

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