68話:ポリス組織『アマノジャク』の幹部を追え! その3

――酒池肉林に騒ぐ者達の奏でる喧騒の中で。


「はぁ……いやになっちゃうなぁ……」


 あの時に起きた出来事はヒヤヒヤする思いの連続だった。今はこうして仕事だけど高級品のソファーに座り、足を組んで高いお酒が注がれたグラスを片手にリラックスして居られる。煙草は客に勧められたけど健康的じゃないし吸わないから断った。まぁ、いま相手しているお客は私の声の力で魅了されてメロメロの状態だ。もちろん手を触れさせるわけにはいかないから。触れて良いのはあの子だけと心に誓っているから。


「お客さん。私にお触りするのはダメ、だからね?」

「うんうん、僕ちんリズちゃんのいうこと何でも聞きましゅ!」

「よしよし、いいこいいこ」


 中年男の相手をするのもそろそろ飽きてきた頃だなぁっと思いながらも、今頃ルナさんと一緒に行動している彼の事を想像してみる。あの特等席から見えていた彼の勇姿はとても興奮したし格好よかった。


「ちょっとごめんね。他のお客さんからご指名が入ったみたいだから今日はここで失礼させてもらうね~」


 とりあえず何を言い返してきたのかなんて気にせずにその場に立ってそそくさと裏方の方へと入った。


「ルナさんと比べてロッソ。いったいどこで油を売っているのかしら!」


 このままだと女幹部の言いなりになって、ずっとこんなふざけた水商売をする女を演じ続けないといけないじゃないの! 1秒でも彼と会いたくて仕方が無いのにどうしてやろうかしら……!


――2時間前。闘技場の特等席。


「ドゥヒッ!? 一体全体どういうことだぁっ!? 僕ちんの大事なモンスターがあの黒服カップルにやられちゃっただなんて!?」


 ポリス組織「アマノジャク」の幹部であるアルマは試合の結果を目の当りにして驚いている。


「あ~んどういうことですぅ~?」

「リリィ、すこし演技がすぎる」

「いいじゃない」

「ドゥヒッ、ごめんよぉリズちゃぁん。どうやらあのやられ役共が勝手なことして狩っちゃったみたいなんよぉ~。次の試合はもっと楽しめると思うから、それまでの間。僕ちんと楽しいことをしようよぉ」


 室内に設けられている別室の部屋を指さすアルマを見て、リリィは適当にあしらうことを考えた。


「え~、そういうのぉ私は嫌いだわぁ~」

「いいじゃないか、いいじゃないか」

「ウザいからその場で大人しく座ってくれない?」


 軽く声の力を使って制御はしていたがアルマの精神力は少し強かった事もあり、リリィは語気を強めてアルマの精神支配を試みた。なお、近くにいたロッソは直ぐに耳を手で塞いで、彼女の力から身を守る態勢をとっていた。


「ごめんよリズちゃぁん。ちょっとおいたが過ぎたみたいだね。僕ちん大人しく座ってるね。ドゥヒッ」

「そうそう、いいこいいこよ」

「終わったか?」

「ええ、これでいつでも撃ち殺せるわ」

「その前に情報収集しないといけないな」

「任せて」


 と、いつもの様に声の力を使った尋問を始めようとしたリリィだったが。


「アルマ。ここに居たのか。随分と探したぞって、アルマ……?」

「――っ!?」

「…………」


 アルマの耳元に囁こうとしていたリリィは突如開かれた扉に驚き、ロッソはその場で平常心を取り繕ったまま、無言でじっと立っている。


 部屋の入り口付近に、高級品の赤いドレスに身を纏う30代くらいの派手な姿の女が不思議そうな顔をしてその場に立っていた。

 

「ん? あんた達なんだい? アルマの女なのかい?」

「だっ、誰よ?」

「誰? そんな事を聞くとはもしかしてこの街に来たのは初めてなのかい?」

「ええ、つい最近アルマ様のお側に居させて頂くことになったばかりのものなので……」

「へぇ、アルマの奴。なかなか上玉の女を側に侍らせようとしていたのか。ねぇ、アルマ。その子。ウチの店で働かせたいんだけど」

「ええっ!?」


 突然現れた女に引き抜かれようとしているリリィ。驚く素振りをしながら内心は面倒事が増えてしまったと悪感情を抱いている。


 引き抜きの話を持ちかけられたアルマはただボーッとして何も返事をしない。このままだと自分達が怪しまれると思い、情報収集がしたかったが、リリィは行動に移すことにした。


「アルマ様ぁ、私。いまからあの女の人の持ち物になっちゃいますよぉ~」

「なぬっ!? それはダメだジェスタ!! リズは僕ちんの大事な女の子だ!! たとえお前がボス直轄の幹部であっても。愛する女を取られるなら。組織を裏切ってでもこの子を守り抜いてやるぜ!!」

「きゃー、かっこいいアルマ様ぁ!!」


 とはいいつつも、リリィは気持ちの悪いことを言ってくるんじゃないわよと、取り繕った笑顔の裏でそう苛立ちを募らせている。


「そう、だったらその言葉通りの事をしてあげるわ。組織を裏切ると言った以上。アマノジャクはお前を抹殺する覚悟で処罰させてもらうわね」

「なっ、なにをするんだお前らっ!! くそ、は、な、せぇ!! ああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 アルマはジェスタを護衛していた男達に連れられて何処かへと行ってしまった。この部屋に残されたリリィとロッソは彼らの非情な組織の体制に対し、自分達もあんな風にならない組織に居て良かったと安堵の表情を浮かべていた。


「あ、あの。ジェスタ様……」

「ああ、ジェスタで良いわよ。リズちゃんだっけ?」

「はい、リズでございます」

「そう、リズね」

「あの、ありがとうございます……」

「ん? どういうことかしら?」

「実は――」


 リリィは声の力を使って、相手に嘘の事実を告げて心の奥深くまで信じさせることに成功した。力の支配下におかれたジェスタは少し違和感を感じながらも、彼女の話を聞きながら時には同情し、時には涙を流していた。なお、ロッソも巻き込まれたくなかったのでまた耳を両手で塞ぐ手段を執って防御していた。


「じゃあ、よかったらウチの店にこない? せっかくの何かの縁だ。そこで働いてなりたい自分になればいいさ」


 アマノジャクのボス直轄の幹部に接近できる機会だと思ったリリィは、


「喜んでジェスタ様のお誘いを受けさせて頂きます!」

「で、そこの男は連れなのかい?」

「えと、ただのボーイさんです」

「ふーん」

「…………」


 ロッソ、ジェスタの品定めを前にして言葉1つ返すこともせずに直立不動の姿勢で立ち尽くしている。


「屈強そうなガタイをしているみたいだね。顔は残念だけどお客を怖がらせてしまうかもしれないからだめね。あなたが女だったら話はべつだったのだけど」

「できれば彼も連れて行ってあげてはいかがですか?」


 と、リリィがロッソのフォローをいれたものの。とある理由を前にしてその言葉通りにはいかなかった。


「悪いけど。私の竜車に男は乗せられないからダメね。ごめんなさいね。また今度にしましょう」



 ロッソは幹部の女のお眼鏡には叶わず、そのまま闘技場から追い出されてしまうこととなった。

 その時、ロッソはジェスタに対して反撃をしなかった。その事をリリィは有能的だと彼を評価した。幹部の女からは強者独特の臭いが漂っていたからである。


 こうしてリリィと幹部の女であるジェスタを乗せた小型肉食竜種の高級竜車は、別の場所へと走り出し、彼女は単独で行動する事になったのだった。







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