10話:ヘビィーガンナーの美女ミステル

 小休止を終え、再びグレゴールワイバーンと対峙することを再開した。

 戦場はエリア2で開けた森林で囲まれた小さな草原地帯だ。


「はぁあああああああ!!」


――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――


「…………」

「カリト君! やつの目玉にめがけて貫通弾で狙い撃つんだ! 前衛は私に任せろ! 私が全力で壁になるからはやく!」

「何考えてるんだよあんたは!? 後衛のヘビーガンナーが前にでるって正気かよっ!?」

「それでも前にアサルトやサブガンナーがいなければ私がやらないといけないんだ!!」

「そんなっ!?」

『グゥェエエエエ!!』

「ミステルさん前!」

「あっ」

「危ないッ!」


――ズドン!


『ギュウウウウ!?』


 間に合った……! 俺が咄嗟に狙って撃った銃弾がグレゴールワイバーンの目の近くに直撃したようだ。出血はしていない。となると跳弾した可能性がある。それに驚いて反射的に怯んだと考えるべきか。

 グレゴールワイバーンは邪魔されたことで怒りを覚えたようで、俺に睨みをきかせながら威嚇して身構えている。


「ミステルさん! 自分が奴のヘイトを集めておきます。あなたは背後に回って挟撃の準備を……!」


 1人ではできない戦い方が実現できる。チャンスはいましかない。


「あぁ、任せてくれ! その役は私が引き受けたわ。はぁああああああああ!!」

「はぁああああああああああぁ!?」


 いや、なんで命令拒否されたんだよ……。まぁ、いいか。彼女の武器なら適任かと思い直して気持ちを切り替えよう。俺がその役に回ればいいわけだし。


「30秒耐えてください!」

「もちろんだ! 30秒なんて物足りない! こいつなら余裕で24時間はいける自信がある……!」

「おぉ……頼もしい……です……」


 消耗戦に強いタンク職の人間てこんなもんなのか……凄い……。 


『ギュゥオオ!!』


 3つの粘液弾による面制圧攻撃がミステルさんに襲い掛かる。それを彼女は軽々と左右に素早い動きで回避していく。


「すげぇ!」


 こうしてはいられない。俺も背後に回って支援狙撃をしないと。


「貫通弾を使います……! 流れ弾に気をつけてください!」

「了解した!」


 グレゴールワイバーンの背中に回り込み、その場で片膝を立てるようにニーリングの姿勢になり、防具に取り付けてある弾倉ポーチから貫通弾の入った弾頭を手に取り出して、銃に装填されている通常弾と入れ替える作業を始めた。


――ガシャガシャガシャガシャ。チャキチャキチャキチャキチャキガシャン。


 ボルトハンドルを何度もひいて排莢口から全ての弾を吐き出す。そこに貫通弾の弾を装填する作業をして槓桿を押し込んで装填を完了させた。


「ふぅ……」


 呼吸を整えて全身の力を抜くイメージを頭の中で思い描く。こうすることで精密な射撃が可能になり、ボルトアクションライフルの特殊スキル『クリティカルワンショット』が作動する。


「敵の頭……」


 貫通弾はその名の通り、着弾してから体内を貫いて重い一撃をターゲットに与えることができる特殊弾だ。うまく敵の脳に当れば即死攻撃が狙える。


「カリト君! そっちにそいつの顔を向けさせるぞ!」

「了解です……」


 俺は完全に完全集中状態に入っている。目の前のグレゴールワイバーンの頭の中にある脳を狙い撃つ事だけしか考えられない。


――ブシャァ!


「…………」


 粘着弾が右側ギリギリを通り過ぎていったが無視する。そして。


「狙い撃つぜっ!」


――ズトンッ!


『ギュゥァアアアアアア!?』

「ちっ! 外れたか……!」


 残念なことに俺が額にめがけて狙い撃った弾は、奴の顎に着弾して弾かれてしまった。まるで戦車を開いているような感覚だ……。命中精度の低さがここで来るだなんて……。俺の腕は未熟なのか……? ふと。


「気を抜くなルーキー!」


――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!


「はっ、はい!」


 ミステルさんが俺の様子がおかしいと思ったのだろう。すると。


「くっ、リロードッ!! 援護をお願いカリト君!」

「りょっ、了解です!」


 ヘビィーマシンガンに装填されていた弾薬がなくなってしまったようだ。援護をしなくては。だが、それを察してグレゴールワイバーンが彼女に襲いかかろうとしている……!


「ミステルさん避けてください!」

『ギュアッ!』

「……うざっ!」


――ブシャァ! ブシャァ! ブシャァ!


 横一列の粘液弾がミステルさんに襲い掛かる。ミステルさんは手に持っていた銃をその場に置き、巧みなフットワークで身軽に避けていく。もう、その動きは上級ハンター《ガチ勢》そのものだ。――だがしかし。


「あぁ!?」

「――ッ!?」


 グレゴールワイバーンがおまけにもう一発の粘液弾を放った。それもいやらしく狡猾な一撃を。


「くぅ……!?」

「ミステルさん!」

「大丈夫だッ!!」

「でも、ミステルさんの防具が……!」

「私の身体はどうなってもいい!! むしろウェルカムだ!! だが、私の大切な武器を傷つけようとした奴の所業は絶対に許さないッ!!」

「ミステルさん……」


 グレゴールワイバーンが仕掛けた卑劣な一撃。ミステルさんが回避行動を取った際に、彼女は地面にヘビィーマシンガンを置いていた。それを狙ってグレゴールワイバーンはずる賢くもヘビィーマシンガンにめがけて粘液弾を吐いたのだ。

 彼女は自分の大切な武器を傷つけられたくないという強い思いがあったのだと思う。自分の身体を犠牲にしても守りたかったんだろう。だけど。


「これが粘液の感触……はぁ……はぁ……いい……」

「ミステルさん薬焼けしているじゃないですか!? はやく治療をしないと……!!」


 彼女の顔に薬の火傷と似た症状が出ている。このまま放っておけば深い傷になるな……。それを聞いてミステルさんは。


「あぁ……そうだな……」


 恍惚とした表情から一転。素の顔になって腰元のポーチから緑色の綺麗な薬瓶を手元に取出して、そのままふたを抜き取ると。頭上に瓶を逆さにしたまま掲げ、彼女は流れ出てくる液体を全身に浴びるようにかけていく。


「……なかなかいい感触だったわ……」

「すっ……すげぇ……これが強者の余裕ってやつか……」

「さぁ、ここからが私のターンね」


 それは反撃に転じる時に使う勝利宣言の言葉だった。

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