第24話 最前線
馬車が走り出すと、オレは正面に向かって剣を構えた。
「ふぅーーーーー」
大きく息を吐き、足に力を入れる。
魔物たちとの距離が縮まり、だんだんとその姿が大きく見えてくる。
『そろそろよ。射程に入ったら合図するから、思いっきり振って』
「分かった」
そうだ。今は格好は気にしなくていい。
とにかくありったけの力を込めて剣を振るう。それだけでいい。
自分が出来ることをする。そうやって魔力タンクとして生きてきたんだ。いまもきっと、出来るはず。
『今よ!』
「せやああぁぁーーーっ!!」
ティルの合図を受け全力で剣を振り下ろす。
すると、そこから今まで見てきた以上の大きな斬撃が放たれた。
瞬間、一気に体から魔力が抜けていく感覚に襲われ体が傾く。
「くっ……」
『無尽蔵とはいえ、いつもより多めに魔力を吸ったからちょっと体が追いついてないかもしれないわね。でも、見なさい』
「え……」
先ほど放った斬撃が多くの魔物たちを薙ぎ払い、次々に消滅させていく。
そして、道が開いたその先にセントシュタットの兵が戦っているのが見えた。
向こうもこちらに気付いたのか、旗を振っているのが確認できた。
「突っ切るぜ!」
御者の人が手綱を操り、馬車はさらに加速する。
一方でオレ達の存在に気付いた上空のガーゴイル部隊は、キィキィという不気味な鳴き声を上げながら一斉にこちらに向かってきた。間近で見るとそのスピードは思ったよりも早い。
「エレノア、クロエ、頼む!」
「任せろ!」
「はい!」
二人が馬車の両脇から弓を構え、ガーゴイルに向けて発射する。
エレノアはさすが軍人というだけあって弓の扱いも大したものだった。
セントシュタット兵が当てるのに苦労していたガーゴイルにも、正確に弓を射かけている。
そしてクロエの方も自信がないと言っていた割には精度の高い射撃を行っていた。
魔法も使え、武芸の才能にも秀でている。やっぱり彼女は大した器だ。
「オレも二人に負けてられないな……」
さっきの斬撃で一度は割れた魔物のたちの群れが、また元に戻ろうとしている。セントシュタット兵もなんとか道を開こうとしているみたいだが、長い戦いで疲弊しているせいか思うようにはいっていない。
やはり、こちらからもう一度道を開くしかないか。
「ティル、もう一撃いく!」
『さっきのと同じ威力は期待しないようにね。吸っていた分はあれで全部使い切ったから』
「その分回数振ればいいってことだろ?」
『ま、間違っちゃいないわね』
「上等!」
剣を再び握り直し、続けざまに斬撃を放っていく。
その度に魔物たちが消し飛び、徐々に街を守るセントシュタット兵が近づいてくる。
そんな中で、オレは次の一手を考えていた。
もしこのまま街へ一直線に向かってしまえば、せっかく援軍が来たことで上がったであろうセントシュタット兵たちの士気が下がってしまうかもしれない。
しかし事前の打ち合わせでは街に一直線と言ってあるし、何より御者の人とサーニャは安全な場所に移したいという思いがあった。
(戦況は……)
さっきまでは押され気味だったはずだが、徐々にセントシュタット軍が押し返しているように見える。この状況を維持できれば、この戦いについては勝つことが出来そうだ。
あとはいかに士気を下げずに、馬車を街まで移動させ、かつ戦闘に勝利するか。
「フリッツ、どうする? 一度セントシュタット兵と合流するか?」
「いや、エレノアは打ち合わせ通りガーゴイルに注意しながら街までみんなを送ってくれ」
「では、お主はどうするつもりだ?」
「それはな……」
足りない頭で考えたけど、三つの条件を満たすのは難しかった。だから、
「とうっ!」
オレは思い切って馬車から飛び降りた。
ちょうどセントシュタット兵が戦っているあたりに着地することに成功する。
……足がめっちゃ痛いけど、それは今は考えないことにする。
「フリッツ!?」
遠くでエレノアの驚く声が聞こえてきたが、さすが加速魔法のかかった馬車。
あっという間に離れていく。これなら街までも直ぐにつく頃が出来るだろう。
それよりも、だ。
「き、貴公……援軍か?」
一人のセントシュタット兵が声をかけてきた。
胸の勲章を見るに、そこそこの地位についている軍人なのだろう。
適当に飛び降りたのだけど、士気に影響のある人のところに降りれてよかった。
「えぇ、ブレーメンから援軍に来ました」
「しかし、単独とは……先ほどの馬車は?」
「あれにも仲間はのっているんで心配しないでください。でも、とりあえずここはオレが」
「助かるが……一体どうする?」
「それはですね……」
話ながらもティルに魔力を伝えていく。
そして分かりやすいように剣を天に掲げると、そのまま一気に振り下した。
「せぇい!」
一閃。それだけで数十の魔物たちを巻き込み切り裂いた。
そして矢継ぎ早に別の群れに向けて二撃、三撃と放っていく。
魔物たちはだいたいが中位以下の魔物で構成されていたのか、斬撃の射線上には何も残ることはなかった。
「おぉ……なんて強さだ……。この戦い、勝てるぞ!」
「勝てる……勝てるんだ!」
「行くぞ! 俺達も続くんだ!」
そしてこういう分かり易い強さが、戦場で士気をあげるのにもっとも効果的であることをオレはさまざまな冒険を経て学んだ。だからちょっとばかし芝居っぽく戦ってみたけど、やはり効果的だったようだ。
「貴公は……一体?」
「すいません自己紹介が遅れて。フリッツ・クーベル。魔法使い……じゃなくて、魔剣士です」
「魔剣士……聞きなれぬ職業だが今はよいか。私はヘインズ・クラッド。セントシュタット第二師団長だ。フリッツ殿、助太刀感謝いたす」
「今の調子でいけばこの戦いはなんとかなると思うんですけど……この後また敵の増援はきますかね?」
「……ほぼ間違いなく来るでしょうな。今までがそうでした」
「間違いなく、ですか」
なんとなく予想はしていた。
これだけ中位の魔物が群れを成して人を……それも一国家を襲うなんてことは早々ない。
あるとすれば、魔物たちの後ろにはさらに上位の存在が控えている場合だろう。
「背後にいるのは上位の魔物……しかも悪魔種でしょうか?」
「我々もその存在を疑っています。しかしまだ姿を見せていないので確信が持てないのです」
ヘインズさんと再び戦いに視線を戻す。
士気の上がったセントシュタット兵が魔物の群れを押し返し、完全に戦況が逆転した。
それを不利と悟ったのか、魔物たちは一斉に引き返していく。
それは高い知能を持った悪魔種特有の行動だった。
知能のない魔物はこういった統率の取れた動きを取れない。
それだけに上位の悪魔がいるとなるとかなり厄介になる。
「追撃はしますか?」
「いや我が軍も満身創痍の状態ですから、一度街に戻り大勢を立て直す必要がありましょう」
「分かりました。では、オレも街に向かった仲間と合流しに行きます」
「街までご案内いたしましょう。皆の者、引き上げるぞ!」
「「おぉーー!!」」
ヘインズさんの号令一下、兵士たちは勝鬨をあげながら撤退していく。
しかし見る限り負傷していないものは誰もいない状態だった。
さらに魔物たちが引き上げてわかったことだが、この戦いでかなりの犠牲者が出たようだ。
あと来るのが一日遅れていたら……そう考えると思わず背筋がゾッとした。
だが、これで終わったわけではない。
上位の悪魔が控えているとなると明日はもっと大軍勢がくる可能性がある。
そうなると例えティルがいようとも決して油断できない状況といえるだろう。
分かっていたことだけど、かなり厳しい戦いになりそうだ。
とにかく今は街で現状を確認してから王に会って、足りないものの把握と、明日からの作戦と……考え始めたらやることが多すぎてきりがない。それでも、
「やるしかない、か」
自分から志願してこの戦場に来たのだ。中途半端なことは出来ない。
それに、ある程度ならどうにか出来る力を持っているのだ。だから――
「頑張らなきゃな」
街を目指しながら、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
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