第26話 鍛冶師のパーティーとときどき猫

 シルを見つめるタントは盛大に顔をしかめた。

 本当にイヤなものを見た時のように眉間に深い皺を作る。


「え?! 二人って知り合い?」


 キルロがタントとシルをキョロキョロと交互に見やり尋ねた。

 どこでどう何が繋がっているのか、さっぱりわからない。


「フフフ、そうね。割りと古い顔馴染みよ。というより私も聞きたいわ、なんでタントがここにいるの?」

「それはこっちのセリフだ、なんでシルがいる?」


 互いに質問しあうだけで埒があかない。怪訝な表情のタントと薄い笑みを浮かべるシルに挟まりキルロは首を傾げるだけだった。


「えーっと、まずシルは今回のクエストの助っ人として参加してくれたんだよ」

「ぇえー、コイツに助っ人頼んだのか?」


 キルロの説明にタントが心底嫌そうな顔して首を何度も横に振った。

 そんな嫌がるような事はなかったけどな。


「タントはなんでここに来たのよ? アナタがいる事自体、違和感しかないわよ」

「だって、コイツらアルフェンの直属だもん」

「ちょっ! それ内密の極秘事項だろう!」


 タントの答えにキルロが慌てる。

 極秘事項をペラっと話しちまいやがった。

 キルロの焦り具合を見てタントが呆れた顔を見せる。


「アレレ? コイツ何者か知らずにパーティー入れたのか? こいつは【ノクスニンファレギオ(夜の妖精)】の副団長の一人だぞ」

「え! マジか」

「うそー!」

「?」

「??」


 マッシュとハルヲは心底驚きを浮かべ、驚嘆の表情浮かべて身を乗り出した。キルロとフェインは良く分かってないというより全然分かっていない。ふたりのリアクションをキョトンと見つめるだけだった。

 そんな様子を面白がり、シルはにこやかな笑みを向けて手を振っている。

 

「どうも~。ねぇハル、ウチに来ない。戦えるテイマーなんて貴重よ、可愛いし、陣頭指揮も完璧だったし、ホントに可愛いし。どう? 歓迎するわよ」

 

 ハルヲに視線を向け笑顔で勧誘する。

 ちょっと本気な雰囲気が漂う。


「何言っているのよ、ノクスニンファって言えば生粋のエルフソシエタスじゃない。私が入る余地なんてないわよ」

「そんな事ないわよ。エルフの血が流れているのだから、それだけで充分よ」


 ナイナイと照れがちにハルヲは手を振る。

 ちょっと嬉しそうにも見えた。

あ、これは喜んでいるな。へらへらと照れた笑みを浮かべ続けるハルヲ見ながら感じていた。


「ウチの副団長を目の前で勧誘しないでくれ、ハルヲもまんざらでもない顔するな」

 

 (ノクスニンファ……どっかで聞いた気がするんだよな)


 二人のやり取りを聞いていたキルロは記憶の糸を手繰り寄せようと脳をフル回転させてみたが思い出せず、モヤモヤが止まらない。


「【ノクスニンファ(夜の妖精)】は長男アントワーヌの直属だぞ。この間アルフェンから聞いたろう」

「え?! そうなのか!?」


 マッシュが珍しく驚愕の表情を浮かべる。

 そうか、だから聞いた事あったのか。

 もう一つは一番デカいソシエタス。

 ⋯⋯名前は忘れた。


「あ、だからアルフェン直属の話をペラっと言ったのか」

「当たり前だろ。そんな大事な事ベラベラ話すわけないだろう」

「しかし、アルフェンの直属とはね。ますます目が離せないわ。面白いわね、アナタ達」

「いやいや、ウチは団長が面白いだけで他はいたって普通だ」


 マッシュの返答にハルヲとフェインが大きく頷く。

 マッシュ、そこは全否定でお願いしますよ、仲間外れにしないで。


「いろいろ面白かったわ、タントからの話があるのでしょう。お邪魔なようなので消えるわ、また近々会いましょう」


 “じゃあね~”とシルは帰って行った。

 あれ? なんで有名ソシエタスの副団長がパーティーの助っ人なんかしたんだ? 借金でもあるのかな? いろいろと謎のままだ、また会うぽい? のか? その時にでも聞けばいいか。


「全く、お前達も変なのに目つけられたな」

「そんなに変な所はなかったぞ」

「あんなエルフぽくない、エルフいるか?! アイツ相当な変わりものだぞ」


 言われてみれば、あんな気さくなエルフは確かに会ったことないかも。


「あいつの率いているパーティーはあの【ノクスニンファ(夜の妖精)】の中でも裏方仕事を専門で請け負っている。それだけで曲者って分かるだろ」

「なんで、タントはそんな事まで知っているんだ?」


 表に出て来ないなら知られる事もないって事じゃないのか。


「蛇の道は蛇ってやつだろ」

「お前もだろ、マッシュ・クライカ」


 マッシュはタントに視線を向け、ニヤリとした。


「まさかマッシュ・クライカが入団するとはね。あれだけパーティーに誘っても断っていたクセに寄りにも寄ってこことはね」

「え?! そうなの? 誘っていたの??」

「昔な」


 とマッシュは笑った。

 ハルヲは“どうりで……”と一人納得していた。

 フェインはキノと大人しくしていた。


「なんかいろいろあんだな」

「シルとは何のクエスト行ったんだ? アイツが自分から動くなんて季節外れの雪でも振るんじゃないのか」

「あ、【吹き溜まり】の探索、調査クエだ。ちょっと危なかったな」

「また【吹き溜まり】かよ、おまえ達、ホント【吹き溜まり】好きだよな」

「好きじゃねえよ、あんな気分悪くなるところ」

「あ! そうそう、これを渡しに来たんだった」


 こぶし大の白精石アルバナオスラピスをタントは取り出した。


「これを防具に付けとけ。おまえの身長なら爪3つ分くらい、ハーフなら爪2つ分くらいの大きさで大丈夫だろ。黒素アデルガイストの影響を受けなくなるんで、【吹き溜まり】に潜っても気分悪くならないぞ」

 

「ホントか! そりゃあいい。もっと早く欲しかったな」


 “あ!”とキルロも何かを思い出した。

 “鼻のピアス”……だからキノは平気だったのか。



「まぁ、【吹き溜まり】クエストの実績が出来たのは結果的に悪くないかもな。実績ゼロのソシエタスに発注掛けるより体裁はいいだろう」

白精石アルバナオスラピスを渡してきたって事は、潜れって事かしら」

「さすがハーフ、察しがいいな」

「また【吹き溜まり】に行くのかぁ、しばらく行きたくなかったなぁ」


 キルロは肩を落としぼやいた。

 やっと帰ってきたばかりだというのに、また行くのか。


「まぁ、近々になるとは思うけど今日明日ってわけじゃない。装備の準備とか怠るなよ」

「どの辺りか決まっているのか?」


 マッシュの問い掛けにタントは皆を見回し表情を引き締めた。


「北東の予定だ、東のイスタバールから北に上がった所だ。アルンカペレというダミー商会から、おまえ達のソシエタスへ指名発注される。発注の内容はイスタバールまでの商品の護衛業務だ。これで大手を振ってイスタバールまで行けるだろ。実際の内容は別口で直接渡す」

「わかった」

 

 皆で頷きあう。早速装備の準備に入ろう。

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