第25話 報酬
「そういや、あんた何あれ! ヒール使えるの? しかも何あのヒール??」
「そうそう、あんな高位のヒールなんて話でしか聞いた事ないわよ」
ハルヲとシルが驚愕の表情で矢継ぎ早にキルロに詰め寄った。
“ククッ”とマッシュがその様子を見て小さく笑っている。
「いやぁ、そのなんだ、少しな少しだけだ」
手を頭にやりながら罰が悪そうに答える。
動かなくなった食獣花を前にパーティーは一時の安堵が包み込んだ。
「少しって、あの傷が何もなかったようになっているのよ。少しな訳がないじゃない」
シルは相貌を弓なりにして妖しく詰め寄るとキルロの眼は激しく泳ぐ。
「本当はアンタ、
「いや、それはない」
ハルヲの問いにキルロは即答したが、ハルヲもシルも納得する様子は見えない。
二人は怪訝な表情をキルロに向けるだけだった。
「そのなんだ、自分にヒールをかけらないんだよ。冒険者のヒーラーとしては致命的だろ?というか、ヒーラーの為にヒーラーを雇わないとならないなんてありえない」
キルロが溜め息まじりに答えると、渋々ながらもハルヲとシルは納得した。
「まぁまぁ、ヒーラーの真似事は出来るからさそれで勘弁してくれ」
とキルロは苦笑いで付け加えておく。
「オークの時と同じようなパターンでいけたな。で、結局こいつはなんだ?」
目の前に転がる残骸をキルロは足蹴にすると、根に擬態していた本体部分をひっくり返した。
「これは、これは気持ち悪いですね~」
フェインが心底嫌そうに、顔をしかめて眼を背けた。ボッコボコにしてたクセに今さらかよ。
丸い体型の虫がひっくり返っている。
腹の部分が黒光りしていて、都合8本の脚はかなりしっかりとして太い。
キルロが突き刺したあたりには小さな目らしきものがいくつも見受けられた、やはりこの辺りが頭部なのだろう。
「蜘蛛が変化したものかしら?」
「それっぽいな。花が変化したって言うには流石に無理がありそうだ」
ハルヲはまじまじと眺め槍で突っついたりしながら調べ、その側でマッシュがじっと観察していた。
“私は気持ち悪いのはパス”とシルはキノやスピラ達の側でのんびりしていた。
溶けて破れた服が痛々しい。
「あの袋が口かな。こんな形にどうして変化したかまでは流石にわからんな」
「背中に食虫植物が貼りついた作りね。
「いやぁー気持ち悪いです」
マッシュとハルヲが観察結果をまとめている。ふたりとも手慣れていた。特にハルヲは普段から生き物と接している、こういうのは得意分野か。
フェインは見なければいいのに怖いもの見たさにチラチラと横目で覗く。変なやつ。その姿に思わず笑ってしまう。
「こいつが周辺のヤツらを喰らってたなら、この辺りはまだエンカウントはないんじゃないか? 今の内にもう一踏ん張りして探索しないか? シル、大丈夫か?」
キルロが転がっている残骸を指差す。
しゃがみこんでいるシルに手を差し伸べるとシルは少しはにかみながらもキルロの手を取り立ち上がった。
マッピングの為、道なき道の行脚を続ける。
重苦しい不快感がどうにも慣れない。
静かに佇む木々にさえ圧迫感を感じ、この不快感に嫌気がさしてくる。
予想通りというかやはりエンカウントはなく、問題なく歩を進めることが出来た。フェインのマッピングも順調に進む。
「キノは元気だな、気持ち悪くないのか?」
拾った小枝を振りながら上機嫌で歩いているキノにキルロは声を掛けた。
「大丈夫。前にハルヲ達と行った時はなんかイヤだったけど、今日は平気~」
「そうか。羨ましいな」
「へへへ」
キルロの羨望に笑顔で答える。
人型になったから? かな? 考えても分からんな。
陽光が遮られている底だと時間の感覚が麻痺してくる。ある程度の事は出来たはず、マッピングも情報も得ることが出来た。
「こんなもんでいいんじゃないか?」
「上々だろ」
キルロの言葉にマッシュも同意する。
反対意見が出ることもなくパーティーは村へと帰還した。
地上に戻る頃にはすっかり陽も落ち、五人と二頭の影が長く伸び長い一日の終わりを告げた。
街に戻るとその足でギルドへ完了報告に向かう。
「お帰りなさいませ。無事のお帰り何よりでございます」
「どうも」
受付椅子に腰掛けると疲れがどっと出る。
必要な書類に記入し今回の成果を手渡した。
「確かにお預かり致しました。先方より完了の確認が頂けましたら報酬の受け取りにいらして下さい。順調に進めば2~3日後にはお支払い可能になります」
「わかった。ちなみに今回の依頼人はどういうやつなんだ?」
「基本、そのような個別の案件にはお答え出来ません。申し訳ありません。お教え出来るのはソシエタスからのご依頼、というとこまでです。こちらでご了承の程宜しくお願い致します」
「仕方ねえよな。じゃあさ、【吹き溜まり】の探索依頼って最近多いのか?」
「【吹き溜まり】関連のご依頼は増えているように感じます。あくまで私見ではございますが」
「そうか。ありがとう、3日後くらいにまた寄るよ」
「お待ちしております」
今回の受付嬢は全くもって普通だ。
ちょっと拍子抜けだな。
ソシエタスの発注か、シルが言っていたように学者系のどこかなのか?
とりあえず終わった。
初仕事無事終了だ。
帰ってゆっくり寝よう。
「なんか久しぶり!」
キルロが満面の笑みで皆を迎えた。
今日は緊張感もなく、ゆるっとした空気の中で近況を報告しあう。
報酬が無事入ったので皆で山分けだ。
「フェインのグローブ年季入り過ぎじゃないか? ウチで作らねえか、安くするぞ」
「すいませんです、ありがとうございます。どうしよう??」
キルロの提案にフェインはしどろもどろになっていく。
「ハハ、3、4日で何が変わるって訳ないしな」
「そうね。相変わらず団員来ないしね」
「焦ってもしょうがないわよ、きっとピッタリな人がくるわよ。それはそうと………」
シルがいたずらな笑みを浮かべ、ハルヲの耳元に唇を寄せた。
「あの坊やとはいつから?」
ハルヲが目を見開いて、シルを見つめ返す。見る見るうちにハルヲの顔が赤くなっていくそれを眺めながらシルは笑みを深めていった。
「なななななな、べべ、別にそ、そんなのじゃないし……」
「あら! そうなの? それじゃ私が行ってもいいかしら。私を救ってくれた王子様」
シルはハルヲに余裕の笑みを湛えて言い放った。
その含みのある笑みにハルヲは存外なダメージを食らったらしく、俯いてしょげてしまう。
「そ、それはさ、アイツが選べばいい事だから私がとやかく言う………」
俯き消え入りそうな声で返答するのがやっとだ。
ハルヲは耳まで真っ赤にしてモジモジする事しか出来ない。
「おいおい、ウチの副団長をあんまりいじめないでくれよ」
マッシュが笑いながらシルに釘を刺すとシルのテンションは増々上がる。
「だってもう可愛いんですもの!」
シルが満足そうな笑みを浮かべながらキャパオーバーで真っ赤になったままのハルヲに視線を向けるとさらに笑みを深めた。
「よし! 山分けにしよう! うん? ハルヲどうした?」
椅子の上で茹で上がっているハルヲに目をむいた。
「大丈夫だ、気にしなさんな」
マッシュが答えると“そうか”と言って金の配分を始めた。
「四等分でいいか?」
『オイ!』
総突っ込みが入る。
「いいわけないでしょ! ソシエタスの維持費とかどうすんのよ!」
「普通は団長、副団長が多めに取って後は貢献度でって感じだぞ」
我に返ったハルヲとマッシュが急いで訂正を入れる。
「え?! そうなの? あっでもそうか……毎月払うんだもんな」
ギルドでのやり取りを思い出した。
「じゃあ、申し訳ないけどソシエタスの分入れて五等分って事で」
「私達はいいけど。ねぇ」
「すいませんです。なんか申し訳ないです、はい」
シルとフェインが罰悪そうに答える。
通常の常識からは大分離れているらしい。
ハルヲは頭を抱え、マッシュはククッと相変わらず笑っている。
「え?! まだ変なの? でも、貢献度って言われてもさ、ハルヲもマッシュも現場を引っ張ってくれて、シルは経験を生かしてフォローしてくれてフェインは地図描いたうえに殴ってもいたもんな、あれ? 一番何もしてないのオレじゃね……良し、やっぱり貢献度は関係なし! 五等分で決まり!」
“決まり、決まり”と言うと皆の前に報酬を置いていった。
一人頭5万ミルド、十分な額だ。
さすがソシエタス用クエスト、ありがたや、ありがたや。
「シルはソシエタス入っているんだっけ? 助っ人って言っていたもんな」
「残念ながらね。アナタとはまたパーティー組みたいけど」
ハルヲがドギマギしながらやり取りを凝視していた。
シルがそれに気がつくとキルロの腕を取り、体を密着させた。美しいエルフの大接近にキルロもドギマギする。
「また遊びましょうね、私の王子様」
ニッコリと笑みを湛え優しく囁いた。
キルロがギクシャクした動きでシルに微笑みを返す。
ハルヲの顔色が赤から青に変わって硬直している。
「ハハハハハ。だから、団長と副団長で遊びなさんな」
大笑いしながらマッシュがシルを咎めた。
「あら、意外と本気かもよ」
シルは、妖しく笑って見せる。
「フェインはどうなんだ? どっか所属しているのか?」
「私はどこにもです、はい」
「じゃあ、ウチ来いよ。まだまだ弱小だけどさ、来てくれたら歓迎するよ。なあ」
気を取りなおしたキルロが他の二人に同意を求めた。
二人とも“もちろん”と即答だ。
「えっー?! いいのですか? すいませんです、お世話になりますです」
フェインは何度もお辞儀した。
フェイン・ブルッカ加入決定。
「おーい! いるかー!」
店先から不意に声がしたのでキルロが向かうと見慣れた
「タント!? どうしたんだ」
「どうしたも、こうしたもお仕事持ってきたんだよ。面子は揃ったか?」
「いやぁ、オレ入れてまだ4人だ」
「少なっ!」
「仕方ないだろ」
キルロがふてくされ気味で言った。
タントが“やれやれ”とつぶやく、来ないものは来ないのだから仕方ない。
「ま、いいや。上がるぞ」
なんの遠慮もなくズカズカとみんなのいる居間に向かって行く。
“うん?”
タントが一瞬止まって目を見張る。
「げっ! シルヴァニーフ・リドラミフ!」
「あら、タント・ユイ」
え?? 二人顔見知り?
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