第138話 告白と矜恃
「
ヤクロウの口からこぼれた言葉に、その場にいた全員が一瞬言葉を失った。
存在しないはずの種族。
忘れられた種族。
滅んだはずの種族。
互いに顔見合わせるが、頭の整理が追いつかない。
「う~ん? でもヤツら背の低いヒューマンって感じしか、しなかったよな」
「そうだ、オレもそう思った。ただのチンチクリンだと思ったぞ」
確かにマッシュの言う通り、背が低いが体格的にヒューマンにしか見えない。
困惑する一同をヤクロウは黙ってやり過ごした。
「さーてと、どこから話すかな。ちゃんと話すとオーカの国という所から話さないとだ。長くなるぞ」
ハルヲはみんなを見渡すと、みんな頷き返した。
それを見てハルヲもヤクロウに頷き返す。
「いいわ。教えて」
ヤクロウがため息まじりに話し始める。
「オーカって国は元々
「それとおまえの研究が繋がるのか?」
ユラが先を急がせる、少し待ちなさいと全員がたしなめた。
「繋がるんだ、もうちょっと聞いてくれよ」
「続けて」
ハルヲにそくされ再び口を開く。
「
ヤクロウは一気にここまで話す。
いろいろなものの辻褄があってきた。
霞みが晴れ一気に見渡せるようになった。
納得したのかマッシュは何度となく頷く。
「なるほど。大方、そのでっかくなる実の研究をしていたってとこか。効能が切れるのか、在庫が切れるのか分からんが今、必要な数を確保出来ない。ヤクロウの力、知識が必要。こんなところか」
「化けの皮が剥がれないように必死ってわけね。それは諦めるわけがないわね」
ヤクロウがその鋭さに舌を巻く、最後まで言わずに理解してしまった。
ますます坊主に下にいるのが謎だな。
そんな事を二人のやりとりから感じる。
「するどいな。オレは研究に没頭したよ、楽しくてな。今、考えればまったくまわりが見えていなかった。効能を延ばし、副作用をなくす。ただひたすらにその研究をしていた。正直、
スミテマアルバの面々が顔を見合わせ吹き出した、この話を聞いて思う事は同じだ、どこかのお人好しを思い出す。
そしてきっとまた……。
「……ハハ、居住区の
「間違いない」
「オレたちも動くのか?」
「ユラ、団長が動いたら私たちは動きますですよ」
「そっか」
その軽さに驚く、あれだけキレるヤツらなのに随分とあっさりだな。
事の重大さがわかっていないとも思えない、それを踏まえた上で? ってことか。
変なやつらだな。でもなぜだろう、なんとかしてしまいそうな雰囲気を感じてしまう。
言って良かったと思えた。
自分がしてきた大きな流れは現時点でまだ止まってはいない。
それはきっと彼らの働きによるものだ。
希望はまだあると感じると、今まで一人で背負いこみすぎていたものがスッと下りていくのを感じる。
「それにあいつの今回の作戦は
「うまくいけばだけどな」
「いくだろう」
「ですです」
「なあ、それであの坊主の作戦ってなんだ?」
ハルヲはすこし顔をしかめ、苦笑いを浮かべてから口を開いた。
「良シ、終わっタ」
「マナル、こっちも終わりダ」
ここに来て良かったと、みんなが思ってくれている。
それをこんな形で知ることになるとは思わなかったが、いろんなことが報われた。
安心して笑顔がこぼれる場所を作る。それに邁進している道半ば、横槍が入ってはたまったものではない。
突然現れた自分たちを快く受け入れてくれた人たちが苦しんでいるのならば、手を差し伸べるのは当然。
困っている人たちがいるなら助けるのが
あんなにも良くした人々をまた虐げられる日々に戻すなんてことは受け入れられない。
「私ハ、ネスタさんのところへ行ク」
「オレはメディシナへ向かウ」
「気をつけてネ」
「あア」
二人は頷きあった。
夕陽が照らす二人の長い影が道を分かつ、各々の戦場へと向かう。
「遅くなッタ」
「よう! まだ夜は長い、気を張らずにいようや」
弛緩した空気をあえてマッシュは作る。今からギアを上げる必要はない。
むしろ上げてはいけない、ヤツらと対峙するまで取っておかないと。
「あんたたち! これ食べな」
「おお! うまそうだな、いいのか?」
「あたしたちは、こんな事しか出来ないからね」
「お腹空いていたのよ、助かるわ」
ハルヲが笑顔で受け取る。ヒューマンのおばちゃんたちがメディシナにたくさんの食事を持ってきてくれた。
ユラは早々に頬ばり口を大きく膨らませている。
今のうちに食べておかないと、ホントに助かるわ。
スミテマアルバとヤクロウ、ニウダ、カズナもみんながほおばった。
今日一日はあっという間に過ぎていく。
あとは明日を待つばかりか。
おばちゃんたちの元気な笑い声が響く、つられてみんなが笑っている。
明日も笑って終わる。
また笑う。元気な声で笑って、ヤツらを笑い飛ばしてやる。
口いっぱいにパンを詰め込みハルヲは気持ちを新たにした。
昼前の日差しがジリジリと照りつける頃、外からのざわつきが風に乗って届く。
ヤツらの登場か。
思ったより早かった、いよいよ出番ね。
しかし出来るだけ伸ばせって言われてもどうしよう。
「やぁ、ご機嫌よう。準備は出来たかな?」
青いマントをたなびかせ機嫌がいいのだろう、朗々と言葉を発した。
住人たちは遠巻きに隠れて様子を見ている。通りには人っ子一人いない。
50名ほどの騎馬隊を率いて小男は道の真ん中に立ち、上機嫌で辺りを見渡して行く。
マッシュとユラがそれを見て扉の外へと出て行った。
「ニウダ、ヤクロウと奥で隠れていて。合図があるまで何があってもヤクロウ、あなたは顔を出しちゃダメよ」
階段の奥で身を潜める二人にハルヲは声を掛ける。
フェインとカズナとともに、メディシナの待合いで静かに構えた。
ニウダの言った通り騎馬隊のヒューマンの率が高い、軍ってことね。
小男に近づいて行く、マッシュとユラの背中を見つめる。フェインもカズナもその行方を待合いから見守っていた。
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