8話:息をするように命を賭けて戦う

 撤退行動に移ってからの流れは危険がいっぱいの連続だった。そして今はベースキャンプ手前のエリアで激しい防戦が自分の前で展開している。

 逃げる場所が1箇所しかない以上、このままキャンプに逃げ込んでしまえば身の安全が保証できない上に、後方の人達に迷惑が掛かる事態になってしまう。


「ここで食い止めるんだ……!」


 敵の粘液弾が正面に襲い掛かってくる。それを横に転がって回避する。


――ジュゥ。


 粘液弾が着弾した箇所からは白い煙が上がっており、そこに自生していた草や花が一瞬にして溶解し液状化現象と共に霧散していった。あそこにいたら自分もああなっていたのか……。それと共に。


「つばを吐きかけて本当に下品だなっ!」

『ギュウ!』

「おら痛いかこの野郎ッ!」


 銃を構えて追い打ちをかけていく。グレゴールワイバーンの肉質はそれほど堅くないようで、容易に銃創を負わせられている。


「くっ、弾切れか!」


 銃の中に装填できる弾薬の数は通常弾で5発だ。銃の種類にもよりけりだが、構造の関係で俺の持っているお古の銃にはそれくらいしか弾を込めることしかできない。

 

「いまは弾込め中だってのッ! 邪魔すんな!」


 再装填作業中なのにグレゴールワイバーンが邪魔をしてくる。俺より一方的に襲い掛かられるのは大っ嫌いなんだよ! 気持ちよく狩がしたいんだ!! だが。


『グアッアッ!』

「うおっとっ!!――くそったれ!!」


 グレゴールワイバーンが舌で俺の顔面にパンチ攻撃を仕掛けてきた。その攻撃に思わずその場でしゃがみ込む。そして。


「ガッハァ!?」


 お腹にくる鈍痛。視界が暗転しそのまま後ろへと吹き飛ばされてしまった。


「い……たい……っ! ゴホッ!」


 朝食べた飯が逆流してきそうだ……。悶絶しながらグレゴールワイバーンの姿を観察すると片足立ちをしていた。どうやら上げている足の方で俺を蹴り飛ばしたらしい。奴の顔を見ると直撃させたことが嬉しかったようで笑顔を浮かべている。さらに。


『ギョェェェェェ!!!!』


 グレゴールワイバーンが後方へと翼を動かして跳躍。そのまま俺に狙いを定めて粘液弾を発射する態勢を整えだした。つまり。


「はっ、走らないと……! 間に合わない!」


 身体が衰弱している内に捕食対象の俺を殺すつもりだろう。それはまずい。グレゴールワイバーンが吐き出す粘液弾のスピードは、豪腕投手が投げる剛速球と同じ速さをもっている。威力は桁違いだ。すこしでも当らない為にも、ジグザグに動きながら距離を保ちつつ走り続けないといけない。


「……死にたくねぇ!!!!」


 初心者の時を思い出しながら全力疾走のダッシュ。少し時間が合ったので幾分か腹の痛みは治まっているのが不幸中の幸いだ。だが足の動きがいつもより鈍く感じるのが否めない!! 明らかにピンチだ……!!


「こっ、こんなときに俺。びびっちまってるのかよ……!」


 ここの中に恐怖が住み着いている。それに打ち負けている自分の心理状態。そして。


――ドォゥン!


「あっ、あっ……」


 

 俺の耳元を横切るように粘液弾がかすめていった。流し目で見るべきじゃないインパクトがあった。もう最悪だ……!!

 その場で尻餅をついてよろけてしまった。あたらなくて良かった……ははっ……。そして。


『ギュルルゥ。グエッ、グエッ!』


――ノシッ、ノシッ、ノシッ。


「あっ――くっ、来るなぁああああ!!!!」


 座ったまま銃を構えて引き金を引いたがカシャンという金属音しか聞こえてこない。……弾を装填できていなかった事を思い出した。


「ああ、もう詰んだな」


 そう思ってだらり腕の抜いて戦意が挫けた。あとは食われるだけか……。短い異世界生活だったな……。これが弱肉強食なんだ……。


――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!


 ふと。


『ギュゥアアアアアアアアッ!?』

「へっ?」


 えっ……銃声……?? いったい目の前で何が起きているんだ? 


「はやく今のうちにッ! スモークグレネード! そこで座り込んでいる男の人! はやく私とスイッチングしなさい!! 私の機関銃の弾幕の餌食になるわよ!!」


――ボシュゥウウウウ!!――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!


『ギュルルゥ……!!!? ギュウ、ギュウ、ギュウ!!!!』

「ゴホッ、ゴホッ! って、うあっ!?」


 白い煙の中。俺の身体が細身の腕に抱き上げられて、そのまま肩に支えられることでようやく立つことができた……。そして。


「一旦ベースキャンプにいくわよっ! 急いで! あいつが横に倒れて苦しんでいるスキに!!」


 よく聞くと隣にいるのは女だ。それも透き通った美声をしている。だが、容姿は煙で何も見えない。


「あんた誰だよ!?」

「あなたと同じ同業者よっ!」

「えっ」


 それは思いがけない出会いだ。同じハンターに出会うだなんて。てか、何で同じハンターがここに居るんだっ!?

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