第8話 シグとの出会い2
「ついたぞ。降りろ」
男の声と同時に馬車が止まる。目の前には大きな外壁があり、その中へ通じているであろう門の横に沢山の荷馬車が停められている。男もそこに自分の馬車を並べて馬から降りた。
「ついてくるんだ」
このままついていっても良いのか、信用しても大丈夫だろうか。そんな不安に
(万が一には俺が助けてやるから取り敢えずついていけば?)
(さっきは寝てた癖に)
(さっき寝たから暫くは寝ないのさ)
カレンにはセロが万が一の時に本当に助けになるのかは分からなかったが、他に行くあてはない。目の前の男は無愛想だったが、不思議と悪い人間には思えない。
自分の直感を信じ、カレンは取り敢えず男に従うことにして荷台からおりた。
男の数歩後ろを歩き、外壁に作られた大きな門を潜る。すると中には大きな街が広がっていた。そこから十分ほど歩いてから男が唐突に立ち止まる。
「ここが俺の自宅兼工房だ」
そこには石造りの一軒家があり、カレンにとってそれは、元の世界でいう欧風の家のような印象を受けた。
(ここまで歩いて来る時の街並みもそうだったけど、日本とは違って以前行ったイタリアみたいな感じだなぁ……)
カレンはもう二度と行くことは出来ない土地を思い浮かべて少しの感傷にひたる。
「何をぼーっとしているんだ。早く来い」
男に促され家に入ったカレンは、一階のリビングの椅子に腰をかけるように言われてそれに従う。
男は部屋の明かりをつけ一度姿を消すと、しばらくしてから湯気の立つカップを持って再び現れる。
「飲むといい」
そう言ってカップをカレンに渡すと、男は正面の椅子に腰を掛けてカレンと向き合った。
カップの中には白い液体。ほんのりと甘い香りがして、カレンは此方に来てから何も飲み食いしていないことを思い出す。
そもそもどれくらいの時間がたったのか良く分からなかったが、歩き出してから森に入って暗くなるまで大体半日くらいは経っていた気がしている。
恐る恐る白い液体に口を付けるカレン。
「美味しい……」
口のなか一杯に甘さが広がり、長時間歩き続け疲れが溜まった身体が一気に楽になるのが分かる。
「それは牛の乳に
口調自体は無愛想であったが、やはりその声に優しさを感じるカレン。そして、ここで初めて彼女は男の風貌をちゃんと確認することが出来た。
髪は白髪、目付きは鋭く頬に傷痕があり、体格はスラッとしているが、その二の腕からはかなり筋肉質な身体をしていることがわかった。
年齢は三十後半から四十前半と言った所だろうか。
「俺はシグ=マクスウェルだ。お前の名前は?」
カレンがミルクを飲み干すと、男はミルクのおかわりと小さなパンを持ってきて、そして自己紹介をし、カレンにもそれを求める。
「私はカレンと言います。助けて頂いてありがとうございました」
カレンが改めてお礼を言うと、シグと名乗った男は至極当然の疑問を彼女に投げ掛ける。
「お前、日も暮れてるのに森なんかで何をしていたんだ」
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