第17話 家族1
それはシグが隣街の得意先へ魔機を納品した帰り道の事だった。
いつもなら日が落ちてから森を通る事など無いのだが、その日は客からの強い要望により食事に付き合う羽目になり、帰りが遅くなってしまった。
ブライトウィンの街から数キロ離れた所にあるこの森には隣町へ行くための通商用の道があり、昼間は多くの馬車や人が往来している。
しかし、一度日が落ちると、今日のシグのように夜に通過する商人を狙った盗賊が現れる危険な場所になる。
早く森を抜けたたいと思い、シグが馬にムチを打とうと腕を振り上げた時だった。
彼は少し離れた木々の隙間から、数人の人影を目撃する。
(チッ。やっぱりいやがった)
彼は咄嗟に馬車を停めて馬から降り、自分の周囲にも人がいないか確認するが、どうやら先に見えた者達以外は誰もいない様だった。
次に彼は補足した人影の正体が盗賊なのか確認するため、木々に隠れながら距離をつめていく。
(本当に盗賊だったら排除だな)
シグはとある理由で戦闘の腕にはそれなりの自信があり、数人の盗賊程度であればなんとでもなるだろうと考えていた。
そして、とうとう話し声が聞こえる距離まで近づいた時、ちょうど月明かりが差し込んで人影たちを照らす。
(は? あの女は馬鹿なのか?)
月明かりに照らされた人影達。それは五人の盗賊と一人の女。襲われているのだろう事は誰にでもわかる状況だった。
ただ、女の格好は露出が高く、夜の森では盗賊に襲ってくださいと言わんばかりのものだ。それを見てシグは思わず呆れてしまったのだった。
(面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。放っておくか……)
そう思って馬車へ戻ろうと後ろを向いた瞬間。
「キャァァァァ!!」
森に響く女の叫び声。
女は羽交い締めにされ、いよいよという状態。
「くそったれ!」
シグは悪態をついてから、何故か木の影を移動して彼らとの距離を更につめる。
そしてシグは見てしまう。女、いや少女の必死で抵抗する顔を。
シグの思考はそこで停止してしまった。少女の顔を見るなり反射的に、左右両方の腰に装着したホルスターから
シグにも何故咄嗟にそんな浅はかな事をしたのか分からない。しかしこうなってしまったからには、残りの三人も追い払うか、始末する必要があった。
シグは隠れていた木の影から姿を現し、残った盗賊を睨み付ける。両手の炎撃弩の照準は三人の内、少女に近い二人の男にしっかりと合わせながら。
シグ達商売人にとって、盗賊は流通の障害だ。減らしておくに越したことは無いが、此方は一対三人。腕に憶えがあるとはいえ、万が一シグとと同じように
シグは追い払うのが今は最もリスクが少ないと判断した。
「とっとと失せろ」
鋭い目で威圧し、その意図が伝わったのだろう。盗賊の一人が仲間に目配せをした後、負け犬独特の捨て台詞を吐いてから盗賊達は去っていった。
なんてはた迷惑なんだと思い、怒鳴ってやろうと女に近寄るシグ。
しかし少女は足元の死体を見てしまったのだろう、ショックを受けてその場に倒れ、意識を失ってしまったのだ。
このまま放っておくことも出来たが、そうすれば野犬や魔物の餌になるだろう。そうなれば助けた意味もなくなってしまう。
仕方なくシグは馬車に運んで家に連れて帰ろうと決め、その身体を抱き上げた。それはまだ十代と思われる本当に美しい少女だった。
容姿端麗なだけでなく、何か惹き付けられるような雰囲気。それが腕の中で眠る少女からは溢れ出ている。
シグはこの雰囲気にあてられて、ホルスターから武器を抜いてしまったのだと理解した。
馬車まで戻ると少女を荷台に寝かせ、急いで森を抜けるべく馬を走らせるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます