第9話 シグとの出会い3
「お前、日も暮れてるのに森なんかで何をしていたんだ」
(何て言えばいいんだろう。正直に異世界から来ましたー! なんて言って信じて貰えるのかな)
「ん? どうしたんだ」
「あ、あの、その、えっと……、記憶喪失なんです!!」
焦って咄嗟に記憶喪失であると嘘をついてしまうカレン。その焦りが伝わったのか、シグは、うーむと唸りながら暫くの間カレンを見つめている。
そして次にシグが思い付いたように言った言葉に、カレンはとても驚くのだった。
「お前もしかして転道者か」
「ゴホっ! ケホ、ケホ」
思わず飲み込もうとしたミルクに
その反応によって、シグは目の前の少女が置かれた状況を即座に理解したのだった。
「やはりそうなんだな。
普通の奴は日が暮れてから森になんて入らん。
あそこは盗賊にとって、商人達の荷馬車を襲うには持って来いの隠れ蓑だからな。
それに、お前は記憶喪失だと言ったが、名前はすんなりと答えているし、馬車の荷台でも寝言で人の名前みたいなのを呟いていた。
記憶喪失でこんな状況ならもっと錯乱するだろう」
シグの的確な分析を聞きながら、カレンはあまりにも浅はかな回答をしてしまった事を後悔した。
しかし、なぜ転道者を知っているのか。カレンにとっては嘘がばれた事よりもそちらの方が気になる。そんな疑問を口に出す前に、シグはカレンの意図を読んで話し出した。
「お前は来たばかりだから知らないだろうが、転道者は他にもいるぞ。
あと、歴史上の偉人にも多いな。
俺たちが今話してる言語も元はずっと昔に転道者が広めたそうだ。
ただし、転道者なのに殆ど言葉が分からない奴も居るみたいだがな」
どうりで言葉が通じる訳だ、と思うカレン。日本人の転道者が日本語を広めたのだろう。そして、日本人以外の転道者の場合は、日本語が話せないと言うことだ。
(というか、もしかして転道先の時代って、必ずしも元の世界で死んだタイミングと同じではないということ?
シグさんの日本語のレベルを聞く限りずっと昔から日本語が普及しているとしか思えない。私と同時に死んだとしても、今より過去にも未来にも転生する可能性が……?)
シグの与えてくれた断片的な情報を元に想いを巡らせるカレン。そして一抹の不安が頭をよぎる。
それだとカレンはこちらの世界で家族にも会えないし、憎き殺人者に復讐も出来ない可能性がある。
しかし、今は根拠のない不安に苛まれている場合では無いと、なんとか頭を切り替えてシグの言葉に耳を傾ける。
「ただし、今は転道者だとバレるのはあまり良くないな。これからは少し気を付けるんだ。
どちらかと言うと今の時代、転道者は嫌われてるからな」
そう言うと転道者が嫌われる理由を説明するシグ。彼によるとそれはリズと名乗る転道者の女が原因らしかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます