第22話 鍛冶師パーティーの探索クエスト

 壁に槌や鉄を挟むハサミがかけられ、作った武器や防具が乱雑に飾られている工房。その工房の作業椅子に座り腕を組んでひとり思案する。

 

 さて、キノの装備どうするか?

 

 身軽さとスピードがウリなのだから、それを殺さない装備となると軽さだよな。

 こうして鍛冶の事を想像している時間は楽しい。

 さてどうするか?

 どう具現化するか? 

 

 あ、そうだ!


 素材用の引き出しから一枚の皮を取り出した。

 オーク亜種エリートの皮。

 レザーアーマーでも十二分な強度を誇っているが、キノに何かあったら困る。昔使ったチタムタイトの破片もどこかにあったはず。

 高価な素材だから半端も捨てずにいたはずだけど……あった。

 キノのサイズならこの量があれば、大丈夫だ。

 レザーアーマーをベースにして急所を守る感じでいいのか? 

要所、要所をチタムタイトで補強しよう。そうなるとメット、胸、肘、膝か。

 良し、余ったらまた考えよう。

 装飾もしてやりたいな。ゴソゴソと余った素材を片っ端から突っ込んでいる引き出しを漁った。

お、これいいじゃん。

 炉に火を入れ首に掛けていたゴーグルを装着し、ハサミで鉄を掴めば準備万端だ。

 真っ赤に焼けた鉄を叩く。黄金の火花が、ゴーグル越しに見えた。無心で叩く。カンカンと高い金属音と共に、焼けた金属はぐにゃりと形を変えていった。その姿に無心で鎚を振るっていく。



「キノー!」


 居間で遊んでいたキノを呼ぶとテトテトと、作業場へ現れた。

 装備が完成した。早速試着だ。

 オーク亜種エリートの皮の黒色にチタムタイトの白が生える。

 胸と肘、膝をしっかり守り動きを邪魔しないように微調整を加えていく。

 メットには白い羽を二本左右に付けた。

 見た目は小さく可愛らしいヴァルキュリアのようだ。

 余ったチタムタイトでナイフを二本作り、後ろ腰垂直に装備した。


「よし、いい出来だ。似合っているぞ」


 親指を立てキノに笑顔を向ける。


「ホント! ちょっとエレナに見せてくるー」


 猛スピードで、店を飛び出す。

 “仕事の邪魔はするなよー”と背中越しに声掛けると、キノは大きく手を振って答えた。





「アウロ、頼むわね」

「お早いお帰りと、無事を皆で願ってます」

 

 ハルヲはその言葉に大きく頷く。


「皆さんも、ご無事でお帰り下さい」


 アウロはハルヲンテイムに集合した、パーティーにも声を掛けてくれた。


「行ってくるよ」


 キルロは手を振り、見送りに出てくれたハルヲンテイムの従業員に手を振る。


「キノ、無理しないでね」

「うん」


 エレナはキノの手をギュッと握った。

 いよいよ、【スミテマアルバレギオ】として初仕事だ。

 五人と二頭のパーティーが早朝、街から出立して行く。



 手配した馬車は二台、街道を順調に進む。

 このまま行けば二日とかからず目的の村へ到着するだろう。

 ミドラスから北東にあるトレンカの村、目的の【吹き溜まり】は村から南下した所にある。

 直径1Mk程、そこまで大きくない中型よりやや小さめの吹き溜まりだ。

 

 する事ねえなぁ。

 街道から林道へと入り途中何度かモンスターとエンカウントしたが、あっさりマッシュとキノが殲滅してしまい、たまにシルが弓で助太刀する程度。

 キルロとハルヲ、フェインの三人は出る幕も無く、無事トレンカの村へ到着した。

 村の主に挨拶をして、借りる部屋へと案内して貰う。

 のんびりした、いい村だ。

 住人もあたたかい。

 小さな家の煙突からは夕食の準備のためか、どの家からも煙が吐きだされ、たまに食欲をそそるいい香りが漂ってきた。

 平和な風景に心が落ち着く。

 今回は空き家をまるっと借りる。見た目はボロいが、掃除をしっかりしてくれたようで、中は小綺麗になっていた。

 使い勝手もいいし、悪くない。

 明日にむけてのんびりしよう。

 明日の探索にむけて準備を入念に行う。

 夕食までの間キルロは村を散策した。

 子供達の笑い声や大人達が酌み交わす声が漏れ聞こえ、牧歌的で落ち着く。

 歩いていた住人に【吹き溜まり】について尋ねてみたが、そもそも寄り付かないという事でめぼしい情報は得られなかった。


「明日から潜るぞ」


 キルロは皆に声を掛けると、皆大きく頷く。

 明日はいよいよ本番だ。





 朝靄の早朝に村を出発した。

 歩いてもさほどかからない距離で、あっさりと目的の【吹き溜まり】にたどり着いた。

 ぽっかりと口を開けている【吹き溜まり】の縁を歩き、下りられる場所を探す。

 吸い込まれそうな口を覗き見ながら進んでいると、思い出したくなくてもイヤな事を思い出した。あの胃袋がキュっとなるイヤな感じを思い出させる。

 しばらく歩くと岩壁の凹凸をマッシュが見つけ覗き込んだ。


「ここいらでどうだ?」


 全員で下を覗き込んだ。

 相変わらず靄が酷く下は見えない。


「行こう」


 キルロが言うと全員が頷いた。

 マッシュがロープを使い先行して下りていく、サーベルタイガーのスピラとなぜかキノはトントンと器用に岩壁を使い下りて行く、大型兎ミドラスロップのプロトンの荷物をキルロが背負い、プロトンはハルヲにおんぶされる形で固定する。

 ロープが2、3回縦に揺れ無事下に着いた合図がきた。

 パーティーは順番に下へと下りて行く、味わった事のある不快感が増していった。


「何度来てもイヤな所ね」


 シルは嫌悪感を隠さずに言った。

 まとわりつくような不快感は慣れることは無さそうだ。

 岩壁の先はすぐに鬱蒼とした森が中心に向かって続く、ただでさえ陽の光が届きづらいのに生い茂る木々がさらに陽の光を遮っていた。


「シルは何度も潜っているのか? 何度潜ってもって言っていたけど」

「5,6回ね。この手のクエストはたまにあるからね」

「そういや、何で【吹き溜まり】の情報なんて欲しいんだ? 近づく事すらないのに、いるか? 情報?」

 

 キルロは眉間に皺を寄せた。

立ち入り禁止区域の情報を、一般人が欲しがる理由がわからない。

 勇者絡みならまだしも⋯⋯。


「学者、学者色の強いソシエタスなんかは喉から手が出る程欲しがっているわよ。未知の探求なのか他になにかあるのか……。まぁ、私から言わせれば物好きよね。お金くれるからいいけど生えている草や、出没するモンスターなんか知ってどうするのかしらね?」


 シルが呆れた口調で教えてくれた。

 未知ね、良くわかんねえな。

 今回のクエストもその辺りからの発注なのかな?

 完了報告の時にでも聞いてみるか。

 

 探索がてらにひたすら道なき道を進む。

 生い茂る草が邪魔くさい。こんな所にあるのはいいとこ獣道だ、ナイフを振り道を作って行く。

 フェインが歩きながら書き込む姿が見て取れた。

 良く歩きながら書き込めるよな。


「マッピングって大変そうだな、どうやっているんだ?」

「そんな、たいしたことないです。マッパーは目視でだいたいの距離が読めるのです。でもだいたいなので、すいませんです」

 

 キルロの疑問にフェインが答えてくれる。

 すげぇとキルロが感嘆の声をあげるとフェインは顔真っ赤にしながらワタワタしていた。


「こうやって私たちは歩いているだけだけど、マッパーの人達は常にマッピングしながら歩いているわけですもの、とてもじゃないけど真似出来ないわよ」


 ハルヲもキルロの感嘆に同意するとフェインの挙動不審ぶりに拍車がかかり、ワタワタが止まらない。


「ハハハ、いい加減止めてやらないとマッピング出来ないぞ」


 マッシュが笑いながら皆を諌めた。


 周囲の様子はハルヲがメモをしてくれている。

 普通の森とあまり変わらないが、たまに見た事無いような草花を見かけるとその都度メモをしていた。

 今回は目的地を目指すものではないのでゆっくりと歩を進める。

 前回と違う違和感をキルロは覚えた。


「ハルヲ、なんでエンカウントしないんだ?」

「そうね。言われてみれば確かにおかしいわね」

「シル、【吹き溜まり】って普通こんな感じなのか?」

 

 シルの表情から笑顔が消え、真剣な表情になっている。

 表情からは何かを警戒しているかのようにも見えた。

 気は抜けないって事には違いないのか。


「いや、以前の時はエンカウントが多くて苦労したわ」

「そうだな、ちょっとイヤな感じがするな」

 

 シルとマッシュも違和感を覚えていた。


「なんか甘い美味しそうなニオイがするよ」


 キノが目を閉じて漂うニオイの先を探す素振りを見せた。

 

「それは罠のニオイとしか思えないんだけど、やっぱり行かないとならんかな⋯⋯」

「だなぁ」


 マッシュの同意にキルロは嘆息する。

 全く、気乗りしない。誰もが罠だと認識しつつも、慎重にニオイの先へと歩を進めた。

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