失恋の色を教えて

結城十維

①私を振ってください!

 『恋愛』という言葉とは無縁の生活をしていた。

 17年ほど生きてきて、恋の色は知らない。

 かといって不幸なわけでもない。部活でのラクロスは私を夢中にしてくれるし、部員との関係も良く、毎日帰りに何処かに寄るのがお決まりだ。勉強もできる方ではないが、悪い成績ではない。

 華の女子高生としては、いささか枯れた価値観ではあるが、私は特に不満もなく、充実した、平凡な生活を送っていたのだ。

 今朝までは。

 

 放課後、校舎裏。

 普段なら、まっすぐにラクロスをするために校庭へ向かうのだが、今日は違った。

 本日朝、下駄箱に手紙が入っていたのだ。

 可愛い字だった。でも書いてあったことは衝撃的だった。


 『放課後、校舎裏に来てください』

 

 呼び出しの手紙。

 少女漫画、ドラマで嫌というほどやりつくされた展開。

 あまりにベタな場所で、絶好の告白スポットだった。


 でも、何故私なのだろう。


 普通、呼び出す側は女子で、呼ばれる側は男子なことが多い。

 背は少し高めで、可愛げのない性格だが、私、佐伯蒼はこれでも女子なのだ。女子の私が手紙をもらうのは、ちょっとどうかと思った。

 けど、ドキドキしないといったら嘘になる。

 今日は、授業に集中できず、休み時間中もずっと落ち着かなくて、友人に心配もされた。

 どんな人がくれたのだろう。カッコいい人?たくましい人?先輩、後輩?同級生?部活のラクロス部には女子しかいなく、幼馴染の男子がいるわけもなく、クラスに仲の良い男子もいない。多少会話はするものの、異性とのコミュニケーションが少ない私にとって、呼び出した相手は全く見当もつかなかった。


 不安と期待がごちゃ混ぜなまま角を曲がると、人がいた。

 相手も私に気づいたのか、背筋をピンっと伸ばす。


「き、来てくれてありがとうございます」


 けど、いたのは女の子だった。


「この手紙は、あなたが?」

「はい、そうです!」

 

 間違いではなかった。でも確かめずにはいられなかった。


「えーっと、女の私に何か用かな?誰かと間違えてないかな。私、よく男っぽいって言われるけど、いちお女性なわけでして。それに、わざわざ校舎裏って」

「あの、その、ですね。えーっと」


 顔を真っ赤にし、落ち着きがない。

 本当に人間違いではないのか。女の私にそんなイベントがあっていいのだろうか。

 ようやく意を決したのか、彼女がパッと顔を上げ、私を真っ直ぐに見る。

 その真剣な眼差しに、私は覚悟を決める。

 そして、彼女は告げたのだ。

 

「私を振ってください!」

「…………はい?」


 このシチュエーションにそぐわない言葉を。

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